Share |

米国の退潮

5日、トランプ大統領が1,000億ドルの対中国関税検討をUSTR(米通商代表部)に指示したことから、週末の米株式は大幅に値下がりした。株式市場はトランプ大統領の保護貿易策に振り回されている。為替相場には大きな変化はなく、保護貿易が本格化するのかどうかを見守っているところか。トランプ大統領が日本にも矛先を向けてくれば、輸出依存度の高い日本企業のダメージは大きくなるだろう。米中貿易戦争が始まれば日本も他人事では済まされない。もし1,600億ドルの米国の中国からの輸入に高関税が課せられると、米国から他地域にものは流入し、製品価格は値崩れするだろう。

中国から5,055億ドル(2017年、モノ)も輸入している米国にとって、高関税を導入すれば、企業コストは増し、物価上昇の恐れもある。部品によっては生産に支障がでるのではないだろうか。国が膨大は輸出入品にきめ細かく采配を振ることは不可能だ。トランプ大統領は旧ソビエトを彷彿させる。そのようなことに労力と時間を費やすのであれば、米国内の問題に真剣に目を向けるべきだ。国内の矛盾を貿易赤字ですり替える魂胆が透けて見える。

2001年、中国はWTOに加盟したが、その年の中国の米国への輸出額は1,022億ドルであった。その後拡大を続け2017年には5,055億ドルと2001年の約5倍となった。同じ期間、ドイツの対米輸出額は2倍、日本は8%増にとどまる。中国からの輸出が突出しているといえるが、先進国の資本が中国になだれ込み、積極的な設備投資を繰り広げたからだ。東莞などは日本企業もこぞって進出した。なんといっても人件費が超安かったからだ。安い人件費で作れば安い値段を設定でき、安ければ販路は自ずと拡大する。世界中に売りさばくばかりでなく、約14億人もの巨大な市場がそこにあることも、資本を一気に引き寄せた要因である。米国だけでなく欧州も日本の企業も強制的に中国に行かされたのではなく、儲かると踏んだから中国に進出し、そこでものつくりに励んだのである。

今になって、対中貿易赤字額(モノ)が3,752億ドル(2017年)に膨らんだからといって、高関税を掛けるのは理不尽ではないか。中国の生産は米国だけでなく世界経済に組み込まれており、中国のモノの流れが変化すれば、その影響はグローバルに波及するだろう。中国の輸出額は2兆2,634億ドル(2017年)だから、中国にとっても生産の縮小は死活的であり、不況は中国を揺さぶり、延いては世界的な規模で経済不安が広がるかもしれない。特に、地理的に近い日本は影響を受けやすいのではないだろうか。中国の景気が悪くなれば日本の対中輸出は減少し、中国からの観光客も少なくなるだろう(2017年の中国からの訪日観光客は644万人、観光客総数の25.3%)。

2017年の日本の対中輸出額は14.8兆円、総輸出額の19.0%であり、半導体製造装置、科学光学機器などが大幅に伸びている。米国の対中制裁が本格化することになれば、こうした日本の先端機器の輸出も影響を免れない。少しの障害が人為的に作られたとしても、モノの流れは止り、そこから新たな問題が派生する可能性は高い。

世界の輸出・輸入の総額は32.1兆ドル(2016年、モノ)であり、米名目GDPの1.7倍の規模である。これだけ巨額のモノが世界中を行き来している。あるものは最終需要として消費者にとどき、あるものは中間財や部品として組み立てられ、そこからまたほかの国に出てゆく。モノの流れは複雑極まりない。統制できるものではないのだ。

プラグマティズムとフロンティアスピリットを原動力とする米国が、関税を導入することは、そうした思想を否定することである。そうであれば米国はもはや米国ではなく、別の国に成り代わってしまったといえる。英国が退潮してから米国が世界に君臨してきたが、今やパックス・アメリカーナも見る影もない。関税で脅すなど覇権国として地位を棄てたも同然だ。

 対中関税は米国の退潮を如実に物語っている。長期にわたり世界に君臨していた米国も、歴史が証明するように、永遠に支配者の地位を保持し続けることはできない。いつの日か別の国にその地位を奪われることになる。米国第1主義を唱え、保護貿易主義に向かうのでは、世界はすでに米国をリーダーと認めていないのではないだろうか。トランプ大統領の出現によって、米国の衰退は確実に早まった。

  • 来週号以降、1ヵ月程度休みます。
関連資料サイズ
180409).pdf398.12 KB