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米株式ほど熱くならない物価

対ドルで円は6週連続安となり、昨年4月第2週以来の83円台に下落し、2011年3月末値より円安ドル高になった。2月第1週の直近高値から6円86銭の円安ドル高だ。これほどの激しい動きは円買い持ちの手仕舞いによるものだろう。ただ、日米の相対的景況感がドル買いのシグナルを発していることも見逃してはならない。OECDの景気先行指数によると、1月の前年比伸び率は米国の0.8%に対して日本は0.3%であり、すでに3ヵ月連続で米国の伸びが日本を上回っている。急激な円安ドル高はひとまず落ち着くはずだが、米実体経済の相対的強さによって、ドル買い円売りが持続的に発生するだろう。ちなみに、1月のユーロ圏の先行指数は前年比-5.4%と日米よりも悪い状態が続いており、対ユーロでもドルはじり高で推移するとみている。

米10年債利回りは週末、2.29%へと大幅に上昇し、昨年10月第4週以来の高い水準だ。米利回りの急騰を受け、主要国の債券利回りは軒並み跳ね上がり、ドイツ債も前週比26ベイシスポイント高くなったほか、日本の利回りも1月25日以来の1%超えとなった。一方、米株式は上昇力を維持しており、NYダウは13日、07年末以来約4年2ヵ月ぶりに1万3,000ドル、ナスダック総合指数は約11年ぶりに3,000の大台を回復した。NYダウは過去最高値(1万4,164ドル、2007年10月9日)まで932ドルに迫り、金融危機に見舞われたことなど忘れてしまったような勢いである。

米株高、債券利回りの上昇、ドル高現象の要因に、FRBのゼロ金利、買いオペ、経済情勢判断等を挙げることができる。13日開催のFOMCでは、経済が向こう数四半期緩やかに成長するという声明を出し、市場参加者の投資心理を刺激した。同日、2月の米小売売上高が前月比1.1%増と予想以上に伸びたことも、米株式相場を後押しした。15日には、週間の失業保険申請件数が4年ぶりの低水準となり、3月の地域景況指数はいずれも改善傾向を示したことなどにより、S&P500は1,400のレベルを3年9ヵ月ぶりに超えた。

2月の米鉱工業生産指数は前月比横ばいと伸び率は2ヵ月連続で鈍化した。最終生産物では消費財は振るわず、投資財の伸びが顕著だが、そのなかでは自動車関連が抜きん出ている。他方、ハイテク関連は不調であり、2月は-0.6%と4ヵ月ぶりにマイナスとなり、前年比でも0.8%減少した。

2月の消費者物価指数が公表されたが、総合指数(CPI)は前月比0.4%、コア(食品・エネルギーを除く)は0.2%上昇し、前年比では2.9%、2.2%それぞれ上昇した。FRBが目標に掲げているPCE価格指数も1月、前年比2.4%、コアが1.9%と見通しを今のところ超えている。総合は前年比2.9%上昇しているので、2月末の10年債利回りを約100ベイシスポイント上回っていることになる。通常、10年債利回りがCPIの前年比伸び率よりも高く、CPIが利回りよりも高くなるのは異例であり、1960年代以降をみても、2回のオイルショック時、金融危機直前の08年9月までの約1年、それに昨年5月以降の4回しか経験していない。これを除けばすべて債券利回りがCPIを上回っているのである。経験則から判断すれば、今のようなCPIが利回りを上回るような、実質利回りがマイナスになる状態は長くは続かず、いずれ正常な状態に戻ることになるはずだ。

CPIが利回りよりも高い場面は、CPIの伸び率がピーク近辺にあるときであり、景気循環の観点からは拡大の最終局面に当たる。昨年9月にCPIの伸び率はピークを付け、2月には2.9%とピーク比1ポイント低下した。米経済に好転を示す経済指標が発表されているが、経済の体温を示すCPIは低下しつつある。CPIよりも変動が大きい生産者物価指数(PPI)も昨年5月(前年比7.3%)を最高に2月は3.1%まで低下してきており、物価は安定に向かっているといえる。つまり米経済は良くはなっているが、体温が温まるところまでは回復していないということだ。

米設備稼働率は2月、78.7%と上昇してはいるが、前回のピーク(81.1%)までにはなかなかとどきそうにない。2月の失業率は8.3%と依然高水準にあり、雇用環境も物価の上昇を抑制する。CPIは2%台で推移する一方、2.29%に急騰した米債利回りは、上昇速度は鈍るものの、上昇傾向を持続し、近いうちにCPIの伸び率を上回るだろう。

 日本株は米株式に追随するかたちで上昇しているが、米国のように経済は良くなく、米株が天井近くに達していることから判断すれば、米追随は禁物だと思う。なによりも問題なのは、企業収益の悪化であり、先行きも期待できないからだ。利益が拡大しなければ株式の価値は増価しないのである。利益をないがしろにして株が買われ上昇することは、株式の本質から逸脱した現象であり、長続きすることはない。

 「法人企業統計」によると、昨年10-12月期の大企業営業利益は前年比22.8%減と3四半期連続の減益となり、しかも減益幅は拡大している。売上高は3.6%と2四半期連続増だが、棚卸資産は9.2%増と高止まりしており、思っていたよりも売上が伸びていないようだ。売上原価率の悪化により、売上高営業利益率は3.5%と前年よりも1.2ポイント低い。固定資産・売上高比率は前年を下回ったとはいえ高い水準にとどまっており、相当無駄な資産を抱え込んだままであり、収益を圧迫していると考えられる。

 昨年12月末の大企業固定資産は443兆円と過去最高水準にあり、08年末よりも5.2%多い。売上規模はだいたい同じであるから、生産効率は悪くなっている。製造業の固定資産は08年末比で減少しているが、非製造業は10.2%も増加しており、特に、非製造業の固定資産の肥大化が問題である。遊休資産であってもなんらかの資金がそれに対応しており、収益につながらずコストだけが掛かるという事態に陥っている。非製造業はバランスシートの主要項目である固定資産の除却という大きな問題に直面しているのである。非製造業の収益回復の道は険しく遠い。 

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