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スポークスマン上がりで首相は務まるか

8月28日の安倍首相の辞任表明、それに伴う後任候補選びと政治の舞台は大きく変化すると期待されていたが、菅官房長官と二階自民党幹事長の密かな会談で幕を閉じてしまった。内閣のスポークスマンが首相の座に座ることは日本では過去にもみられたが、首相と官房長官では仕事の中身が違う。安倍首相も官房長官経験者だが、在任期間は1年にも満たなかった。暫定政権などと揶揄されているが、新型コロナによる戦後最大の不況下にある日本の舵取りを、代弁者の仕事をしてきた人に務まるだろうか。はなはだ疑問である。

二階幹事長はその地位を保持し、しかも菅官房長官を首相に据えることで、すべての政治権力を掌握することを狙っている。80歳を超えた貪欲な老人が日本の政治を思いのまま操るキングメーカーにのし上がる。欲望を満たすこと、そのことのみを追求しているようにもみえる。

かつては幾多のキングメーカーが自民党には跋扈しており、その背後には右翼までもが暗躍していた。今でも闇の勢力との関りが面々と続いているのかもしれない。いずれにせよ、自らに都合よく制度を悪用する知恵だけを頼りに政治を行う自民党の悪しき慣習は、途絶えていなかったのである。

9月2日、菅官房長官は自民党総裁選に立候補すると表明したが、その時の会見によれば、目指す政治は安倍政権を踏襲し、さらにそれを前に進めることだと言う。これが首相になろうという政治家の立候補表明だろうか。首相を目指していた人であれば、それなりの世界観を示す必要がある。そうでなければ、官僚の作文を読み上げるだけの、なにの特徴もない無機的な政治になってしまう。

だれが首相になっても、その政権が政治、経済、外交などの課題に首尾よく対応できていたわけではない。成功もあれば失敗もあるのが普通だ。官房長官を7年8カ月も務めていたのだから、安倍政権の良いところも悪いところも熟知しているはずである。良いところは踏襲しても悪いところは改善しなければならない。どんなに些細なことでも改善・改良の余地はあり、ましてや政治の世界では改革の意志があれば、より住みやすい社会を築くことができるだろう。

安倍政権の踏襲を第1に掲げることは、為すべきことが分からないからではないか。自身の理念や理想が表明できなくて、一国の首相になることは、無謀・無責任というほかない。これまでの木で鼻を括る発言からは、世界観らしきものの片鱗さえも窺うことはできない。首相に就いたとしても、官僚お任せ政治では早晩行き詰まり、来年の9月までとうてい持たないのではないか。

経済をとりあげてみても、経済の原動力の消費支出は低調であり、経済が活気づかない最大の要因である。失業率は大幅に改善したが、非正規労働の増加などで分配が企業に偏り、家計の懐は潤っていない。

安倍政権は法人税率を引き下げ、消費税率を2度引き上げるという過ちを犯し、企業利益の増加と賃金の停滞さらに非正規雇用者の増加に伴う賃金格差の拡大など、消費を増やしたいが増やすことを許さない経済政策に終始した。

『法人企業統計調査』によれば、従業員給与(賞与を含む)は第2次安倍政権発足の2012年度と2018年度を比較すると、6.7%の伸びにとどまる一方、税引前当期純利益は2.06倍に拡大している。これだけ利益が急増しているにもかかわらず、法人税等の税金は27.5%しか増加していない。その結果、当期純利益は2.6倍に膨れ、2018年度までの7年間の累計配当金と社内留保は137.0兆円、180.7兆円と株式保有者と企業は潤った。配当金はかつてない規模に拡大したが、源泉徴収の税率は20.315%と低く、富裕者は極めて優遇されているのだ。

バブル絶頂の1989年度の法人税等は20.5兆円と2018年度を上回っている。1989年度には税引前当期純利益の52.7%が法人税等だったが、2012年度は38.8%、2018年度には24.0%に低下しており、当期純利益を極端に引き上げることになった。こうした利益分配分の拡大は、政府の企業に寄り添った政策の賜物といえるだろう。これが、安倍政権のやってきたことなのである。

従業員給与に限れば、2018年度までの6年間で4.3%しか増加していない。年1%以下の伸びであり、これでは消費が伸びないのは当然である。安倍政権の7年9カ月にもおよぶ主力政策は多くの低賃金労働者階層を出現させたことである。こうした企業優先の政策を続けていくことになれば、購買力はますます弱くなり、日本経済の衰退は加速することになるだろう。

日本が抱えている最大の問題である人口減はより深刻になっている。2012年の日本人人口は前年比18.7万人減だったが、2019年には48.7万人減へと減少幅は拡大する一方である。安倍政権を継承するのであれば、人口減は加速するだけである。

労働時間、男女同一賃金、有給・育児休暇の取得等が法律で厳格に実施されない限り、人口減に歯止めは掛からない。集団主義のだらだら時間だけが過ぎていく生産性の低さ、効率や改善に無頓着な会社の上層部等企業の抱えている病巣は依然大きく、日本経済を蝕んでいる。

日銀の金融緩和が円安ドル高の流れを強めたというが、事実はそうではない。2008年のリーマンショック以降、世界経済が不況に陥り、日本の輸出が不振になり、貿易収支が赤字に転落したことが、円ドル相場に影響をおよぼした。

さらにリーマンショック後に急落した原油価格がすぐに反発し、バレル100ドル前後の高水準が続いたことが貿易収支をさらに悪化させた。貿易赤字額は2011年の2.56兆円から2014年には12.81兆円に拡大した。こうした貿易赤字の拡大が為替相場を円安ドル高に引っ張っていったのである。

4-6月期の名目GDPは前年比8.5%減少した。金額では11.7兆円減であり、そのうち9.05兆円は国内家計最終消費支出である。政府が国民一人当たり10万円を給付したが、効果は現れていない。消費支出の内訳をみると、サービスが前年比7.07兆円減と国内家計最終消費支出減少分の78.1%を占めている。外食、宿泊、観光、娯楽等が緊急事態宣言や自粛によって利用者が急激に落ち込んだからである。10万円を給付したところで、こうしたサービス産業で消費しなければ、ほかには使い道がないのである。

家庭で食事を取ることによってスーパーの食品関連の売り上げは伸びている。家庭で食事し、旅行等に出かけなければ、家計は四半期で7兆円節約できる。これが1年間続けば28兆円の家計支出の減少となり、サービスを提供する側は同額が消える。家計消費の内部化と外部化の違いをまざまざと見せつけられた。

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