Share |

トランプ大統領の考えと同じ日本の大企業製造業

パウエルFRB議長が2月27日、下院での議会証言で強気の景気判断を示したことによって、対ドルで円は107円台に下落したが、3月1日にトランプ大統領が鉄鋼とアルミ製品に関税を課すことを表明、さらに黒田日銀総裁が国会での所信聴取で金融緩和の出口に言及したことが、円高ドル安に拍車を掛け、105円台まで急騰した。1ヵ月で円ドル相場は4%も円高に振れたが、ユーロやポンドなどの欧州通貨は軒並み対ドルで安くなっている。2月のユーロHICPが前年比1.2%と3ヵ月連続で伸び率が低下するなど、物価はECBの目標とは反対の方向に進んでおり、金融緩和継続観測が欧州通貨安を誘っている。

3月9日(金)には2月の米雇用統計が公表されるが、雇用者数の前月比増加数は1月(20万人)程度、賃金の前年比伸び率も2.9%と横ばいと予想されている。賃金が3%を超えることになれば、債券利回りの上昇と株安という2月の事態が再現されるかもしれない。

2月の米消費者信頼感指数は2000年11月以来の水準に上昇し、1月の個人消費支出は前年比4.4%、可処分所得は4.0%それぞれ伸びている。一方、個人消費支出物価指数(食品・エネルギーを除く)は前年比1.5%と落ち着いた状態を持続しており、急速に物価が上昇する状況ではない。2009年からの米景気拡大は9年目に入り、終盤に差し掛かっているが、物価の安定と程よい消費よって、実体経済に加熱の兆候はない。

問題は超金融緩和の落とし子である株式や債券といった金融バブルである。NYダウの先週末値は1月26日の過去最高値を7.8%下回っている。大統領選でトランプ氏が選出されてから株価は大幅に上昇したが、気まぐれで自己中心主義のトランプ大統領は自らの政策で墓穴を掘る可能性は高い。関税にしても対抗措置が取られ米国経済が打撃を受けることになり、株式に悪影響を及ぼすことになるだろう。自分で仕掛けたことが自分に跳ね返り、いずれ関税も米国経済を混迷させることになるのではないか。

日経平均株価の直近高値からの値下がり率は12.2%とNYダウを上回っている。米国経済よりも日本経済がより不安なのだろうか。2月末に1月の『鉱工業生産』が公表されたが、生産は前月比-6.6%の99.5(2010年=100)と大幅に低下、昨年1月以来の水準だ。輸送機械工業が前月比14.1%も落ち込んだことが影響した。

2016年の輸送機械工業の生産は前年比1.3%だったが、2017年は6.1%も伸びた。ただ、昨年8月を底に在庫は増加しており、12月の在庫は前年比22.4%増であった。2017年の年平均円ドル相場は112.33円(2016年108.95円)と円安ドル高であり、自動車輸出には為替差益が発生していた。だが、2月の国内新車販売は前年比4.9%と昨年10月から5ヵ月連続の前年割れだ。しかも今年1月以降の円高ドル安が加わり、輸出も厳しさを増している。2月の輸送機械工業は前月比大幅増と予測されているが、国内需要の低迷と円高ドル安により、計画は未達に終わるだろう。

2016年央以降、鉱工業生産指数は上昇してきたが、昨年末にはピークを付け下降に転じたようだ。今回の鉱工業生産の回復は機械工業が牽引した。昨年12月の生産用機械工業生産指数は151.0と突出しているし、輸送機械(船舶・鉄道等を除く)も116.5と好調だった。財別では資本財(輸送機械を除く)が好調であり、昨年12月の生産指数は126.2であり、前年比では9.8%に上昇した。世界経済の拡大に伴い、1月の半導体製造装置や工作機械の輸出は引き続き好調だが、このような高い伸びはいつまでも続くわけではない。

『法人企業統計』によれば、昨年第4四半期の全産業全規模の設備投資は前年比4.3%であった。大企業(資本金10億円以上)や中堅企業(1億円以上10億円未満)は3.7%、12.8%それぞれ伸びたが、中小企業(1億円未満)は横ばいだった。第3四半期、中小企業は7.7%と高く、マイナス1.4%だった中堅企業の設備投資を考慮すれば、昨年上半期の設備投資の伸びは中小が中堅よりも大きく、大企業は2%に満たない低い伸びであった。

昨年第4四半期の営業利益をみると、前年比プラスは大企業だけで中堅と中小は前年割れである。大企業は22.5%と前期並みの高収益を稼ぎ出しているが、中堅企業は昨年第1四半期(20.6%)、中小企業は同第2四半期(27.7%)をピークに鈍化し、減益に転じた。設備投資は将来の期待収益率に依存するため、これからの設備投資マインドは弱くなるだろう。棚卸資産も前年比6.8%と3四半期連続のプラス、内訳をみると、最初に積み上がりやすい原材料・貯蔵品が11.4%と2四半期連続の2桁増となっている。

全規模全産業の営業利益は前年比9.0%伸びたが、人件費抑制が寄与していることは間違いない。売上高は前年比5.9%も伸びているが、人件費は3.7%に抑えられているからだ。4四半期連続で人件費が売上高の伸びを下回っているのだ。なかでも従業員給与は3四半期連続で高くなってきたが、それでも3.4%にとどまっており、人件費抑制で利益を出す構図は変わっていない。

大企業でも事情は同じだ。昨年第4四半期の売上高は10.8%も増加したが、人件費は8.5%と売上高の伸びより2.3ポイントも低い。大企業の人件費がこれほど伸びたのは1991年以来約26年ぶりである。人件費拡大といっても昨年第2四半期以降のことで、それまではプラス・マイナスの繰り返しであった。たとえば、第2次安倍政権が誕生した2012年第4四半期と2017年第4四半期の人件費を比較すると、9.9%しか増加していないのだ。5年前でも1年前でもほとんど変わらないのである。

特に、大企業製造業の人件費は過去5年間で2.2%と1年前の2.3%を下回るという有様。従業員給与に限れば1.1%の微増である。過去5年間の売上高の伸びは4.9%と低迷していたが、原価を0.4%削減したため、営業利益は132.5%も拡大した。人件費に金を掛けず、中小企業などに厳しい値下げ要求を突きつけ原価を下げる、こうした力に物を言わせる遣り方で利益を拡大してきたのだ。その結果、過去5年間で利益剰余金は27.8兆円増加し、昨年12月末の純資産は159.6兆円、32.4兆円も増加した。豊かな自己資本により、金融機関からの長短借入金は5年で6.7%減少した。

トランプ大統領と同じで自分が良ければ良いという考えである。こうした大企業製造業の経営方法では日本経済は沈むばかりだ。利益がでればそれなりに人件費を増やし、購入先に妥当な価格で支払をする。必要な経費を支出することで受け取る企業も支出することができるのである。給与を増やすことによって物やサービスは需要され動いていくのだ。大企業製造業は「我が社第1」の今の政策を変えなければ、自らの存在さえも危うくする。

関連資料サイズ
180305).pdf416.83 KB