Share |

今年最大のリスクは米株式

米中貿易協議の合意を好感し、米株式は過去最高値を更新、それに連れて、主要国の株式も堅調に推移した。米株との相関性が高い日本株も昨年は前年比18.2%上昇した。2018年はマイナス12.1%であったが、2012年から2017年までは6年連続の続伸であった。NYダウはリーマンショックによって、2008年は33.8%下落したものの、2009年以降2014年まで6年連続のプラス、2015年と2018年は小幅の調整を経験したが、2016年、2017、2019年はいずれも2桁増となり、まさに鰻上りの様相を呈している。米株式が好調なことからドルは強含み、円ドル相場は昨年5月以来の110円台を付けた。為替相場に影響力のある米10債利回りはまだ1.82%と低いものの、昨年8月を底に緩やかに上向いていることもドル高に繋がっている。

ただ、2017年から2019年までの3年間の年平均円ドル相場をみれば、2017年の112円38銭から2019年の109円へと円高ドル安に動いている。円高ドル安に推移したとはいえ、変動幅は僅かであり、それよりも米株の最高値更新が日本株にはより強く影響しているようだ。

いずれにしても米株の行方が世界の株式を決定付ける要因であることは間違いない。株式だけでなく世界経済の帰趨を握っているのかもしれない。米株がこのまま高値を更新し続けていけば、ドルは強く、世界の株式もそれを追いかけていくであろう。逆に、米株が天井を付け下落していけば、ドルは売られ、世界の株式は急落という事態に見舞われるだろう。米株式の変動に世界経済は翻弄されることになる。

米中貿易戦争にもかかわらず、米国経済は実質前年比2%程度の成長を持続し、消費者物価指数は前年比2.3%と落ち着いている。消費者物価の伸びが低ければ、失業率は高くなるはずだが、3.5%と50年ぶりの歴史的低水準を付けている。物価の伸びが低く、低失業率であり、2%の成長を続ける米国は理想的な経済状態下にあるといってよい。

昨年、FRBは政策金利を2.25%から1.5%に引き下げた。名目3.8%の経済成長をしていながらの利下げである。政策金利は名目成長率よりも2.3ポイントも低い超金融緩和策だが、トランプ大統領はこれでも不満なのだ。日本やユーロのように、ゼロでもマイナスでもよいと思っているのだろう。もし、米国経済になにか不安な兆候が現れれば、トランプ大統領は即刻、利下げを要求するだろう。米株式はすでにゼロ金利やマイナス金利を織り込みつつあるのかもしれない。

今のところ米国経済に目立った変化はなく、物価安定と低失業率は両立していくだろう。内部的には米国経済が腰折れすることはなさそうだ。かつては原油価格の急騰が激しいインフレをもたらしたが、世界最大の産油国になった今では、そのような危惧は当てはまらなくなった。ホルムズ海峡が航行不能になっても米国はまったく困らないのである。困るのは日本をはじめとするアジアの国々なのだ。だから、イランに対して、トランプ大統領は強行策に打って出たのだろう。

トランプ大統領が対中貿易戦争を仕掛けることができたのは、高関税で輸入が減少することで、貿易赤字が縮小し、GDPを引き上げることができるからだ。例えば、2009年の米名目GDPは前年よりも2,639億ドル減少したが、個人消費支出は1,341億ドル減にとどまった。もっとも減少額が大きかったのは財の輸入で5,589億ドルに達し、貿易赤字額は前年よりも3,266億ドルも減少した。赤字の米国はものの輸入減でGDPを押し上げることができるが、黒字の輸出国にとって輸出減はGDPを押し下げることになり、打撃は米国よりもはるかに大きくなる。貿易赤字の米国は大幅な黒字の中国に貿易戦争を仕掛ければ、中国経済は窮地に追い込まれる。

貿易戦争には歯止めが掛かったけれども、今回の合意内容はトランプ大統領の選挙対策の側面が強く、どこまで実行されるか疑問である。中国よりも優位な立場にあるとはいえ、輸出減などにより米国経済に陰りみえてくれば、トランプ大統領の矛先はどこに向かうのだろうか。さらに強い保護貿易策を採るかもしれず、日本なども標的になりそうである。

こうした米国経済の強さが米株式を強気にさせているように思う。だが、最高値更新を続けることこそ、最大のリスクではないだろうか。経済が安定しているとはいえ、実質2%程度の成長しか見込めず、昨年10-12月期のS&P500の企業収益は減益が予想されている。対中貿易戦争がものの輸出の前年割れをもたらし、製造業の生産は昨年の第3、第4の2四半期連続の前年比マイナスである。

今年の最大のリスクは今絶好調にある米株式だ。昨年のFRBの利下げが米株式を一段押し上げ、バブルが膨らんだ。2008年末から昨年末までの11年間の上昇率はNYダウの3.25倍に対して日経平均株価は2.67倍であった。因みに、ナスダック総合は5.69倍とダウをはるかに上回った。2008年10-12月期から2019年7-9月期までの名目GDPは1.5倍にすぎず、いかに株式が実体経済に比べて上昇しているかがわかる。まさに米株式はバブルなのである。本来であれば、株式は実体経済を反映したものでなければならないが、そのような領域はとっくの昔に過ぎ去ってしまっている。バブルが大きくなればなるほどバブル崩壊による実体経済破壊力は大きくなる。昨年9月末の米株式価額は49.5兆ドル(1ドル=110円で5,445兆円)、1割喪失するだけでも日本のGDP1年分に相当する。米国発の株式バブル崩壊の大地震によって発生した津波は、世界の金融・資本市場だけでなく実物経済をも呑み込み、大混乱に陥れるだろう。

関連資料サイズ
200120).pdf396.44 KB