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実体経済を直視しないFRBの0.25%利上げ

ロシアのウクライナへの侵略は続いている。バイデン大統領はウクライナへの軍事支援を継続するだけで、戦争を終結させる方法を模索してはいない。むしろ、プーチンを「人殺しの独裁者」(3月17日)と非難し、戦争を煽っているようだ。世界のリーダーであるならば、侵攻を止める調停者としてロシアに積極的に関わっていくべきだ。武器を供給するだけでは、戦争が長引くだけで、終戦は遠のく。ロシアに終戦を決意させる努力をバイデン大統領は果たさなければならない。ロシアと同じ土俵に立つことでは、事態は改善しない。

欧州にしても、押し寄せる大量の避難民にいつまで持ちこたえることができるだろうか。経済的に豊かでない国に余裕はないはずだ。欧州がまとまって、避難民に対応するしかないが、それにも限界はある。できるだけ早くロシアの侵略を止めさせ、ウクライナへ避難民を帰還できるようにしなければならない。

エネルギーをロシアに牛耳られているため、欧州の対ロシア制裁は中途半端だ。ロシアからのエネルギーが途絶えれば、それだけで欧州の生活は立ちいかなくなる。ロシアにとってもエネルギーの欧州への輸出は金づるであり、軍資金なのだから輸出を止めたくはないのだ。EUの域外からのエネルギー輸入額は1月、前年比133.0%であった。かなり前倒しで輸入したように窺える。欧州の寒い長い冬が終わりに近づきつつあり、エネルギー需要は少し弱くなっていくのではないだろうか。

日本は憲法第9条で戦争放棄を掲げているのだから、ロシアとウクライナの仲介役として最適ではないか。いつまでも米追随外交を繰り返すのではなく、独立国としての外交を展開しなければならない。常に、米国を忖度しながらの思考では、日本の判断力や決断力は養われず、日本の外交力は培われない。

戦争を尻目に、株式は反発しており、ユーロSTOXX600も直近安値から9.5%戻している。日本や欧州株は1カ月前を下回っているが、米株は上回っている。16日、FRBは0.25%のFFレートの利上げを発表したが、18日までの3営業日でナスダック総合は7.3%上昇した。パウエル議長は3月2日に0.25%の利上げを示しており、なにの意外性もなかったが、それでも株式は大いに反応した。

FOMCによれば、今年開催される6回のFOMCで利上げを行い、今年末にはFFレートを1.6%~2.4%に上げるそうだ。いずれも0.25%の利上げであれば、FFレートは12月には1.75%となる。前回のゼロ金利からの利上げは2015年12月だが、この時も0.25%の小幅利上げで、0.5%に引き上げたのは1年後の2016年12月だった。それに比べれば、今回の利上げはFOMC毎に実施される予定であり、1年も経たないうちに2%前後となる。

2015年12月のPCE物価指数は前年比0.3%、コアは1.1%だったが、今年1月は6.1%、コア5.2%である。失業率は2015年12月の5.0%に対して、今年2月は3.8%。実質GDPは2015年第4四半期、前年比1.9%だったが、昨年第4四半期は5.6%である。現状はPCEコアで5ポイント高く、GDPも3.7ポイントも上回る高成長・高物価経済なのである。したがって、年内に2%前後まで引き上げねばならぬという。

ただ、この程度の利上げで、物価をFRBの目標とする2%に近づけることができるだろうか。実質GDPが5.6%、名目では11.8%も伸びており、この成長を2%の金利で適正な水準まで落とすことができるだろうか。FOMCのGDP予測によれば、今年第4四半期の前年比伸び率は実質2.5%~3.0%であり、昨年第4四半期の半分程度である。だが、2022年のゲタは2.0%ある。昨年第4四半期の実質GDPが今年、4四半期続いたとしても、2.0%成長になるのだ。昨年第4四半期のままで推移することはなく、今年第1四半期も前期比プラスとなるだろう。今年第4四半期のGDP成長率はFOMCの予測を上回るはずだ。

2020年の米個人所得は政府の給付金によって拡大したが、2021年の個人所得は報酬が前年比8.7%増加(2020年は1.1%)し、給付金よりも報酬の寄与度が大きく、個人所得増加額の約7割を占めた。今年1月の報酬も前年比9.3%増と高い伸びとなっており、この報酬増に支えられ消費は堅調な状態を持続するだろう。

非農業部門雇用者は2月、前年比4.6%増加し、賃金も5.1%拡大している。これほど雇用が増え賃金が伸びれば、当然、個人所得は拡大することになる。所得拡大で消費意欲は衰えず、超過需要は解消されず、物価は思うように低下しないことになる。

物価高が続くという見通しでは、物価が上がる前にものを購入しようとするだろう。消費者物価指数は2月、前年比7.9%上昇したが、こうした物価高を前提にすれば、借金を増やしたい行動にでるはずだ。今、10年債利回りは2.15%だが、実質では-5.75%である。資産は増価し、借入は軽くなる。負担が軽くなり、しかも実質金利は大幅なマイナスだから借入を増やし、その一部は株式の購入に充てるだろう。

2月の米小売売上高は前年比17.7%増、物価を差し引いた実質でも10%弱の高い伸びである。これだけ需要が旺盛であれば、物価は上がる。消費者は楽観的になっており、0.25%の小幅な利上げでは、消費者行動にはなにの影響も与えない。なぜこのような、ただ利上げをしましたよ、という程度のことしかできなかったのだろうか。

2月の米鉱工業生産指数(IP)は103.6(2017=100)、前月比0.5%、前年比7.5%それぞれ伸びた。だが、自動車生産指数は86.1と3カ月連続で低下し、IPを大幅に下回り、生産台数は843万台、前月比6.4%減少した。依然、部品の供給に問題があるのだろうか。新車の供給不足が続いている状態では中古車の価格は引き続き高値で推移するだろう。米CPIに影響力の強い新車と中古車の値段が高止まりすれば、CPIもなかなか下がらないことになる。

金利に敏感なのは住宅や自動車などの耐久財である。2月の米中古住宅販売価格(中央値)は15%、新築住宅販売価格も1月、13.4%それぞれ前年を上回っている。住宅や自動車のローンは上昇してきているが、今後、FRBの利上げにより、さらに上昇するだろう。当面、金利の上昇を見込んだ駆け込み需要の発生が予想され、耐久財の価格は一段上がるのではないか。

FOMCのPCE物価指数予測は今年第4四半期、前年比4.1%~4.7%だが、依然、PCE物価指数が上昇過程にあることから、予測値を達成することは難しい。しかも、雇用の改善や賃金の高い伸びが持続することになれば、強い消費需要が物価を引き上げるだろう。

0.25%の小幅な利上げで、現状の米国経済にどれだけの需要抑制効果があるのだろうか。10%超の高経済成長と0.25%利上げを比較すると、あまりにも実体経済からかけ離れた利上げと言わざるを得ない。まさに焼け石に水である。FRBは物価安定を目標としているけれども、本当の狙いは、株式をなんとか現在の水準に維持したいのだ。FRBは常に投機家の守護神なのである。

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