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安倍首相と日銀のお伽噺

NYダウは週末、値下がりしたが、14日まで10営業日連続高となり、過去最高値を8日連続で更新した。2月の非農業部門雇用者が前月比23.6万人増加したことが株式の高値買いを支えている。が、1月分の非農業部門雇用者の下方修正は気にかけない。2月の小売売上高は前月比1.1%と大幅に増加したが、伸び率の5割強はガソリン販売によるものであり、家具や家電販売などはマイナスになり、米消費は決して良くはない。小売売上高を前年比でみると、僅かに1.2%上回っているだけであり、むしろ失速してきている。鉱工業生産の消費財も2月、前月比0.7%、前年比2.0%と緩やかな伸びである。2月の消費者物価指数は前年比2.0%上昇しているため、小売売上高は実質マイナスになる。表面上、米国経済は回復しつつあるように見受けられるが、実際の足取りは弱く、株式が過去最高値を更新するような経済状況ではない。基本的に株高を牽引しているのはFRBであり、FRBの買いオペ継続が株高の最大の要因なのである。もし、買いオペ縮小の兆しがみえれば、株式、債券は動揺することになるだろう。

13日時点のFRB総資産は3.16兆ドルと過去最高を更新したが、こうしたFRBの総資産膨張を厭わない姿勢が株高・債券高を主導しているのだ。消費者物価は前年比2.0%と日銀が目指している伸び率だが、政策金利をゼロにし、月850億ドルもの買いオペを続行し、株式・債券市場の機嫌を取っているのだ。失業率は依然高いという一点だけを根拠に、FRBは金融経済の肥大化に突き進んでいるのである。

米株式価額は昨年12月末、25.9兆ドルだったが、今では28兆ドルを超え、07年9月末を上回り過去最高を更新し、株式価額・名目GDP比率は3月末、177%に上昇する見通しである。住宅バブル期の07年9月末には186%に上昇していたが、バブル崩壊により、09年3月末には98.7%に低下、その後上昇に転じ、株式価額・名目GDP比率は住宅バブル期並みの水準に近づいてきた。

実体経済よりも金融経済の拡大ペースがあきらかに速いことが数字で読み取れる。株式価額・名目GDP比率が急上昇したときはいずれもバブル相場であり、その後株式は激しい調整に見舞われた。ITバブルのときも株式価額・名目GDP比率は208%に上昇し、痛い目に遭った。ナスダックはいまだにピーク(2000年1月)を36.7%下回っている。実体経済に比べて金融経済が大きくなれば、実体経済に見合った水準に金融経済が収縮するのである。これは必ず起こることなのだ。

 経済を借金漬けにしたことが米住宅バブルに繋がったが、こうした巨額の積み上げられた負債の多くはまだ清算されていない。米国の金融負債は昨年末、56.2兆ドルと過去最高を更新した。モーゲージや政府機関債はなかなか減少しない一方、財務省証券は急増しているからだ。金融債務・名目GDP比率は1990年代半ば以降急上昇し、2009年末には3.81倍になった。2012年末には3.59倍へと3年連続で低下したが、依然高く、米国経済は債務依存型から抜け出していない。

 米国経済は昨年名目4%の成長したが、日本は1.1%である。1995年以降2012年までの18年間でマイナスの年が8回ある。米国は2009年に2.2%減とマイナスに転落したが、マイナスは1949年以来のことだ。日本はマイナスが常態化している。米国は債務の伸びをGDP以下に抑えれば借金経済は少しずつ改善されるが、日本のようにマイナス成長では債務はそれ以上に削減しなければ増えていくばかりである。

15日、国会で黒田日銀総裁が承認され、20日、黒田新体制が発足するが、無制限・無期限の買いオペを実施するようだ。国の借金を無制限に増やすとも受け取れる。安倍政権は打ち出の小槌を手に入れたともいえる。政府と日銀がより緊密になり、独立ではなく一体化したことになる。

無制限・無期限の買いオペによって非金融民間部門に金が流れてくるのだろうか。3月10日の日銀総資産は166兆円と2月末比2.5兆円増加し、過去最高である。すでに昨年秋から買いオペはより強力に行われている。が、金融機関の貸出は伸びず、国債購入に向かっている。金融機関が購入した国債をまた日銀が買う。つまり、日銀の買いオペの強化はその流れを強めるだけなのだ。日銀が買いオペを増額しても、金融部門から非金融民間部門に直接金が流れることにはならないのである。

ものやサービスの取引が活発になれば、金の需要も出てくるはずだ。ものやサービスが売れ、企業の売上が伸びるには、給与が増えなければならない。1月の現金給与総額は昨年4月以来の前年比プラスだが、0.7%にとどまる。2012年の現金給与総額は前年比0.7%減と2年連続のマイナスである。水準は1990年以降で最低であり、ピークの1997年比では12.8%もすくない。そのうち所定内給与は1月、-0.1%と8ヵ月連続の前年割れだ。2012年の所定内給与は前年比0.7%減とこれで06年以降7年連続減である。所定内給与のピークは1998年であり、2012年はピークよりも7.1%低い。

このように給与が下がり続けている状態では、売上が伸びることはない。売上が伸びなければ設備投資も動かない。12日公表の『法人企業景気予測調査』(調査時点2月15日)によると、全規模全産業の今年度下期の売上高は前年比0.4%減と前回調査を下方修正している。設備投資(ソフトウエア含む、土地除く)も今年度下期、1.0%と伸びは上期(6.4%)から鈍化し、前回調査よりも悪い。

『機械受注統計』によると、1月の民需(船電を除く)は前月比-13.1%と大幅に減少し、2010年6月以来2年7ヵ月ぶりの低水準に落ち込んだ。民間設備投資の回復の兆しはまったくみえなくなった。総受注額も官公需が減少したほか、外需も2ヵ月連続減となるなどで3.0%減少した。

総受注額の4割弱を占め、需要者別では最大の外需の不振は深刻である。1月の外需は前年比36.7%も減少していることから世界の設備投資意欲は冷え込んでいることがわかる。ユーロ圏の鉱工業生産は1月、前月比0.4%減と2ヵ月ぶりのマイナスになり、生産は低調である。失業率は過去最高を更新しており、消費はさらに悪化するだろう。経済が酷い国では債券利回りが高く、設備投資意欲など湧かない。

威勢のよい掛け声だけでは、株式は値上りしても経済は良くならない。株式の値上りも一過性だと思えば、消費と設備投資を刺激せず、経済に影響しないだろう。不動産株などが急騰するようでは相場も末である。実体のない妄言に乗った投機の蔓延が相場の行く末を示唆している。安倍政権と日銀によるお伽噺の終わりは近い。 

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