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税制の改悪と物価を下げる米利上げ

米税制改革法案実現への期待から米主要株価は過去最高値を更新した。15日発表の米議会共和党の税制改革法案によれば、法人税率は現行の35%から21%へ、所得税率の最高税率は現行の39.6%から37%に引き下げられる。企業と富裕者を優遇する政策であり、一時的に企業は潤うが、長期的には米国の経済力を弱めることになるだろう。所得・資産格差を一層拡大させることになり、米国経済の主力エンジンである個人消費をさらに不振にさせることになるからだ。
米国経済を本当に良くしたいのであれば、この税制改革法案と正反対の改革を実行しなければならない。法人税率を引き上げ、所得税率の最高税率も引き上げ、累進性を強めることだ。そうすれば、米個人消費は今よりも良くなるだろう。加えて、株式の売買によって発生するキャピタルゲインへの税率も引き上げなければならない。現行の米キャピタルゲインの最高税率は20%(1年超保有、所得税率39.6%の対象者)と低く、あきらかに富裕層を優遇している。インカムゲインは所得と同じ税率が適用されており、所得税の最高税率が引き上げられれば、同様に、株式配当、利息収入への課税も強化されることになる。
日本でも株式のキャピタルゲインへの税率は20%と低く、所得税率(最高は45%)との格差は大きく、富裕層にとっては有利な制度だといえる。課税所得が330万円以上で税率は20%になることと比較しても、キャピタルゲイン税率はもっと高くすべきだ。
『家計調査年報』の年齢階級別貯蓄・負債現在高(二人以上の世帯)によれば、2016年の平均純貯蓄(貯蓄―負債)は1,313万円だが、40歳未満はマイナス524万円、最高は70歳以上の2,356万円である。貯蓄現在高五分位階級の貯蓄種類別現在高によると貯蓄高5,548万円のⅤ階級の有価証券保有額は1,071万円とⅣ階級(貯蓄高2,003万円)の181万円を圧倒しており、有価証券の大半は高貯蓄者が保有していることを示している。しかもⅤ階級には高齢者(60歳以上)が多いということだ。高齢者世帯の33.4%が2,500万円以上の貯蓄を保有している。33.4%の内訳は貯蓄高2,500万円以上3,000万円未満が5.9%、3,000万円以上4,000万円未満9.0%、4,000万円以上18.6%である。高齢者世帯の2割近くが4,000万円を超える貯蓄を保有しており、当然、こうした高貯蓄世帯は有価証券の保有額も多く、キャピタルゲインの税率を引き上げ、不公平を是正しなければならない。
来年度の与党税制改正大綱は高所得者の所得増税などが柱だが、改正とは程遠い子供騙し程度のものだ。給与収入850万円以上が増税になるというが、給与所得1000万円でも4.5万円、3000万円でも31万円の増税にすぎない。さらに高収入の年金受給者からの負担増を加えても所得税は900億円の増加にとどまる。勤労者世帯の高所得世帯と低所得世帯の貯蓄高には3.4倍の開きがある。所得だけでなく金融資産でも大きな格差があり、今回の与党税制改正大綱のような小手先の改正では経済に及ぼすインパクトはまったくない。

法人税減税が実現されそうなことから米株式は好調だが、日本株は小幅だが2週連続の下落だ。FRBが政策金利を0.25%引き上げたが、円ドル相場は円高ドル安に振れた。米10年債利回りはわずかだが前週比で低下した。政策金利引き上げの悪影響が経済に表れると読んでいるようだ。来年、政策金利は2%程度に上昇すると予想されているが、はたして0.75%上げることが可能だろうか。
FRBの今回の経済予測によれば、2018年の実質GDPは2.2%~2.6%(9月予測2.0%~2.3%)へと上方修正された。上方修正されたが2017年(2.4%~2.5%)並みであり、PCE物価指数とコア指数の上昇率は今年をやや上回ると予測しているが、2%にとどくのは2019年と想定している。
11月の米CPI(食品・エネルギーを除く)は前年比1.7%と前月比0.1ポイント低下した。今年1月の2.3%から下がりつつある。今年1月~6月までの半期のコア前年比上昇率は2.0%だったが、7月~12月の下期は1.7%になるはずだ。2016年は2.2%と2015年よりも0.4ポイント高くなったが、これは金融危機の2008年(2.3%)以来8年ぶりの高い伸びである。
2015年12月にFRBは政策金利を7年ぶりにゼロから0.25%に引き上げた。その1年後の2016年12月、恐る恐る0.25%の引き上げを実施した。今年に入り、3月、6月、そして12月と3回利上げした。2015年12月からの2年間で0.25%を5回とは、極めて緩やかな利上げだ。0.5%と0.75%の継続期間はそれぞれ3ヵ月だったが、1.0%は6ヵ月続いた。今年の半ば以降、FRBは利上げに慎重になってきていることが窺える。
ナーバスになるのは、ほかでもない利上げが経済とくに物価に影響していると考えられるからだ。通常、利上げの影響はすぐには表れず、ある程度のタイムラグを伴う。物価上昇率は今年1月まで高まっていたけれども、その後伸び率は低下しつつある。多少の利上げでも経済活動に負の影響を与えているのかもしれない。そうであれば、今年3回の利上げはさらに経済にダメージを加えることになるだろう。
米株式は減税期待で浮かれているが、実体経済は厳しい状況が控えていると想定しておくべきではないか。利上げすれば短期金融市場での資金調達コストは上昇し、これまでよりも資金は借りにくくなるだろう。米国経済の活動を少しずつ抑制する働きがあらわれることになる。経済活動が弱くなれば、物価は自然に低下していくだろう。
2001年以降16年間、米CPIコアの年上昇率は最高でも2001年の2.6%、2.0%未満が8回ある。長期の物価動向を観察するならば、FRBの物価目標は陳腐化したといえる。いまだに2%の物価目標を掲げるなどFRBは、なんとナンセスな集団なのかと思う。そのようなことよりも、株式バブルが最大の課題ではないか。FRBを始めとする中央銀行は株式に迎合する政策を取ってきた。博打場と化した株式崩壊が実体経済に及ぼす影響は計り知れないことは十分わかっているはずだが。
9月末の米株式価額は43.7兆ドル、前年比6.0兆ドル増加し、名目GDPの2.24倍の規模である。家計保有は17.2兆ドル、前年比2.4兆ドル増加し、ミューチュアルファンドも10.3兆ドル、1.3兆ドル増である。これだけ家計の株式価額が増加しても個人消費は拡大しない。株式の恩恵は一部富裕層に限られているからだろうか。だとすれば、中間層以下の大規模な減税を行わない限り、米国の個人消費は回復せず、米経済は低空飛行を余儀なくされることになる。

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