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円ドル相場と米GDPを探る

米株は過去最高値を更新し止まるところを知らないが、ムニューシン米財務長官の発言により、対ドルで円が急伸したことから、日本株は押された。円ドル相場は昨年9月以来の円高となり、輸出への懸念が広がっている。昨年12月の輸出は前年比9.3%増加したが、昨年6月以来6ヵ月ぶりの一桁増にとどまった。輸出の伸びは昨年7-9月期にピークを付け、すでに下り坂に入っている。昨年12月の平均円ドル相場は112円48銭と前年同期(113円31銭)よりも円高であった。今年1月の円ドル相場は昨年12月よりも円高ドル安となり、輸出の伸びはさらに抑えられよう。今年度下期の企業の想定レート(109円66銭、昨年12月の日銀短観)を超える108円台の円高ドル安は企業収益の最大の不安材料である。

米財務長官発言の翌日、ダボス会議でトランプ大統領は「強いドルを望む」と発言したが、相場には限定的だった。米国第1主義を前面に出すトランプ大統領にとっては、輸出の伸びがなにより大事なのだ。輸出を伸ばすドル安は歓迎すべきことなのである。FRBの名目実効ドル相場は1月19日現在、116.76と2015年7月以来のドル安だが、金融危機以降の100割れに比べれば、その水準をかなり上回っており、ドルが不安になるような水準ではない。対日貿易赤字が多いだけに、トランプ大統領の本音は対円でドルはもっと下がるべきだと思っているのではないだろうか。

ドルは対ユーロもでも大幅に下落し、2014年12月以来約2年ぶりのドル安ユーロ高だ。ユーロ安によって、ドル建ての商品市況は値上がりしており、CRB指数は2015年8月以来の200超え、特にWTIは1ヵ月で13.2%も上昇した。だが、銅価格は1ヵ月前と比べて0.6%減であり、原油価格等の値上がりが需要拡大ではなく、単に、ドル下落要因による上昇を示唆している。

昨年10-12月期の米GDPが明らかになったが、実質前期比年率2.6%と前期よりも0.6ポイント低下した。ただ、個人消費支出は3.8%と2016年4-6月期以来の高い伸びだ。サービス支出は1.8%と低調だったが、物への支出が8.2%と大幅に伸びたからだ。さらに設備投資も6.8%と7四半期連続のプラスとなり、堅調に推移している。世界経済の拡大によって輸出も伸びたが、それ以上に輸入が伸び、大幅な入超となった。政府部門は軍事支出の拡大で3.0%増と2015年4-6月期以来の高い伸びとなった。輸入が輸出を大きく上回ったため、純輸出の寄与度は1.1%、また在庫も0.67%それぞれマイナスとなり、成長の足を引っ張った。

昨年10-12月期の名目純輸出は年率マイナス5,993億ドルと2012年1-3月期以来5年9ヵ月ぶりの巨額赤字だ。2017年の純輸出はマイナス5,709億ドルと2011年以来6年ぶりの赤字額である。こうした巨額の赤字をトランプ大統領は快く思っていないことは間違いない。一方、2017会計年度の財政赤字額は6,657億ドルと2年連続で悪化し、減税の影響で財政赤字はさらに膨らむはずだ。

昨年の米輸入額は2兆9,148億ドル、日本円では約316兆円になる。いかに米国が海外の需要を支えているかがわかる。2017年の貿易赤字額は2008年までの5年間の赤字額を下回っているが、それでも再び増勢傾向にあることを考慮すれば、トランプ大統領が為替を武器に画策することは十分考えられる。米財務長官がまず伏線を敷いたということではないか。

過去10年の円ドル相場は1ドル=75円から125円まで50円の幅がある。中間は100円であり、今は100円に比べれば円安なのだ。今年もFRBは利上げを続けるという。利上げに伴い米国債利回りも上昇していけば、ドル高円安に進むだろう。次期FRB議長ジェローム・パウエルFRB理事は利上げに慎重であり、イエレン議長を踏襲するとは限らない。トランプ大統領はドル高要因になる利上げに対しては圧力を掛けるだろう。輸出を増やし、輸入を減らすことは、米国第1主義を象徴することだから。

2017年の米実質GDPは前年比2.3%と2016年(1.5%)に比べれば改善したが、それでも緩やかである。2017年までの5年間の年平均では2.2%しか伸びていない。成長力が強くならないのは、GDPの約7割を占める個人消費支出に元気がでないからだ。2017年までの5年間の個人消費支出の平均伸びは2.4%にとどまっている。GDPよりも高いが、気まぐれな他の支出項目を補うにはもっと伸びなくてはいけない。特に、サービス支出は過去5年間の平均伸び率が2.1%と低く、サービス支出の伸びが高くならなければ、個人消費支出を底上げすることはできない。

個人消費支出を決めるのは可処分所得である。2017年の可処分所得は実質前年比1.2%と個人消費支出の伸びを下回っている。過去5年間の年平均でも1.8%と個人消費支出の伸びよりも低い。

2017年までの10年間の年平均可処分所得の伸び率は1.7%と2007年までの10年間(3.4%)の半分に落ち込んだ。この結果、2017年までの10年間の個人消費支出は年1.7%と2007年までの前10年間の3.7%から2ポイントも急低下した。実質GDPも2007年までの年3.0%から2017年までの10年間では1.4%に下落した。

これほど低い可処分所得の伸びでは個人消費支出を拡大させることはできない。個人消費支出の伸びが低いから物価も上昇しないのである。2017年のPCE物価指数(食品・エネルギーを除く、コア)は前年比1.5%と前年より0.3ポイント低下した。過去5年間では平均1.5%と極めて安定している。さらに長期のPCE物価指数コアを見ることにしよう。1997年までの10年間の年平均は2.94%であったが、その次の2007年まででは1.77%、さらに2017年までは1.56%へと長期的に低下していることが明らかに読み取れる。理想的な物価環境といえる。過去20年間の年平均上昇率が2.0%に満たないのに、FRBはなぜ2%を目標とするのか不思議でならない。

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