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妄想に囚われるFRB

FRBは利上げに極めて慎重である。雇用やインフレ率に相当な自信が持てない限り、利上げはしないとFOMCの声明で表明。米失業率は5月、5.5%だが、20歳以上では5.0%、黒人は10.2%と高いが、白人は4.7%、学歴別では、大学卒以上は2.7%と相当低い。過去3回の利上げ時の失業率をみると、1994年2月は6.6%、1999年6月は4.3%、2004年6月は5.6%と2回は今年5月の失業率よりも高い環境で利上げをしている。同様に、利上げ月の非農業部門雇用者の前年比増加数は、1994年2月は273万人、1999年6月は301万人、2004年6月は158万人に対して2015年5月は305万人と過去3回を上回る改善を示している。これでもまだ、自信が持てないのであれば、どれだけ雇用が伸びればFRBは自信が持てるのだろうか。

同時に経済予測を公表したが、2015年の実質GDPは1.8%~2.0%(第4四半期の前年比)と3月の2.3%~2.7%から大幅に下方修正した。第1四半期がマイナスになったため、第2四半期以降前期比0.7%の成長を必要とする。前期比0.7%は高いハードルだ。年率では2.8%になり、過去3年の実質成長率を上回る伸びを3四半期連続で達成しなければならないからである。

雇用は改善しているけれども、実体経済はFRBの思うように伸びていないし、先行きも厳しいということなのだ。だから、FRBは利上げに自信が持てずに、慎重になっているのである。

第1四半期の成長率はマイナスになったが、第2四半期も低迷しそうだ。4月の個人消費支出は前年比2.8%、5月の小売売上高は1.0%に低下する一方、鉱工業生産は5月、前月比-0.2%と2ヵ月連続減と不振だ。この調子だと第2四半期の成長は微増にとどまり、下方修正した予測値も達成できなくなる。

2016年の成長予測は2.4%~2.7%であり、前回とほぼ同じである。今年を下方修正したが、なにの根拠もなく来年は強気の見通しなのだ。高目の成長を設定することにより、インフレ率を今年よりも1ポイント高くした。それでも、1.6%~1.9%であり、2%にはとどかない。今年は成長率を引き下げたが、インフレ率は0.6%~0.8%と前回を踏襲。なぜ、そのような予測が可能になるのだろうか。

足元、5月の消費者物価は前年比横ばいである。3ヵ月ぶりにマイナスから脱出したものの、物価は限りなく安定している。FRBの物価の目安であるPCE(個人消費支出物価)でも4月、前年比0.1%とFRBの予測を下回り、食品・エネルギーを除くコアのPCEについても4月は1.2%と予測(1.3%~1.4%)以下である。

経済成長率が低下の方向にあるときには、インフレは高まるのではなく、より沈静化すると考えるのが普通ではないか。原油価格の下落が物価に影響したことは間違いないが、実需に基づく値上りではなく、ゼロ金利によるマネーゲームで原油価格はバレル100ドル超まで急騰したのであり、反落したとはいえ50ドルや60ドルはまだ高く、世界経済の成長率低下過程では下落余地はまだある。

FRBが蒔いた種が自らの金融政策を縛る結果になっている。インフレ率が目標の2%に近づく環境など到来しない。インフレ目標2%はまさに妄想だ。今年第4四半期の実質経済成長率は前年比1%前後と今回の予測を下回るだろう。成長はしているので利上げはできるけれども、FRBが踏み切らないのは過去最高値近くにある株式が気に掛かるからだ。あやふやな態度のなかで利上げを仄めかしながら、株式が十分に利上げを織り込む環境を整備しているのである。利上げしても株式はほとんど反応しないという状態まで持っていきたいのだろう。

だが、ぐずぐずしていると米国経済はインフレではなくデフレに足を踏み入れてしまう。そうなればFRBは利上げをできなくなる。すでに消費者物価指数(CPI)は前年比横ばい状態にある。これで利上げすれば、CPIはさらに低下し、デフレになるだろう。利上げはドルの価値を引き上げ、ドル高を一層進めることになるはずだ。ドル高によって、輸出は減少し、輸入価格は下落、デフレを後押しすることになる。デフレが抜き差しならぬ状態になれば、株式の価値は下がり、魅力は薄れてしまう。

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