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おぼつかない民需

日本の国債利回りは落ち着いているが、欧米は大幅に上昇している。米国債は3ヵ月比で約1%、ドイツ債は0.57%も高くなった。FRBが近く、国債購入額を減らすのではないかと予想しているからだ。国債利回りの上昇は、資金調達コストを引き上げ、設備投資意欲を削ぐことになる。実体経済がそうしたコストを払ってもやって行けるほどの強さを持っていればよいが、4-6月期のGDP統計をみると、欧米経済にはそこまでの体力はない。国債利回りの上昇は、確実に実体経済を弱くする。

4-6月期の米GDPは実質前期比0.4%、前年比1.4%と前期よりも0.1ポイントそれぞれ高くなったが、依然低い伸びである。名目では前期比0.6%と前期を下回り、前年比では2.9%と3期連続で低下し、2010年1-3月期以来13期ぶりの低い伸びとなった。つまり、米国経済は相当減速している状況下にあるということだ。

先週末の米国債利回りは2.83%に上昇したため、名目GDPの伸び率にほぼ等しくなり、期待収益率が一定のもとでは、これ以上国債利回りが上昇すれば、経済成長をさらに押し下げることになるだろう。

 FRBが政策金利をゼロに据え置き、国債等を月850億ドルも購入しても、米国経済は高い成長軌道に乗れず、低迷している。7月の失業率が7.4%に低下したとはいえまだ高く、米国経済の主力エンジンである個人消費に勢いはない。低金利により耐久消費財はまずまずだが、個人消費支出の65.9%を占めるサービスが不振であり、これが減速の最大の要因である。

 1-3月期の実質個人消費支出は前年比1.8%伸びたけれども、「モノ」の3.6%増に対して「サービス」は0.9%しか増加していない。個人消費支出の低迷から設備投資も2.4%増にとどまった。しかも「サービス」の伸び率は低下傾向にあり、これで5期連続の減速である。

 7月の米小売売上高は、自動車販売等のマイナスで前月比0.2%と低下した。7月の鉱工業生産指数は前期比横ばい、製造業に限れば0.1%前月を下回った。7月の住宅着工件数は前月比5.9%増加したが、8月のミシガン大学消費者センチメント指数は前月から低下した。8月のニューヨーク連銀、フィアデルフィア連銀の各景気指数は前月を下回っており、足元の米国経済は、株高が示しているように強いものではない。株高は、単にFRBの金融政策によって支えられているものであり、金融政策が転換されそうになれば、米株式は激しく動揺することになるだろう。しかも、国債はさらに売られ、利回りは急上昇することになり、米株式・債券市場は売りが売りを呼ぶ展開になると予想される。

 4-6月期のユーロ圏実質GDPは前期比0.3%と7期ぶりのプラスとなった。ユーロ圏の中心国であるドイツが0.7%伸び、全体を牽引したからである。ただ、前年比では-0.7%とマイナスから抜け出せず、これで6期連続の前年割れだ。ユーロ圏の失業率は過去最高の12.1%に張り付いた状態が続いており、個人消費はおいそれと回復するとは考えられない。

 12日、日本の4-6月期GDPは公表された。実質前期比0.6%と前期を0.3ポイント下回ったが3期連続増で、米国よりも高く、ユーロ圏の倍であり、この数値から判断すれば、日本経済は回復していると言えそうだ。だが、成長の内容は決して良くない。0.6%増の寄与度をみると、民間設備投資が前期比減となったことで、民需の寄与度は0.2%と低く、円安による外需の寄与度と同じであった。一方、公共事業の高い伸びなどで、公的需要の寄与度は0.3%であった。

 名目GDPは前期比0.7%と実質を上回った。が、公需0.2%、外需0.3%に比べて民需の寄与度は0.2%に過ぎずはなはだ心もとない。実質前年比伸び率は0.9%と6期連続増だが、名目でも前年比0.5%と4期ぶりのプラスになった。寄与度は民需0.1%、公需0.9%と国の支出に全面的に依存しており、日本経済が回復しているなどとはいえない内容である。

 公的支出の拡大を止めれば、日本経済はすぐにマイナス成長になる。日銀の国債購入で間接的に財政資金を供給し、それによって国は歳入の一部を確保し、支出しているのである。8月10日時点の日銀の総資産は199.1兆円、国債は158.2兆円にも膨れている。今年3月末の総資産は164.3兆円、国債は125.3兆円であるから、4ヵ月半ほどでいかに国債を購入しているかがわかる。

 こうした資金的裏付けによって、公共工事を積極的に進めた結果、公需のGDPに占める比率は名目26.3%と1年前より0.6ポイント、米金融危機以前の08年4-6月期比では2.5ポイントも上昇している。まさに大きな政府になることによって日本経済は維持されているのである。

 名目の民需は3期連続増で365.9兆円に回復し、金融危機後の最悪期(09年7-9月期、349.3兆円)からは16.6兆円増加しているが、2008年以前では1994年4-6月期まで遡らなければならないほどの低い水準である。人口減、生産年齢人口の急減等により、民需はもはや増加することはなく、減少することが普通の状態になっているのだ。

 民需が減少しながら、GDPをプラスにするには外需と公需を増やすしかない。いまのところ世界経済の足取りは重く、外需が伸びるような状況ではなく、公需にすがるしかないのだが、民需の減少を補い続けることはできない。民需の減少はいずれ貯蓄を今の水準から低下させ、政府に回る貯蓄は少なくなるだろう。公的支出を増やそうにも増やすことができなくなるのである。直ちにそこに至ることはないが、団塊の世代が65歳以上になれば、意外に早く厳しい事態を迎えるかもしれない。

 当面の課題は、まだ決まらない消費税率の引き上げだが、来年4月に8%に引き上げられれば、1997年を振返るまでもなく、民需は大きく落ち込むことになるだろう。1997年のときには1997年1-3月期から2年間に約25兆円も民需は減少してしまった。

 金融・財政政策を総動員して、やっと名目プラス成長にすることができたが、このようなことはいつまでも続けることはできない。経済が縮小するのが正常なところを無理やり拡大させれば、その歪みはいたるところにあらわれるはずだ。問題は「成長戦略」に象徴される拡大思考にある。拡大することだけが経済ではなく、縮小することも経済なのである。拡大教義に取り付かれていれば、いつまでたっても日本経済を良くすることはできない。

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