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原油高を招きロシアを強気にさせたFRB

原油価格WTIはバレル90ドルを突破した。2020年末比では90.3%、CRBも55.7%の急騰だ。ウクライナ情勢の先行きが不透明なことがエネルギー価格を押し上げている。ロシアが米国やEUとの対決姿勢の矛先を緩めない中、対話にも応じている。こうしたはっきりしない状況を作り出すことがWTIの続伸を支えているのだ。ロシアはウクライナの新ロシア派支配地域を手掛かりに、さらに支配地域を拡大したいのだが、それだけでなく、原油、液化天然ガスや石炭の価格を引き上げ、ロシア経済を潤したいのである。ロシアが強気の姿勢を維持できるのは、原油等資源価格高によって財政が豊かになり、軍隊をウクライナに張り付ける余裕があるからだ。金がなければ軍事行動にはなかなか踏み出せないのだが、今は金に心配することはないのだろう。

原油価格高騰の理由のひとつにFRBのゼロ金利を挙げることができる。常に生き馬の目を抜くことを目指している世界の投機家にとって、対象商品はなにでもかまわない。わずかでも短期間で利鞘を稼ぐことができれば投機の対象になる。世界的に長期間、ゼロ金利が続いていることが、鞘を抜くことを可能にしており、投機が圧倒的になることは避けられない。FRBのゼロ金利政策による原油高騰で、軍事費の増大を十分に賄える資金的余裕が生じていることが、プーチン大統領を強気させているようにも思える。そうであれば、FRBはプーチン大統領を支援しているともいえる。

これだけ世界中で地球温暖化を叫んでいるのであれば、原油節約的になる原油高は歓迎すべきではないか。エネルギー消費量を減らすには、原油高は最大のCO2削減策になる。ただ、富裕国は原油高だからといって、消費量を減らすところまでにはいたらないだろう。困るのは貧しい国であり、原油高が生活水準を一層押し下げることになりかねない。

ロシアを始め原油生産国の多くは資源モノカルチャーだから、原油が高騰し、一時的には実入りが多くなるが、結局、輸入品の値上がりによって、収入増も消し飛んでしまう。資源を利用して高付加価値製品を生産をする一連の生産プロセスが構築できなければ、原油の値上がりだけでは、一過性の現象で終わってしまう。

日本の2021年の原油や液化天然ガスなどの鉱物性燃料輸入額は16.9兆円、前年比50.3%も急増した。新型コロナによって2020年の名目GDPが前年比3.6%減少したからであり、2019年とはほぼ同じ輸入額である。2014年の輸入額は27.7兆円と昨年よりも63.9%も多く、それに比べれば輸入額は減少している。鉱物性燃料輸入額は名目GDPと概ね同じ動きをしている。

2020年までの過去15年間の鉱物性燃料輸入額の企業売上原価に占める割合は、最低1.11%(2016、2020)、最大は2.55%(2013)である。2021年の鉱物性燃料輸入額は2019年並みであるからこの割合は1.5%前後だろう。さらにこれから原油価格が上昇したとしても2.5%を超えるようなことにはならないのではないか。

原油価格等の上昇の日本の消費者物価に及ぼす影響は、コア指数をプラスにする程度ではないだろうか。2021年のCPI総合は前年比-0.2%と2016年以来6年ぶり、生鮮食品・エネルギーを除くは-0.5%と2013年以来9年ぶりのマイナスだった。今年1月の東京都区部CPIコアは前年比-0.7%と足元もマイナスであり、これからも原油高のCPIに及ぼす影響は限定的だと言える。

2007年10月以降、WTIはリーマンショック後の2年間を除けば、2014年9月まで90ドルを超えるような水準で推移していた。その間、CPIは最高でも1.4%(2008年)であり、コアはほとんどの年でマイナスのデフレ状態であり、原油高は不況によりCPIをプラスに引き上げることもできなかった。

2010年以降の民間最終消費支出は、消費税引き上げにより伸びた2013年を除けば、2012年と2017年の1.4%が最高で、マイナスが4回みられる。2021年も第2四半期はプラスだったが、第1と3四半期はマイナスとなり消費は回復していない。価格は需給が一致したところで決まるけれども、無理やり価格を引き上げれば、需要不足の状態を招き、結局は価格を引き下げざるを得なくなる。日本のたどたどしい需要では、原油高をモノやサービスの価格に転嫁することは極めて難しい。

今こそ、大企業などは巨額の内部留保を少しは掃き出し、安易な値上げに走らないほうがよい。また、下請けに値引きなどの無理難題を押し付けてはならない。資源高によって濡れ手で粟の商社などは、利益の一部を社会に還元すべきだ。

米国は物価高に見舞われているが、その主因は賃金高であり、原油等の資源高ではない。今年1月の雇用統計によれば、非農業部門雇用者は前月比46.7万人増加し、雇用は拡大基調にある。1月の非農業部門雇用者は2020年2月の過去最高の98.1%まで回復してきた。ただ、雇用の回復は一様ではなく、2020年2月の水準を超えている部門もあれば、下回ったままのところもある。特に、低賃金部門であるレジャー関連の雇用はピークの9割と回復が遅れ、ヘルスケアの分野も全体の回復よりも遅れている。

こうした低賃金部門の雇用回復の遅れが、賃金上昇となって表れており、1月の賃金は前年比5.7%の高い伸びとなった。さらに、高学歴者の失業率は前月比+0.2ポイントの2.3%に上昇したが、高卒の4.6%の半分であり、高学歴者の労働需給の逼迫が賃金上昇の要因になっていると考えられる。

WTIとCPIコアの長期の関係をみるとWTIやCRBの高騰にもかかわらず、米CPIコアは高くても2%台の上昇にとどまっており、安定していた。それが、3%、4%を超え、昨年12月には5.5%と5%を突破した。

1939年以降の雇用統計で2020年3月、4月のたった2カ月間で2、199万人が仕事を失う事態は初の経験だ。2020年5月以降、今年1月までに1,911万人が雇用され、労働市場はかつてない収縮と拡大に翻弄された。賃金上昇もそうしたどたばたのなかで起きたことだ。労働市場が落ち着きを取り戻してくれば、賃金の上昇も緩やかなものになるだろう。そして、CPIコアも2%前後の安定した姿に戻るのではないだろうか。2021年までの過去10年間の米GDP物価指数は年率1.9%であったが、向こう10年もこれから大きく逸脱することはないのではないか。

非農業部門雇用者は過去1年、月平均55万人増加してきた。このペースで雇用が拡大していけば、年央には2020年2月のピークに達することになる。1月の労働力参加率や雇用・人口比率は2020年2月を1.2ポイント、1.5ポイントそれぞれ下回っており、労働供給余力はある。希望する職種の採用があり、働く意欲があれば、米国では仕事に就く機会はまだまだある。

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