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安倍政権の負の遺産

トランプ大統領の新型コロナ感染は自業自得の典型的な例だ。結局は、傲慢さが身を亡ぼすことになる。真摯、謙虚さは微塵もなく、罵り、貶すの罵詈雑言を連発する異常者といってよい。そのような人間が米大統領を続けることになれば、世界はますます混沌とした状態に陥るだろう。感染でトランプ大統領の再選は遠のいた。まだまだ油断はできないが、墓穴を掘ったことは間違いなく、大統領の交代によって、正常な米国社会の構築が始まることを願う。

トランプ大統領の再選可能性が低下したことから、米株式を始め商品相場なども不安定な局面が続くだろう。トランプ大統領ほどウオール街に肩入れした大統領はいないからだ。米株式の主役を演じていたと言っても過言ではない。その主役の退場が、間近に迫っているのでは、ウオール街もうかうかしてはいられない。次期大統領を睨んだ戦略を練り上げ、新たなポートフォリオを築く必要がある。

トランプ大統領の感染は新型コロナを再認識させ、経済活動を慎重にさせるだろう。NY連銀のWeekly Economic Index(WEI)によれば、米国経済は回復しているものの、足取りは鈍い。トランプ大統領の感染が、そうしたたどたどしい足取りに悪影響をおよぼし、回復力はさらに弱まるかもしれない。

9月の米消費者信頼感指数は101.8と前月よりも15.5ポイント改善したが、9月の製造業ISMは55.4、前月比0.6ポイント低下した。非農業部門雇用者数は9月、前月比66.1万人と増加数は前月よりも82.8万人減少し、雇用の改善も緩やかになってきている。66.1万人の約半数はレジャーと接客業であり、景気に敏感な派遣業は8月の10.1万人から8.1千人に急減速、企業は雇用採用に慎重になってきていることが窺える。

9月の米失業率は7.9%と5カ月連続で低下したが、8月からは0.5ポイントの低下にとどまり、改善はより緩慢になってきている。しかも、非労働力人口は前年比約500万人増加しており、労働参加率は61.4%と前年から1.8ポイントの低下である。9月の失業者は1,258万人だが、非労働力人口の増加を加味するならば、雇用の実態ははるかに悪いと言える。

米国経済が緩慢な回復を余儀なくされているのは、個人消費がもたついているからだ。8月の米個人消費支出は前月比1.0%と伸びは低下しており、前年比では1.9%のマイナスである。8月の賃金・俸給は前年比-0.5%と低迷していることに加え、政府からの給付金が前年は上回っているものの、前月比では4カ月連続で低下しており、それに伴い、可処分所得も前月比減で推移している。8月の貯蓄率は14.1%に低下はしているが、前年に比べれば約2倍であり、依然、米国民も経済の先行きへの不安に備えて消費よりも貯蓄を優先しているようである。

8月の米国の「もの」の輸出は前年比14.1%減、マイナス幅は前月比1.9ポイントの縮小にとどまり、世界経済の回復も遅れていることを示唆している。特に、資本財は-19.9%と不振であり、世界的に企業の設備投資意欲は弱く、先行きがどうなるかを見極めているようだ。輸入は前年比5.9%減とマイナス幅は縮小しているが、産業資材や自動車は2桁減であり、新型コロナの動向によっては、米輸入の回復は遅れるかもしれない。

 

9月調査の『短観』によれば、全規模の製造業業況判断(「良い」-「悪い」)は-37と6月から2ポイントの改善にとどまり、先行きは-31となっている。一方、非製造業は-21と4ポイント改善したが、先行きは-24へと悪化を見込んでいる。大まかに捉えれば、9月の業況は6月よりも少し良くなったが、この先は底這いの状態で推移しそうと判断できるのではないか。製造業の9月調査と先行きの「良い」の割合はほとんど差がないが、非製造業については先行きの「良い」割合が9月調査よりも低下し、6月をも下回っている。

売上高や経常利益(全規模合計)は6月見通しを大幅に下方修正し、今年度の売上高は前年比-6.6%、経常利益は-28.5%を見込む。生産・営業用設備判断によると、過剰超だが、今年度の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含む、土地除く)は-0.9%の微減となっている。製造業に限れば0.3%の微増計画だが、かなり楽観的な予測だと思う。経常利益を大幅に下方修正し、先行きが見通せない状況下で、設備投資を前年度並みの水準に保つことができるだろうか。

『鉱工業生産指数』によると、8月の生産は前月比1.7%と3カ月連続のプラスである。だが、生産指数は88.7(2015=100)と2015年のレベルをかなり下回っている(因みに、第2次安倍政権発足時の2012年12月の生産指数は96.4であった)。前年比では-13.3%と5月の-26.3%に比べるとマイナス幅は縮小してきている。ただ、7月比では2.2ポイントの縮小にとどまり、生産の回復力は緩やかになってきていることがわかる。

なかでも資本財(輸送機械除く)の生産指数は前月比7.1%減の81.3と今回の不況下で、5月を下回り最低を更新し、2009年12月以来10年8カ月ぶりの低い水準に落ち込んだ。前年比では-21.0%だが、前年同月が-9.3%も低下していながらさらに20%超も下げることは、資本財需要が極度に冷え込んでいることを示している。資本財の在庫率指数は8月、前月比2.2%増加し、在庫調整も道半ばだ。

資本財生産の厳しい現状から判断しても日銀短観の設備投資計画は楽観的である。今年4-6月期の資本財生産は前年比-13.1%、7-8月は-18.2%とマイナス幅は拡大している。さらに『法人企業統計』や『機械受注』などからも民間設備投資が改善する兆候はみられず、今年度の民間設備投資は前年度を大きく下回るだろう。

資本財生産の急激な減少はGDPの減少を加速化させる。資本財部門の家計の消費支出削減が消費財部門へと波及し、消費財部門の家計消費も萎縮させる。それが資本財部門をさらに悪化させるという悪循環に陥ることになるからだ。資本財生産は日本経済の不況の谷をより深く、長期化する元凶である。

日本の資本財生産は米国やユーロ圏よりもより深刻である。7月のユーロ圏の資本財生産は前年比-10.4%であり、最悪の4月の-41.0%からマイナス幅は縮小しつつある。8月の米資本財生産は前月比1.9%と4カ月連続の前月比プラスとなり、4月の底からは30.3%回復し、今年2月以来の高い水準に戻っている。

日本の民間最終消費支出の対GDP比率は、第2次安倍政権が発足した2012年度の58.8%から2019年度には55.1%に低下し、民間設備投資の比率は14.5%から15.9%に上昇した。こうした設備投資型の経済構造が、欧米よりも不況期の景気の谷を深くしている原因なのである。安倍政権の負の遺産のひとつと言える。

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