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変貌した資本主義経済に相応しい金融政策を望む

3月25日のSTOXX600は1カ月前と同じ水準まで戻している。株式はロシアのウクライナ侵攻を深刻に捉えていないようだ。これだけロシアに制裁を課しているけれども、ロシアから原油やガスは供給されており、欧州の市民生活に支障がでているわけではない。3月のユーロPMIも前月から1ポイント低下しただけであり、ユーロ圏経済は底堅く推移しているようだ。

過去1カ月でCRBは16.2%、なかでも原油WTIは24.4%も急騰しており、エネルギー関連産業は活況を呈している。資源高はロシアの懐を潤していることだろう。欧州への原油とガスの輸出によって、ロシアは多額のドルやユーロを手に入れており、これが軍資金として使われているのだ。一方、米国もエネルギー関連企業はこの原油高の恩恵を受けているはずだ。WTIがバレル100ドルを超える水準であれば、シェール関連企業も儲けは急速に拡大することになる。先週末のS&P500エネルギー株指数は2月24日比18.5%(S&P500は5.9%)上昇していることからも、エネルギー関連企業の好業績を期待した買いが窺える。

2月の米鉱工業生産指数によれば、原油・ガス掘削部門は昨年、前年比63.7%も拡大したが、今年2月も47.4%と引き続き好調を維持している。米鉱工業生産をエネルギー(ウエイト26.56)と非エネルギー(73.44)の2部門に分けると、前者の指数は108.1(2017=100)だが後者は101.7である。鉱工業生産のエネルギー部門依存度は大きく、戦争による原油高をロシア同様、米国も享受しているのだ。さらに、米軍事産業関連の株価は2月24日比でS&P500の5.9%に対して、ロッキード・マーチンやゼネラル・ダイナミクスは14.6%、11.9%それぞれ上昇している。米国はロシアの侵略を非難する一方、戦争による特需が米国に舞い込んできている側面も見逃してはならない。

翻って、エネルギー資源に乏しい日本やユーロ圏は、高騰する資源高によって、経済は物価の上昇圧力を受けている。日本も輸入額が拡大の一途をたどっており、貿易収支は大幅な赤字を余儀なくされている。2月の日本の輸入額(季節調整値)は8.46兆円と1月に続いて過去最大を更新し、赤字額は1兆円を超えた。3月は2月よりも原油価格は高くなっていることから輸入額はさらに拡大しており、1兆円超の赤字が続くことになるだろう。

2月までの今年度の累計赤字額は4.95兆円と2014年度以来7年ぶりの巨額赤字となる。今後、WTIが100ドル程度で推移するならば、来年度の貿易赤字はさらに拡大するだろう。2011年度から2015年度まで5年連続赤字もWTIの100ドル前後での高止まりが原因であった。

日本の輸入の増減はほぼWTIの値動きによって決まる。原油以外の輸入製品の価格変動は小幅であり、輸入額も原油に比べれば少額だ。だから、WTIが上昇すれば、日本の輸入額は増加し、低下すれば減少する貿易構造になっている。日本の輸入の約7割は米ドルで支払われるため、輸入が増加すれば、より多くのドルを手当てしなければならなくなる。円を売ってドルを買うので円安ドル高になりやすい。

貿易収支に資本収支を加えた経常収支も今年1月、1.18兆円の赤字となり、これは2014年1月以来8年ぶりの悪化である。ものの貿易赤字1.6兆円にサービスの赤字を加えると2.34兆円に赤字額は膨らみ、資本収支の黒字で貿易赤字を埋め合わすことができなかった。2月の資本収支は例年黒字が増加するため、経常収支は黒字に転じるはずだが、貿易赤字が拡大すれば、経常収支の黒字額は小幅にとどまるだろう。経常収支の黒字が縮小していけば、自ずと円買いドル売りも減少し、円ドル相場は円安ドル高に振れやすくなる。

3月16日、FRBは0.25%の利上げを表明したが、その時よりも21日の全米企業エコノミスト協会会合でのパウエル議長の講演が、為替相場には、よりインパクトがあった。パウエル議長は「1回の会合、もしくは複数の会合で、FF金利の誘導目標を25ベイシスポイント以上引き上げ、一段と積極的に対応することが適切と結論付けられれば、そのように行動する」と言う。利上げをここまではっきり言われれば、市場関係者は行動に出るしかない。3月18日までの1週間で1円89銭の円安ドル高に振れたが、25日までの1週間では2円89銭の円安ドル高となった。週ベースで1ドル=122円台を付けるのは、2015年12月以来、約6年3カ月ぶりであり、かなりの利上げを織り込んだようである。

前回のレポートでも指摘したが、経済成長率が前年比10%を超え、CPIが7.9%も上昇しているときに、0.25%の利上げでは焼け石に水、あまりにも実体経済からかけ離れた利上げだと批判した。なにを基準に考えても、0.25%などという数字など出てこない。まったくFRBは能天気なのだ。

FRBのゼロ金利政策が実体経済と金融経済を著しく乖離させたばかりか、所得・資産格差から原油価格の高騰まで、現代経済の大きな問題はすべてFRBの金融政策に起因しているといっても過言ではない。穿った見方をすれば、資源国に莫大な資金を非資源国から流入させ、両者の格差を拡大させたとも言える。WTIの100ドル超えは米国やロシアを潤し、引いてはウクライナ侵攻に走らせたのではないだろうか。

FRBの金融政策の目標は「物価と雇用」だが、1970年代までの資本主義経済であれば、この目標でも差し障りがないけれども、1990年代以降、この目標に固執することはばかげている。物価は第2次オイルショック後、長期的に安定しており、FRBはもっぱら雇用だけに注意していれば事足りていた。

資本主義の発展にともない資本主義経済の中身が、実物から金融に様変わりしてきているからだ。実物よりも金融の伸びが著しく、金融部門の存在感や影響力が極めて大きくなってきている。米国の総金融資産・名目GDP比は1980年代まで概ね5倍程度であったが、1990年代以降、上昇を続け、2021年には14.8倍になった。FRBによれば、2021年末の総金融資産は341.4兆ドル、2000年比でも3.5倍に拡大しており、金融資産の変動をいかに制御するかが、金融政策の最重要課題ではないだろうか。金利の変動はモノよりもカネに及ぼす影響が大きく、巨大な金融資産がゼロ金利によって増殖していく様を、ただ眺めているだけで良いのだろうか。

米国資本主義の本尊はウォール街なのである。1929年の大恐慌の引き金を引いたウォール街を、そのようなことが起きないように、導くことがFRBの最大の目標なのである。が、現状、FRBはそのような素振りを見せない。あくまでも目標は「物価と雇用」なのである。時代遅れとしかいいようがない。

米資本主義のエンジンであるウォール街が故障すれば、米国経済の動きは鈍るだろう。故障程度ではなくより深刻な病気に罹れば、失業者が増え、物価は下落するなどデフレ経済に陥る。ウォール街の舵取りこそが、米国経済の歩みを決めるのである。こうした役割を演じるのはFRBをおいて他にない(SECでは心許ない)。これだけ巨大になったウォール街を統治、管理する部門を定めていないことは、米国の最大の問題ではないか。

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