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中央銀行は金融経済の僕

冴えない米経済指標の発表などで米10年債利回りは低下しつつある。週末の米10年債利回りは2.59%と昨年11月までの3.0%超から大幅に低下し、政策金利に近づいてきた。過去の10年債利回りと政策金利の関係から言えることは、両者が接近してからは両者ともに低下していくことだ。景気のピークよりも先に、10年債利回りはピークアウトしている。ITバブル景気や金融バブルの時も10年債利回りは景気の山に先行して低下している。経験則からは米国景気も曲がり角に差し掛かっていると言えるだろう。

米景気先行指数は昨年10月以降足踏み状態であり、先行性が高い一致・遅行指数も昨年9月をピークに低下している。2月の米非農業部門雇用者数は前月比2.0万人と前月の31.1万人から急減した。ただ、賃金は前年比3.4%と2009年4月以来9年10ヵ月ぶりの高い伸びとなった。昨年12月の貿易統計によれば、ものの輸出は前年比0.8%減少し、輸入の伸びも3.4%に鈍化してきている。米中貿易紛争の影響が米国自身にも降りかかってきているのだ。

米国の消費は著しく減速し、それにつれて生産も失速しつつある。米小売売上高は1月、前月比0.2%と前月の-1.6%からは回復したものの、小幅な伸びにとどまり、前年比では2.6%と昨年10月までの6%超の伸びに比べると様変わりだ。2月の米鉱工業生産指数は前月比0.1%と前月の-0.4%からプラスに転じたとはいえ生産は弱い。製造業に限れば2ヵ月連続のマイナスだし、前年比では1.0%と昨年9月(3.8%)以降鈍化している。

鉱工業生産のなかでも最終生産物、とりわけ消費財が弱く、3ヵ月連続の前月比マイナスである。自動車・同部品は2ヵ月連続の前月比減、前年比でもマイナス3.2%だ。生産財も2ヵ月連続の前月比減と悪化しており、辛うじてエネルギー部門だけが健闘している状況である。

こうした消費と生産の減速から消費者物価の伸びも鈍化している。2月の米消費者物価は前年比1.5%と昨年7月をピークに低下し、2016年9月以来2年5ヵ月ぶりの低い伸びである。食品・エネルギーを除くコア指数は前年比2.1%と昨年の8月以降、2.1%~2.2%の狭い範囲に収まっている。

米国経済も雲行きが怪しくなっているけれども、欧州経済は米国以上に苦しい状況下にある。ECBは7日、政策金利を据え置き、利上げの時期を来年に先延ばしすると発表した。欧州経済の低迷により、すでに1年以上、ドル高ユーロ安が続いている。

昨年2月以降、独10年債利回りは低下しており、現状の水準は2016年10月以来の低水準だ。米独10年債の利回り格差の拡大がドル高ユーロ安をもたらしている。鉱工業生産だけを取り上げ比較してもドイツ経済の深刻さがわかる。2月の米鉱工業生産は前年比3.5%増加したが、ドイツは1月、前年比3.6%減だ。因みに、1月の日本の鉱工業生産は前年比ゼロと米国とドイツの中間である。

ドイツの昨年第3四半期の実質GDPは前期比-0.2%、続く第4四半期は0.0%とほぼリセッションの状態である。1月の生産や資本財受注の悪化などから判断すれば、ドイツ経済の現況はさらに悪化している。鉱工業生産のうち輸送関連は1月、前年比-13.1%、資本財受注も2ヵ月連続の前年割れだ。

日本の1月の機械受注(総額)は前年比-9.1%と2ヵ月連続のマイナスとなったが、特に、外需は-22.7%も落ち込んだ。昨年第4四半期の大企業製造業の営業利益は前年比-18.5%と2四半期連続の減益となった。機械受注の外需と大企業製造業営業利益との結びつきは強く、営業利益は外需の動向に左右される。1月の外需の大幅な受注減は間違いなく、今年第1四半期の営業利益に悪影響するだろう。

日銀とECBはゼロ金利、FRBは2.25%で打ち止めしそうな異常な金利政策が続いている。それでも世界経済は減速を強め、日本やドイツは景気後退に近い経済状態にある。以前の経済は製造業の割合が高く、資本設備増強のための資金需要は旺盛であった。そのようなときには、政策金利の上げ下げはそれなりに効果を発揮していた。しかし、2017年度の全産業に占める製造業設備投資比率は33.2%(法人企業統計)に低下し、さらに設備投資金額は回復したとはいえ、15兆円と過去最高の1991年度(22.5兆円)には比べ物にならない。

一方、2017年度の製造業純資産は229.5兆円と1991年度の2倍に拡大している。非製造業純資産は2017年度、504.4兆円と1991年度の4.3倍に急拡大した。これだけの純資産を保有していれば、銀行借入などする必要はない。自前で設備投資を賄うことができるのである。潤沢な内部留保が金融政策を骨抜きにしているのだ。

国内の人口は減少し、少子高齢化が加速するなかでは、需要は減少するのが当然である。だから、企業も設備投資には慎重にならざるを得ない。期待収益率も低迷しているので、金利がゼロでも設備投資を牽引する要因にならない。

日銀は未だに2%の物価上昇を目標に掲げているが、お題目のようなものだ。唱えるだけで、仕事になるというのは坊主と同じではないか。物価がゼロ近くで安定していることも設備投資の変動を抑えているのである。物価の安定は設備投資だけでなく、家計を含むすべての経済活動の計画立案から完成までを容易にする。ゼロ近辺にある理想的ともいえる現状の物価環境がなぜ悪いのだろうか。金融政策では物価をコントロールできないことは、これまでの金融政策で証明され尽くしたと思うが。

金利をゼロにしても家計の消費行動に変化はない。所得を増やさない限り、消費マインドは明るくならないからだ。消費に変化がなければ、設備投資を進める必要はない。金融政策は実体経済には無力なのである。金融政策が影響するのは金融や不動産の世界だけである。ゼロ金利によって金融や不動産はバブル化しており、このバブルを崩さぬように、FRBなどは恐る恐る利上げしてきた。だが、株式が崩れる気配をみせただけで、パウエルFRB議長は「政策運営に当たり下振れリスクを考慮する」(1月4日)とまで言う。FRBは金融経済の僕なのである。

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