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問題は外部ではなく内部に所在

参議院選挙を控え、岸田政権は人気取りの政策発信に余念がない。石油元売り会社の業績は急増(最大手のENEOSの2021年度の当期純利益は前期比4.1倍の6,777億円)しているにもかかわらず、激変緩和措置として補助金を支給。価格メカニズムによる市場機能をまったく無視した愚策だ。原油高は永遠に続くことはなく、価格が高ければ、自ずと需要は減少し、価格は落ち着くはずだ。化石燃料等のエネルギーの節約が叫ばれているときに価格高による化石燃料節約に逆行している。

消費者物価にしても、5月の東京都区部総合は前年比2.4%だが、生鮮食品とエネルギーを除くコア指数は0.9%に過ぎない。総合の91.4%当たるコア指数は1%に満たない上昇にとどまっており、欧米に比べて日本の物価安定度は群を抜いていると言える。2021年度までの過去30年間の年度の伸びを振り返ってみても、1%を超えたのは5回である。だが、上昇したのは消費税の導入と税率の引き上げによるものであり、需要増やコスト要因で1%を超えたことは一度もない。

ロシアのウクライナ侵攻で俄かに隣国からの脅威が持ち上がり、防衛費の増額、敵基地への攻撃をすべきかどうかなどが取りざたされている。余りにも目先の出来事に囚われ、事の本質を見失う方向に進んでいる。今回のウクライナ戦争の真の原因はなにかも解明されていないときに、表面的な現象だけを取り上げて、軍事費の拡大に走り出すことは間違っている。憲法9条の「武力による威嚇又は武力の行使は、・・・永久にこれを放棄する」がなし崩しに成りかねない。ウクライナ戦争に乗じて一気に憲法9条は覆されることになるかもしれない。世論の流れにまかせてしまう主体性のない日本人の習性を利用しよう、と画策する政治家が暗躍しているように思う。

政府は5月31日、『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)』を発表した。最初の「資本主義のバージョンアップに向けて」では、新自由主義の行き過ぎが経済的格差などさまざまな問題や弊害を生んだという。ではどうすれば弊害を取り除くことができるのか、それは官民連携によって解決していくのだそうだ。

新自由主義が蔓延ったのは政府の規制緩和と税制であった。国鉄の解体から郵政民営化など官から民へ移管したが、GDPに占める民間部門の割合は上昇するのではなく低下している。2011年度の民間部門のGDPに占める割合は76.3%だったが、2021年度には74.3%へと2ポイント低下している。所得税の累進性は緩められ、法人税率は引き下げられ、消費税率は引き上げられてきた。市場重視と規制緩和を叫びながらこのざまである。所得税の累進性緩和と消費税率の導入・引き上げは所得格差を高め、低所得者層は拡大した。国税庁の『民間給与実態調査』によれば、年間給与500万円以下の者の割合は、2000年の65.7%から2020年には69.7%に上昇している。法人税率の引き下げは賃金に比べて企業利潤の割合を高めた。また、有価証券取引税の廃止は株式を博打場へと貶め、有価証券の資本・所得利得に対する低い税率は資産格差の拡大を招いた。

現下の所得・資産格差を始めとするさまざまな問題はこうした政府の政策によって、作られたのである。したがって、上に列挙した税制をそのまま存続させるならば、問題は解消されることなく、さらに顕在化することになるだろう。『新しい資本主義』には税制については一言も触れていない。量子技術、AI実装、GX、DXなど理解しがたい文字の羅列で国民を煙に巻く。

これまで耳に痛いほど聞かされた「貯蓄から投資へ」を一層促すともいう。GDPがほぼ停滞している状態でなぜ「貯蓄から投資」への動きが起こるのだろうか。しかも所得格差が大きくなり、低所得者層が増加しているときに、株式投資など起こるはずがない。もし、そのようなことが起これば、金融経済はますます実体経済から離れてしまい、金融危機に陥ることになるだろう。

1994年度と2020年度の家計財産所得は47.9兆円から27.26兆円と43.1%も減少している。同期間、名目GDPは511.9兆円から535.5兆円と26年間で4.6%しか増えていない。人口急減に襲われているときに、名目GDPの拡大は考えられない。名目GDPが伸びない状態ではこれまでの数値が示しているように財産所得は減少していかざるを得ないのである。

米国の名目GDPと金融所得の長期の伸びを比較すると前者が後者を上回っている。1991年と2021年の30年間の比較では名目GDPの3.73倍に対して金融所得は2.93倍なのだ。米国でさえも金融所得は名目GDPを上回ることができなかった。個人所得は4.14倍と名目GDPよりも拡大しており、個人消費支出も3.99倍伸びた。名目GDPが拡大するから金融所得も伸びるのだが、名目GDPほどではないのだ。

EUなどの軍事費拡大に倣って、防衛費のGDP2%への増強が喧しいが、日本のどこに脅威が迫っているのだろうか。一番の脅威は米軍が日本に駐留していることだ。米軍が日本に存在しなければ、攻撃対象がなくなるので今よりも安全が確保されるだろう。「武力の行使を放棄」している国に攻め込むことはできないはずだ。

米国に追随する政策では、米国のような国になってしまう。バイデン大統領は、米国は民主主義だというけれども民主主義でありながら、米国になぜこれほどの所得・資産格差の大きな格差社会になったのだろうか。それは民衆ではなく富裕層が自らの富を築くための政治を行なってきたからであり、その結果、世界でも最も格差の大きい社会を作り上げたのだ。

だから、米国流の民主主義は民主主義とは言えない一部の特権階級の政治体制なのである。民主主義を標榜しながらその土台である選挙制度でさえ民主的仕組みになっていない。一票の重さを等しくする意志もないのだ。米国の政治経済を真似るのではなく、それぞれの国に適した民主政治を構築できるかどうかに、その国の命運は掛かっている。

日本は外部からの脅威ではなく、内部から崩れかかっているのだ。国の土台が揺らぎ始めている。人口減が加速しており、先行きさらに悪化しそうだ。2021年の出生数は前年比3.5%減の81.1万人である。婚姻件数も減り続け、50.1万組と過去最高の1972年(109.9万組)の半分以下だ。夫婦の初婚平均年齢は男31.0歳、女29.5歳とほぼ横ばいだが、第1子出生時の母の平均年齢は30.9歳と前年よりも0.2歳上昇した。婚姻件数の減少だけでなく、初婚平均年齢や第1子出生時の年齢など加味すると出生数は一層細るだろう。出生数の減少だけでなく低出生体重児(2,500g未満)の割合が9.5%程度の横ばいで推移していることも心配である(1980年は5.2%)。

大概、国や組織が衰退するのは外部要因ではなく内部の問題を放置した失政・悪政による。為政者は外部に脅威があるとしきりに言触らすが、偽情報である場合が多い。日常流れている新聞、テレビ等の情報が一面的であればあるほど警戒を要する。

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