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国債利回りの異常な低下

7月末、FRBは政策金利を0.25%下げ年2.00%~2.25%としたが、8月に入り、米国債(10年債)利回りは低下ピッチを速め、8月末は1.50%と1ヵ月で50ベイシスポイントも低下した。米債の利回り低下に連れて、世界的に国債利回りは低下している。かつては2桁であったギリシャも米国並みとなり、イタリアやスペインは0.99%、0.10%と米国を下回っている。各国の国債は異常なまでに買われているのだ。国債バブルと言ってよいだろう。

投資家は米中貿易戦争が長期化すれば、世界経済の足取りはますますおぼつかなくなるとみているのだろう。IMFは7月、世界経済見通しをやや下方修正したが、甘い見通しだと思う。世界経済減速下で株式のウエイトを下げ、国債のウエイトを引き上げるポートフォリオの大々的な変更が本格化している。

ドイツ国債の利回りは-0.7%と日本よりもマイナス幅が大きい。マイナスの利回りでもまだ需要があるのだ。国債の値上がり余地は依然大きいと相場を読んでいるのだろう。トランプ大統領の圧力に屈しつつあるFRBの利下げ継続に掛けているのかも。

主要国中央銀行の金融政策の姿勢が国債利回りの低下に影響を及ぼしているけれども、国債利回りはそれだけで決まるわけではない。期待収益率との関係も大事なファクターなのである。だが、この関係が、いまでは壊れてしまっており、国債利回りは、もっぱら、中央銀行の金融政策に依存している。

本来の国債利回りと期待収益率との関係からすれば、前者が後者よりも低ければ設備投資が積極的に行なわれ、その結果、期待収益率は低下し、国債利回りと釣り合う点で、設備投資意欲は止まるだろう。

4-6月期の名目米GDPは前年比4.0%伸びているが、民間設備投資は緩慢である。今は先行きが不安だから、見合わせているけれども、長期的にも国債利回りは名目経済成長率を下回っている。だが、資金需要が利回りを引き上げるほど強くはならない。

債券市場で資金調達しなくても、設備投資は自己資金で賄えるようになってきていることが、国債利回りと利益率の関係を遮断してしまった。それだけストックが豊かになってきているのだ。FRBが政策金利数%動かしたところで、それで資金の流れを変えることはできない時代なのである。たかだか0.25%の利下げでは実体経済への影響は皆無と言ってよいだろう。FRBの世間と乖離した常識と無知ぶりが露呈したと言える。

FRBの金融政策と説明は、伝統を重んじるエスタブリッシュメントなら通じるけれども、トランプ大統領にはまったく通じない。だからトランプ大統領に「プライドが高すぎて過ちを認められないFRB」(8月7日)と罵られるのだ。

4-6月期の日本の名目GDPは前年比1.6%と2四半期連続のプラスだ。昨年度は0.5%であるから低空飛行を続けているといったところか。2017年度と2018年度の民間設備投資は前年比5.4%、4.4%と名目GDPの伸びを上回っているが、金融機関の貸出の伸びはそれほど高くはない。2018年度までの6年間の貸出の伸びは年率2.4%と名目GDPの1.8%を上回っている。実体経済以外の分野で貸出は拡大したのだろう。国債利回りは名目GDPの伸びを下回った状態が続いている。政策金利をゼロまで下げ、国債利回りがマイナスになっても貸出を増やし、GDPを拡大することはできなかった。ましてや、物価上昇率を2%まで引き上げることなど絵空事に過ぎない。

『法人企業統計年報』から利益率(当期純利益・固定資産比率)を求め、国債利回りと比較すると、2001年度のITバブルまでは、明らかに両者に相関関係を読み取ることができたが、それ以降、特に2008年度以降は急速に利益率が改善しているにもかかわらず、国債利回りは低下の一途をたどるという過去にない動きを示している。

2017年度の大企業全産業の利益率は6.67%と過去最高の1969年度(7.17%)に次ぐ高利益率であった。1989年度のバブル絶頂期(4.34%)と比較すれば、2017年度が収益面ではいかに優れた実績を上げていたかがわかる。しかも、2013年度以降の利益率は5年連続で5.0%超を持続していた。5.0%超は1970年度までの5年連続以来である。9月2日公表の2018年度が5.0%超であれば、過去最長ということになる。

大企業非製造業の利益率は2016年度に1960年度以降では過去最高を更新し、2017年度にはさらに5.42%に上昇した。非製造業の利益率は長期間低迷していたが、2005年度に3.0%台に乗ってから高収益体質に転じたようだ。製造業も2013年度に7.0%台に乗ってからさらに強化され、2017年度には9.47%とこれまでの最高だった1960年度(9.08%)を抜き、過去最高を更新した。

企業利益率は過去最高を更新しているけれども、国債利回りはマイナスへと進んでいる。利益率が上がれば上がるほど、国債利回りは低下するという異常な事態が起こっているのだ。1930年代の米大恐慌のときでも国債利回りはこれほど低下しなかった。世界経済は、減速はしているが、景気後退には陥っていない。こうした経済状況下で国債利回りが低下することは、なにを示唆しているのだろうか。

米株式の変動率は大きくなっているが、過去最高値を3.5%下回っているにすぎない。債券買いに伴う株式の売りはそれほど多くは出ていない。7月の米鉱工業生産指数によれば、製造業は前年比-0.5%とマイナスに転じ、8月の米PMI製造業指数は49.9と約10年ぶりの低い水準である。自ら仕掛けた対中貿易戦争の影響が米製造業に現れてきている。金利を数%下げたくらいでは経済を持ち上げることはできない。しかも下げても最大2%だ。こうした金融政策の手詰まりが株式を不安にさせているのかもしれない。株式暴落を金融政策では止めることができないという恐怖を、国債利回りの異常な低下は暗示しているように思う。