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実体経済との乖離が過去最大になった米株式

週末、S&P500は過去最高値を更新した。8月の非農業部門雇用者数が前月比14.2万人と予想にとどかず、昨年12月以来の低い伸びにとどまったが、ゼロ金利政策の長期化が期待できるとの株式関係者の楽観的見方が優勢になった。株式関係者にとっては、米雇用統計などどちらに転んでも株式に都合良く解釈できるのだ。8月末のS&P500は前年比22.7%、ナスダックは27.6%も上昇している。4-6月期の企業利益は前年比4.5%の低い伸びにもかかわらず、FRBのゼロ金利継続で過去最高値の更新を繰り返すほど高騰しているのだ。米株式は実体経済から離れていくばかりであり、ユーフォリアに浸っているといえる。

過去最高の更新によって、現時点の米株式価額は36.8兆ドルに膨れた。4-6月期の名目GDP(17.3兆ドル)の2.13倍の規模である。3月末に2倍を超えたが、これまでの最高はITバブル期の2000年3月末の2.04倍だったが、6月末にはこれを突破し、今は2.13倍と過去最高を更新している。2008年の金融危機以前のピークは2007年9月末の1.83倍である。その後の株価急落で、2009年3月末には1倍割れまで低下したが、ゼロ金利等を背景に、株価の上昇は目覚しく、GDPの伸びを大幅に上回り、株式価額・名目GDP比率は急騰した。バブル期にはいつも実体経済に対して株価は過剰に反応し、株式価額・名目GDP比率の急上昇がみられる。過去最高を更新していることは、株式の行き過ぎを示しており、現状は株式バブル期にあることを物語っている。

家計の金融資産・可処分所得比率も昨年12月末、5.27倍と従来の最高である5.15倍(2007年9月末)を上回り過去最高を更新した。今年3月末の家計金融資産は67.2兆ドル、2009年3月末の45.7兆ドルを底に、2011年3月末には55.5兆ドルと過去最高を更新、底から今年3月までの増加額は21.5兆ドルである。ちなみに、日本の4-6月期名目GDPは年率487兆円であり、1ドル=100円で換算すれば3月末の米家計金融資産は6,720兆円(日本の家計金融資産は3月末1,630億円)と日本のGDPの14倍近い。3月末の前年比増加額は5.7兆ドルと1年間で日本のGDPを上回る金融資産が増加している。金融資産が増大したのは株価の上昇による株式価額の増価と株式運用の投資信託や年金基金の増価などによる。株式の値上りは米金融資産を拡大するもっとも手っ取り早い方法なのだ。金融資産の株式依存度が高いことは、株価が上昇しているときは金融資産が増価し、消費や設備投資の好循環もたらすが、株価が下落過程にはいれば逆回転することになる。

金融資産が可処分所得の伸びをはるかに上回っているにもかかわらず、米消費支出は緩慢とした足取りである。7月の実質個人消費支出は前年比1.6%と昨年11月の2.7%をピークに低下している。これだけ金融資産が増価していても個人消費に波及してこない。8月の失業者は6.1%と下がりつつあるが、ITバブル破裂後の最高水準と変わらず、決して低いとは言えない。失業率は低下しているが、仕事を探すことを諦め、非労働力人口が増加しており、8月の労働参加率は62.8%と前年同月を0.4ポイント下回り、2008年8月から3.3ポイントも低下している。特に、男の労働参加率が過去6年間で3.7ポイント減と女の2.7ポイント減よりも悪化していることも消費に悪影響していると考えられる。さらに8月の時間当りの平均賃金は6年前の2008年8月比13.7%増に対して、同じ6年前の2002年8月から2008年8月では21.0%も増加しており、こうした賃金の伸び悩みも消費支出不振の原因になっている。

 FRBの『2013年消費者金融調査』によると、所得と資産の格差が拡大していることがわかる。上位3%の家計が占める全所得の割合は2013年、30.5%と2010年から2.8ポイント上昇した。下位90%の所得占有率は低下し続けている。トップ3%だけが増加しているのである。総資産でもトップ3%の家計は54.4%を保有しており、2007年から2.6ポイント上昇。所得と資産ともに富裕層の保有割合は上昇しており、米国の格差拡大を裏付けている。こうした所得格差と極端な資産偏りが米国経済の主力エンジンである消費の回復を遅らせているひとつの要因に挙げることができる。

 米国経済は消費の回復の遅れなどで決して良くはないが、ユーロ圏が酷いため、ユーロ安ドル高が進行している。4日、ECBは政策金利を0.15%から0.05%に引き下げ、中銀への預金金利のマイナス幅を0.2%に拡大すると発表した。さらに、10月からはABSとカバードボンドを買い入れる。金融・為替はそれなりに反応するが、政策金利を0.1%下げたからといってデフレのような経済にはなにの効果ももたらさないだろう。ECBは苦し紛れに金利を引き下げているが、米国や日本を一瞥するだけで、実体経済と金融経済を乖離させ歪みを発生させるだけであり、すこし長い目でみれば、このような金融政策が愚かな政策であることがわかるはずだ。ユーロ加盟国間の経済や財政の違い、国債利回りの隔たりなど多くの問題を抱えており、なにかの弾みで、問題が問題となり、手がつけられなくなる事態に陥らないとも限らない。

円もユーロ安のとばっちりをうけて1ドル=105円台に下落した。まだ円安と株高の関係が維持されており、日本株も上昇した。だが、企業業績は下り坂である。『法人企業統計』によると、4-6月期の大企業(資本金10億円以上)の売上高は前年比1.2%に低下し、営業利益も11.1%と4四半期連続の伸び率低下である。製造業に限れば3.3%減と7四半期ぶりの減益となった。売上高や営業利益の前年比伸び率が鈍化しているときには、株価はほぼ下落しつつある。いまはそのように業績悪化のときなのだが、株式は企業業績などと無関係に高値を維持している。企業業績を楽観的にとらえ、米株や円安に追随していれば、早晩、日本株は過去に何度も繰り返した暴落という破局を迎えることになるだろう。

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