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どうすれば家計消費を喚起できるのか

米国では新型コロナの死亡が60万人に近づいているが、今年1-3月期の実質GDPは前期比1.6%と3四半期連続のプラス、前年比でも0.4%と昨年1-3月期以来4四半期ぶりのプラス成長となった。片や、新型コロナの死亡が1.2万人の日本の実質GDPは前期比1.3%減と昨年4-6月期以来3四半期ぶりのマイナスだ。前年比では2019年10-12月期以降6四半期連続の前年割れとなり、消費税率の引き上げ以降、不況は長引いている。

デフレーターは前期比-0.3%と2四半期連続のマイナスとなり、前年比でも0.2%下落した。デフレーターがマイナスになったため、実質よりも名目GDPのマイナス幅が大きくなり、名目は前期比-1.6%、前年比では-2.1%へと悪化した。デフレーターのマイナス幅は小幅だが、日本経済はデフレ状態にあると言える。デフレーターが前年比マイナスになるのは2018年10-12月期以来だが、民間企業設備デフレーターは昨年4-6月期から4四半期連続のマイナスであり、輸出入のデフレーターはすでに約2年間マイナス状態にある。

日本経済がデフレに陥ったのは、もともと低空飛行を続けていた家計最終消費支出が、消費税率引き上げによって落ち込んでいたところへ、新型コロナが加わり、激しく下振れしたからである。昨年4-6月期の家計最終消費支出(名目、持ち家の帰属家賃を除く)は前年比13.6%減少し、その後はマイナス幅を縮小しているが、それでも今年1-3月期は-4.3%と前期よりもやや悪化しており、消費マインドは冷えたままである。

新型コロナ感染の収束のめどが立たない状況では、消費者の購買意欲は回復せず、最終消費支出の低迷は長期化するだろう。GDPの5割強を占める最終消費支出が浮上しなければ、GDPも不振から抜け出すことはできない。民間企業設備も2019年10-12月期以降、6四半期連続の前年割れであり、民間需要の主要2部門が悪いのでは打つ手はない。

民間需要の前年割れは続いているが、公的需要(名目)は今年1-3月期も前年比2.4%とプラスを維持している。純輸出の寄与度も3四半期連続のプラスである。ただ、2020年度補正後の一般会計予算は175.6兆円と2019年度(101.3兆円)を73.3%も上回っていることからみれば、公的需要の伸びは余りにも緩やかである。

1-3月期の名目GDPに占める公的需要の割合は26.5%と前年同期よりも1.2ポイント高くなっている。一方、民間最終消費支出の割合は53.3%と前年同期比0.7ポイント低下した。民間最終消費支出が持ち直すことができなければ、公的依存度は高くならざるを得ない。

2020年度の民間最終消費支出(名目)は前年比-6.0%と過去にない落ち込みとなり、構成比は53.4%、前年よりも1.1ポイント低下し、2012年度の58.0%から5.6ポイントの急低下だ。少子高齢化や先行きへの不安などさまざまな要因が消費を逡巡させている。

民間最終消費支出のGDP構成比が53.4%に低下したのは1970年度(52.4%)以来ではないだろうか。そのときは民間住宅と民間企業設備のGDP構成比は27.7%と今よりももっと高く、公的需要のGDP構成比は17.2%と低かった。民間最終消費支出の構成比だけは50年前の水準に戻ってしまった。

2020年度の家計最終消費支出(名目、持ち家の帰属家賃を除く)は229.0兆円、前年比19.1兆円の減少である。過去10年間の最高は2018年度の249.6兆円であり、2019年度までの7年間は240兆円台で推移していた。いまではその水準に戻ることも難しくなってきている。

民間住宅や民間企業設備も2020年度は大幅に減少したけれども、2019年度までは家計最終消費支出に比べれば、高い伸びをみせていた。人口減や消費不振にもかかわらず、住宅と設備投資は堅調であったのである。家計最終消費支出の2019年度・2010年度比は7.5%だが、民間住宅や民間企業設備は24.0%、26.2%それぞれ拡大しており、家計最終消費支出との伸びの格差が顕著である。さらに輸出も同期間25.8%増加し、内需ではなく外需の高まりを背景に民間企業は設備投資を積極化したと考えられる。

外需の伸びだけでなく、ゼロ金利も設備投資や民間住宅の拡大に寄与したはずだ。特に、民間住宅はゼロ金利によって、利払いが減少し、高額物件が購入しやすくなった。2010年度の(民間住宅+民間企業設備)・GDP比率は17.8%だったが、2019年度には20.2%に上昇した。2020年度は19.5%に低下したとはいえ、依然高い。家計最終消費支出に比べれば変動が激しい設備投資関連比率が高いことは、予想外の事態に直面すると、収縮しやすく、経済は大きく変動することになる。

米国経済よりも日本経済の谷が深くなるのは、家計最終消費支出の構成比が低く、設備投資関連比率が高いからだ。(民間住宅+民間企業設備)・家計最終消費支出比率は2010年度の0.320から2019年度には0.455へと上昇している。

家計最終消費支出のGDP構成比のこれほどの低下は、経済構造が大きく変わったことを示唆している。成長期にある経済であれば、設備投資関連が大幅に伸びることによって、貯蓄を吸収できるけれども、成熟した経済では設備投資の伸びは緩慢になり、公的部門への依存度が高くなる。

ゼロ金利が借入を容易にし、特定部門を正常な水準から引き上げたが、貯蓄から消費への流れは強くはならなかった。金利をゼロに引き下げても、家計の貯蓄を減らすどころか、さらに積み増す行動に出た。所得がほぼ横ばい状態でも貯蓄選好を強めたのだ。

総務省の『家計調査』によれば、総世帯のうち勤労者世帯の2020年度の貯蓄率は40.0%である。新型コロナの影響がまだそれほど現れていない2019年度でも33.3%と2017年度から3.8ポイントも上昇している。2020年度の月平均可処分所得は43.2万円であり、消費支出には25.9万円、貯蓄に17.3万円が振り向けられている。年間の貯蓄は207.7万円になり、ざっと計算しても2020年度、勤労者世帯だけでも年間60兆円程度が貯蓄されたことになる。

2020年度は例外だとしても、2019年度でも50兆円ほどが、消費を抑制し、貯蓄に向かっているのだ。なぜこれほど貯蓄に励むのだろうか。主要国を見回してみてもこれほど貯蓄する国はない。よほど日本人は吝嗇家なのだろうか。

貯蓄残高が多いのは高齢者だが、勤労しているときから、貯蓄志向は強いのである。少子高齢化の加速と長寿化が将来への備えの動機なのだろうか。認知症になっても質の高い生活を確保するには蓄えが必要だと考えているのかもしれない。預金金利はほぼゼロだが、これには関係なく、ただただ長い老後のことを思い、金融機関に預金するのだ。2021年2月末の介護認定者数は679.6万人(厚生労働省、『介護保険事業状況報告』)だが、2025年には745万人に増加するという。老後の呪縛を解き、いかに可処分所得を消費させるかが、日本の大きな課題ではないだろうか。

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