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円高の主因は20兆円超の経常黒字

週末、円ドル相場は1ドル=108円台へと大幅に上昇し、週末値としては昨年11月第2週以来の円高ドル安となった。トランプ大統領の「ドルは強すぎる」とのインタビューでの発言が効いた。報道では「円は比較的安全な資産」だから買われているのだという解説をよく聞くが、はたしてそうだろうか。トランプ大統領は「中国なしで問題を解決する」と中国に圧力を掛け、原子力空母を朝鮮半島近海に急行させるなど、緊張が高まっていながら、「円は比較的安全な資産」などといえるだろうか。逆に、「円は相当危険な資産」に分類されるのではないか。
円が危険な資産であっても、円を買うことでなにか利益を獲得できるから円買いが進行しているのだ。過去1ヵ月で円ドル相場は5.3%円高に振れている。ドルユーロ相場はほぼ横ばいであり、円ドル相場の動きが際立っている。ポンドとスイスフランは3.0%、0.5%それぞれ上昇しているが、円に比べれば値上がり率は低い。円だけがこれだけ対ドルで上昇するのは不思議なことである。円の魅力はどこにあるのだろうか。
円高ドル安の進行により、日本の企業業績は製造業中心に悪化するだろうとの見方から日本株は売られている。過去1ヵ月で日経平均株価は6.5%も下落し、昨年11月第3週以来約5ヵ月ぶりの安値を付けた。円ドル相場も昨年11月第2週以来だから、株価と円ドル相場はまさに連動しているのである。
過去1ヵ月、NYダウの下落率は1.8%にすぎず、また欧州の株式は横ばいで推移しており、日本株の下落率が突出している。円高ドル安になれば面白いくらいに日本株は安くなるのだ。なにが材料になろうが、理由がなにであれ、円高ドル安になってくれれば、日本株の売りで儲けることができるのである。
財務省の『法人企業統計』によれば、昨年10-12月期の大企業製造業の営業利益は前年比8.2%と5四半期ぶりのプラスになった。プラスになった主な要因は円安ドル高である。だが、昨年末の円ドル相場(116円87銭)に比べれば、先週末は8円26銭、7.1%もの円高ドル安だ。ドル建ての輸出額を円に変換すれば、昨年末比7.1%も減少することになる。
外人は日本株を4月第1週は買い越したが、買い越しは2月第2週以来8週間ぶりである。1月半ば以降、外人は売りスタンスであり、日本株売却による円取得額は膨らんでいる。取得した円は他通貨に替えるのではなく、円で保有しているはずだ。外人の日本株に関連する円売りはわずかなものだろう。
むしろ、日本企業・機関投資家等のドル資産売却による円買効果が大きいのではないか。昨年の経常収支は20.3兆円の黒字を計上し、2007年(24.9兆円)以来9年ぶり、過去2番目の大幅黒字となった。経常黒字は2007年をピークに減少したけれども、金融危機後も貿易収支が改善をみせ、2010年の経常黒字額は19.3兆円に拡大した。それによって円高ドル安に弾みがつき、経常黒字がすでに大幅に縮小しているにもかかわらず、2011年には70円台へと円は急騰した。
貿易収支は2011年には赤字に転じ、その後、貿易赤字は急速に拡大していった。貿易赤字額は2011年には3.1兆円だったが、2014年には13.4兆円へと急増した。そのため、同年の経常黒字は3.9兆円、ピークの15.7%まで縮小した。2012年から2014年まで経常黒字は5兆円に満たない低水準で推移したことから、円買いドル売りは縮小し、円ドル相場は円安に向かっていった。経常黒字額が2014年の3.9兆円から2015年に16.2兆円へと一気に4倍強に急回復したけれども2015年の年平均円ドル相場は121円と2014年よりも15円70銭も円安に振れた。しかし、2016年の経常黒字が20.3兆円へと一段拡大すると、同年の平均円ドル相場は108円95銭と12円05銭の円高ドル安となった。
昨年秋以降の円安ドル高は、トランプ氏が大統領選に勝利したことによる米国経済への期待が高まったからであり、こうした期待が期待の域を出るものではなかったことがあきらかになりつつあることが、今の円高ドル安を招いている。経済のファンダメンタルズ、特に、外国通貨の取引に関わる経常収支に基づく相場が今、形成されつつあるといってよいだろう。
基本的には、円ドル相場は経常収支の動向によってその動きは規定されるのである。日本の経常黒字が巨額の状態を持続していれば円高ドル安は強まるだろうし、経常黒字が縮小を続けていれば円安ドル高に向かうことになる。
2012年末に再登場した安倍首相と2013年3月に就任した黒田日銀総裁のコンビにより、大規模な国債買い取りを実施したことが円安ドル高の道筋をつけたと言われているが、2012年の経常黒字は4.7兆円、前年の半分以下に縮小し、2013年、2014年と黒字額はさらに減少しており、こうした黒字の減少が円高から円安へと言わば自律的調整機能として作用したのである。
日銀の金融機関からの国債購入で日銀券を供給したところで、金融機関の資産が国債から現金に置き換わっただけであり、これは円安ドル高要因にはなりえない。日銀が日銀券を供給すれば、円の価値が低下するので円安になるという意見もあるが、日銀券発行高と円ドル相場の相関関係は薄い。円を売ってドルを買う動きが大きくなれば円安ドル高になるけれども、国内資金取引ではすべてが円取引であり、ドルやユーロにはまったく影響しない。貿易・資本取引やその決済をするときに発生する円と外国通貨との相対的需給関係によって通貨の価値は決まるのである。

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