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ダウを3万ドルに引き上げたゼロ金利

11月24日、NYダウは3万ドルを突破した。2017年1月25日に2万ドルを超えから3年10カ月の短期間で3万ドルの大台に乗せた。1万ドルから2万ドル超には約18年を要している。ワクチンが期待通り効果を発揮し、経済が正常化すると仮定しても、これから米国経済が過去10年間よりも高い成長を遂げることは難しい。ナスダック総合は昨年末を36.0%も上回っており、経済的要因で米株の高騰を説明することは不可能だ。FRBのゼロ金利が米株を狂わせてしまったのである。

2019年までの20年間の米実質経済成長率は年率2.1%であった。長期的に成長率は低下基調にあり、再び高い成長径路に戻ることはないだろう。こうした経済条件下で株式だけが、独歩高を歩むことは、実体経済から株式が離れていっていることである。それも離れ方は異常な速さなのである。株式バブルは空前の規模に膨らんでいると言える。

株式と実体経済との隔たりを表す指標は、FRBが公表している『Financial Accounts of the United States』の株式価額と名目GDPとの比較である。株式価額は6月末まで、名目GDPは第3四半期までしか公表されていないが、12月末と第4四半期の推測値で直近の株式価額・名目GDP比率を求めると、2.86倍と昨年末よりも0.35ポイント高く、過去最高を更新しているようだ。

6月末の米株式価額は51.9兆ドルだったが、いまでは61.1兆ドルに増価していると予想される。1ドル=104円で円に換算すると、6,354兆円となり、東証1部(678.6兆円)の9.4倍の規模だ。東証1部は米株に比べれば子供のようなものだが、それでも最近の上昇によって、名目GDPを1.3倍弱上回る規模に膨れている。過去最高は1989年末の1.42倍だが、それに近づきつつあり、バブル化の過程にある。

ITバブルの時に初めて2.0倍を超えたが、2008年の金融崩壊以前には2.0倍を上回ることはなかった。だが、2014年6月末以降は2.0倍超が常態化している。しかも、直近では3倍に近づいており、米株式はこれまでのバブルでも最大級のバブルといえる。

米株式の膨張は世界の株式高騰をもたらし、日本株も2万6,000円台まで回復してきた。世界の株式運用者は米株だけを買うのではなく、概ね、各国の世界に占める名目GDP比に応じて株式を購入する。米株が高騰すれば、必然的に、世界第3位の日本株を組み入れざるを得ない。米株が上昇すれば上昇するほど、日本株の購入額も増やしていくのである。日本株だけでなく欧州株も買い増しするはずだ。株式だけでなく、原油や金などの商品にも触手を伸ばすだろう。言うなれば、米株は世界の株式や商品相場の基準を提供していると言っても過言ではない。

米国の政治的影響力はとみに落ちたが、株式を始めとする金融・資本市場については圧倒的な力を保持しており、世界の市場を支配している。世界の市場を支配しているだけに、米国の金融・資本市場が崩れることになれば、世界の金融・資本市場も崩壊することになる。金融・資本市場は信用状態で成り立っており、何かのきっかけでその信用に疑念が生じれば、信用不安は瞬く間に世界中に伝播し、金融・資本市場は混乱に陥ることになる。このような事態は地震と同じで、いつ起こるかはだれにもわからない。

米株式がこれほど実体経済から離れることになった最大の原因は、FRBのゼロ金利政策である。フェデラルファンドレート(FF)と株式価額・名目GDP比率(S)の関係を1951年まで遡り、過去69年の歴史をたどれば、両者の関係が鮮明に見えてくる。FFのトレンドは第2次オイルショック後の1981年6月末の14.0%を頂点に、富士山型となっている。第1次オイルショックまでもFFは上昇していたが、2度のオイルショックで跳ね上がる半面、Sは低下し、1982年6月末には0.362倍と69年の歴史のなかで最低を付けている。1982年以降のFFは、上下動はあるものの、基調は右肩下がりであった。しかも上限と下限は次第に押し下げられ、2008年にはついに初のゼロ金利の出現となった。ゼロ金利は2015年まで約8年もの長期間続けられ、2015年に引き上げに転じたものの、最高は2.25%にとどまり、新型コロナによって、瞬く間にゼロに引き下げられた。

FFが下がればSは上昇し、FFが上がればSは下降するが、FFがゼロという下限に張り付けば、Sの上昇力は一段と強まり、もはやマネーゲームの段階に達している。米国内非金融部門保有の金融資産は今年6月末、245.3兆ドルと過去20年の年率の伸びは5.3%と名目GDP(年率3.3%)よりも高く、金融資産は極めて潤沢になってきている。1981年のFFが過去最高を記録したときの金融資産・名目GDP比は5.04倍であったが、今年6月末では12.56倍に開いている。もはや、これだけ実体経済と金融経済の格差が拡大すれば、金融政策の目標は実体経済ではなく金融経済でなくてはならない。245.3兆ドルという途方もない規模に拡大した金融資産の監視・管理こそが、FRBの使命なのだ。米金融資産の1.0%が動くだけで、2.4兆ドルが世界の金融・資本市場を駆け巡ることになる。

世界の富裕層は巨額の金融資産を保有しているので、リスクを取ることにやぶさかではない。金融資産を積極的にリスクに晒し、高収益を狙う戦略を採用するかもしれない。天文学的金融資産の保有は怖いもの知らずの行動にでるだろう。だから、米株が過去最高値を更新しても依然強気を維持することができるのだ。

10月の米消費者物価は前年比1.2%と物価は緩やかに上昇しており、家計も企業も心地よい状態なのではないだろうか。米3カ月物短期金利は0.22%であり、実質金利は約1%のマイナスとなる。富裕層は金融資産を担保に実質マイナス金利で資金調達し、株式で運用する。もとより値上がり益を狙うのだが、配当も魅力的である。S&P500の配当利回りは1.7%と預金金利を大幅に上回っており、配当目当ての株式購入も決して少なくないはずだ。

2019年の米個人配当所得は1.29兆ドルと20年前の1999年の3.73倍に拡大している。利子所得は1.67兆ドルと配当所得よりも多いが、過去20年間の伸びは1.65倍であり、利子・配当所得比は1999年の2.92から2019年には1.30に低下しており、差は縮小してきている。

ゼロ金利は金融資産の膨張に拍車を掛け、富裕層の資産増勢に寄与しているのだ。資産格差の拡大は米国社会の分断を一層深くするだろう。長期的に名目4.0%前後の経済成長が期待でき、政策金利もそれに相応しい水準に引き上げなければならない。だが、政策金利を実体経済成長率を下回る水準に据え置くことにより、金融経済の拡大にFRBは加担しているのだ。金利に敏感な金融経済がここまで肥大化すると金利の大幅な引き上げはできなくなる。株式を含む金融経済の異常な膨張を招いたFRBはどのようにバブルを始末するのだろうか。

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