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お金が流れにくいわけ

円ドル相場は凪と言える状態だ。米株は過去最高値近くで推移し、それに連れて、日本株なども底堅い。円安ドル高ではないが株高である。米株がいつまで高値を維持できるかに、為替相場は掛かっている。米株が強ければ円高ドル安には進みにくい。一方、米株が軟調になれば、円高ドル安が進行するだろう。商品相場も米株との相関性があらわれている。

今週のFOMCで政策金利の引き下げを表明するだろうが、その先がどうなるかが問題だ。さらなる利下げを仄めかすことになればドル安、反対に、打ち止め観測が強まれば、ドル高にぶれるだろう。

9月の米小売売上高、鉱工業生産指数、資本財受注等をみれば、米国経済の足取りにも覚束なさが窺える。0.25%下げれば1.50%~1.75%となるが、ゼロの日本やユーロに比べれば下げ余地がある。重要な局面での対応のために、この程度の利下げ幅は残しておきたいのではないか。

10月のPMIは米国やユーロ圏はほぼ横ばいであったが、日本はやや低下した。10月からの消費税率引き上げの影響がでているように思う。9月の百貨店売上高が前年比23.1%も急増したように、やはり、高額商品については駆け込み需要があり、今後、その反動減があらわれることは避けられない。

日本の輸入は9月、前年比-1.5%とマイナスになり、2014年4月の消費税率引き上げ前のような輸入拡大は起きなかった。輸入は5月以降5ヵ月連続の前年割れであり、国内需要は盛り上がらなかった。輸出は前年比5.2%減とこれで10ヵ月連続のマイナスである。輸出の不振で3ヵ月連続の赤字となり、2019年度上半期(4月~9月)の赤字額は8,479億円となった。

輸出の落ち込みで顕著なのは、「一般機械」であり、9月は-11.2%と3月以降7ヵ月連続の前年割れだ。特に、中国向けは不振であり、半導体製造装置や金属加工機械などが大幅に落ち込んでいる。上半期では前者が32.2%、後者が31.2%もそれぞれ減少、中国の設備投資が冷え切っていることがわかる。

中国経済の需要低迷、特に、自動車販売の不振はドイツの製造業を直撃しており、ドイツ経済に打撃を与えている。10月のドイツPMI(製造業)は41.9(ユーロ圏45.7)と前月よりも0.2ポイント改善したが、激しい収縮状態にあることに変わりはない。8月のドイツ鉱工業生産は前年比-5.0%と昨年11月以降10ヵ月連続のマイナスだ。2017年には3.0%を超えていた経済成長率は今年4-6月期には前年比0.4%と6年ぶりの低成長となっている。

ドイツの不振でユーロ圏の鉱工業生産も8月、前年比-2.8%とマイナス幅は拡大している。生産が落ちれば、消費もその影響を免れるわけにはいかない。消費需要の鈍化によって、物価の伸びは低下してきている。9月のユーロ圏HICPは前年比0.8%と1.0%を割り込んだ。昨年は2.0%を超えていたが、経済活動の沈滞につれて、物価の伸びは鈍化してきている。

昨年、米国の消費者物価は前年比3.0%近くまで上昇していたが、今年9月は前年比1.7%へと鈍化してきた。PCE物価指数は5月以降、前年比1.4%の伸びが4ヵ月間続き、FRBの予測を下回っている。

日本の消費者物価は昨年2月には前年比1.5%まで上昇していたが、今年9月には0.2%とゼロに近づいてきている。ただ、10月から消費税率が引き上げられたことから、1%を超える上昇となるが、引き上げ分を除けば、伸び率はゼロになるかもしれない。

多少の駆け込み需要があっても物価にはなにの影響もでていないのである。8月の実質消費支出指数(2015年=100)は101.8と100をわずかに超えている程度である。今年に入って4回の100超が観察できるが、昨年まではほぼ100以下であった。それほど日本の消費は弱いのである。消費が弱いから物価は上昇しない。物価が上昇しないので消費はますます冷えていく。人口減と少子高齢化によって、こうした傾向はさらに強まるだろう。

物価は需要と供給で決まるのだ。日銀の金融緩和では物価を引き上げることはできない。若年層の減少が激しく、65歳以上の大幅な増加では需要が弱くなるのは不可避だ。需要の減少は商品だけでなく、お金の需要も少なくなることなのである。商品売買をすることはものとお金の交換であるから、商品売買の減少はものだけが減少するのではなく、お金もまた減少するのだ。日銀が国債の購入で金融機関にお金を供給しても、金融機関からお金が出ていかないのは商品売買の低迷でお金が必要とされていないからだ。

名目GDP・マネーストック(M3)比率を計算すると、2012年9月の0.436から2018年9月には0.409に流通速度は低下している。M3が名目GDPの伸びを上回っているのだ。M3の内訳をみると準通貨から預金通貨へのシフトによって、9月の預金通貨698兆円に対して準通貨は534兆円である。両者の合計額は1,232兆円、2012年9月の7年前よりも217兆円も増加しており、家計などの貯蓄意欲は依然高い。現金通貨も7年前比32.1%の24.8兆円も増加しており、名目GDPの伸びをはるかに上回っている。

実体経済に照らし合わせてみてもいかにも現金通貨の伸びは高い。預金金利がほぼゼロの状態だから、タンス預金等で退蔵もしているのだろう。さらに、相続税を逃れるために自宅等で現金を保管していることも考えられる。

消費が定常状態を呈し、預金金利がゼロであれば、お金の流れは遅くなる。長期金利がマイナスになっても、お金の需要は出てこないのである。将来的にも、今のような金利水準が続くという期待が強ければ、すぐにお金を手当てする意欲は湧いてこない。これから先もお金の動きは鈍く、消費も代り映えのしない状態が続くだろう。

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