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トランプ不況がやって来る

またしてもトランプ大統領の奇襲ともいえる対メキシコ関税の発表により、米株式は大幅に値下がりし、債券は上昇した。米国経済の不透明感が強まり、米株式下落と国債利回りの低下は円高ドル安をもたらし、日本株も今年1月下旬以来、約4ヵ月ぶりの安値を付けた。原油価格は急落し、CRBは今年1月上旬以来の水準に低下した。米10年債利回りは2017年9月以来1年8ヵ月ぶりの水準に低下し、FFレートを下回り、名目GDPの伸び率の半分以下となった。

メキシコが不法移民の流入を止めなければ、10月にはすべての輸入品にたいして25%の関税を課すという。米中間だけでなくメキシコまで貿易戦争が広がることになれば、米国経済だけでなく世界経済への先行き不安は募る。無謀な政策によって、経済が下降し、混乱すれば、トランプ大統領の再選も覚束なくなる。民主党には有力な対抗馬がいないとみて、これだけ大胆な関税政策をぶち上げたのだろうか。

米国の輸入額(モノ、2018年、BOP)第1位は中国(5,402億ドル)、2位がメキシコ(3,528億ドル)である。米国の総輸入額は2兆5,636億ドル、中国とメキシコの合計額は全体の34.9%に当たる。米国のモノの輸出は1兆6,723億ドルであり、赤字額は8,913億ドルだ。対中赤字は4,192億ドルと最大で、総赤字額の47.0%を占め、次がメキシコの872億ドルで9.4%に当たる。このようにモノの輸入額と赤字額の1位、2位がトランプ大統領に槍玉に挙げられているのだ。メキシコの次に赤字が大きいのが日本(688億ドル)とドイツ(686億ドル)であり、トランプ大統領はそこに矛先を向けようとしている。

先日、トランプ大統領は訪日時に記者団に対して「8月に大きな発表がある」と述べ、日本にも選挙後、自動車や農産物で譲歩を迫る含みを持たせた。メキシコの次は日本を俎上に載せるような戦略を練っていたのだ。

関税を上げれば、モノが高くなるので輸入は少なくなるだろう。だが、米国民にとっては必要なモノが高くなり、入手し難くなる。資本財であれば、もし代替が効かなければ、生産が止まることにもなる。米国でさえ輸入抑制策の影響は消費や生産の両面に現れてくるのは避けられない。

昨年、米国は海外からモノだけで2兆5,636億ドル購入し、巨額の外需を作り出したのである。その結果、赤字額は8,913億ドルに膨らんだ。赤字を解消できるほど輸出を増やすことはできないので、関税を使うということなのだ。赤字を減らすために関税を課し、輸入を抑制すれば、世界経済は外需の減少から供給過剰になるだろう。とりわけ高関税によって、中国とメキシコの商品・製品の生産は縮小を余儀なくされるはずだ。中国やメキシコの生産縮小は国内経済を悪化させ、資本財だけでなく資本財部門の家計にも影響し、消費減を引き起こす。中国やメキシコは輸出だけでなく輸入も減少することになり、貿易の縮小の波は世界経済に伝播することになる。

このまま貿易戦争を続けることになれば、トランプ不況が確実にやってくる。今月末に日本でG20が開催されるが、トランプ大統領の高関税政策を最大のテーマとし、貿易政策の在り方を議論してもらいたい。トランプ大統領に世界経済が振り回されないように、G20で高関税による貿易戦争ではだれも勝者にはなれず、世界経済を破壊するだけだという共通認識を確立すべきだ。

2018年のモノの米貿易赤字額は2006年を抜き過去最大となった。2006年から2008年までは8,000億ドルを超えていたが、金融危機によりマイナス成長に陥ると、2009年には輸入が前年比26.2%も急減し、赤字額は38.8%減の5,096億ドルに縮小した。米輸入の動向は米国経済次第なのである。経済が拡大していれば国内で生産される生産物以上のモノの強い需要が発生する。貿易赤字は国内生産では賄いきれない旺盛な需要があるという米国経済の構造的な問題なのである。

米製造業は低賃金労働力を求めて海外に進出した結果、国内生産が衰退し、輸入せざるを得ない経済になってしまった。企業はいまも安い労働力の国に生産を移転しているが、そうした国内から海外への生産移転を続ける限り、輸入の拡大は不可避である。米国も輸入を減らし、赤字を削減したいのであれば、生産拠点の海外移転を禁止しなければならない。企業が海外に積極的に進出していき、それで貿易赤字が拡大し、輸入を制限するのは筋が通らず、無節操である。

だが、輸入超国の利点もある。経済が悪化すれば、超過需要分を満たすための輸入が減少することで国内の生産水準をそれほど落とすことなく、米国経済の不況は軽微にとどまるからだ。いつの不況のときも、不況の震源地である米国よりもつねに海外の経済がより悪くなったことをこれまで幾度も経験している。日本などはその代表である。2008年の金融危機後の経済や株式の落ち込みは米国の比ではなかった。米国経済は不況に強い国なのだ。高関税を課し、世界が不況に陥っても、米国がもっとも症状が軽くて済む、こうした自信があるからトランプ大統領は貿易戦争を仕掛けているのかもしれない。

しかし、今の場面は、仕掛けた米国が酷い経済状態に陥るのではないか。株式の過去数年での異常な値上がりは、経済変化に敏感に反応するだろう。NYダウの週末値は2万4,815ドルだが1万ドル下落しても不思議ではない。米国経済の減速はあきらかになっているが、一層停滞していけば、バブル化している株式は悲観的になっていくだろう。経済が本格的な収縮過程にはいれば、トランプ大統領もFRBも株式をマニュピュレートすることはできない。

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