Share |

家計への増税と法人税減税の経済的帰結

2021年度の税収は67兆円と2020年度を6.2兆円上回り、過去最高を更新した。主要な税がすべて前年度比プラスになったからだ。所得税は21.3兆円、前年度よりも2.2兆円増加し、1993年度以来28年ぶりである。所得税の過去最高は1991年度の26.7兆円だが、これに比べれば5.4兆円少ない。1991年度の名目GDPは473.6兆円と2021年度(541.8兆円)よりも68.2兆円も少ないが、所得税は1991年度のほうが多いのだ。所得税と個人住民税の最高税率が88%と現状の55%よりも33%も高い累進課税が課されていたからだ。一方、昨年度の法人税は13.6兆円、前年度比2.4兆円増加し、2007年度以来14年ぶりだが、過去最高は株式と不動産のバブル期に当たる1989年度の18.9兆円であり、それに比べれば5.3兆円も下回る。1989年度の法人税率は40%を超えていたが、今では23.2%に引き下げられている。1989年4月に3%から始まった消費税は、以降3回の引き上げで今では10%である。2021年度の消費税は21.8兆円と過去最高を更新した。消費税と所得税という家計が支払う税が税収の64.5%を占めるが、法人税は20.3%にすぎない。法人税が過去最大であった1989年度の法人税の税収に占める割合35.8%に比べるといかに法人税が軽減されてきたかがわかる。

所得税の累進性緩和と消費税の引き上げによって税の負担の仕組みは様変わりした。富裕層や法人からの徴収よりも消費者から広く集めることによって、中間層以下の税負担は重くなってきており、これが消費低迷を引き起こしている。過去最高の所得税と法人税の合計額は45.6兆円(2021年度の両者の合計額は35兆円)、名目GDP比は11%と2021年度よりも4.5ポイントも高い。2021年度名目GDP×11%で所得税+法人税を求めると59.6兆円になる。これは2021年度の所得税+法人税+消費税=56.9兆円よりも多い。消費税を廃止し、所得税+法人税だけで税収は確保できることになる。さらに利子・配当、譲渡益を所得などと合算し、金融課税を強化すれば、現状以上の税収を確保できるだろう。

これまで自民党政権の税制の改悪によって、所得・資産格差は拡大し、消費は低迷することになった。これを正すには税制を1980年代の税率に戻せば、是正できるはずだ。所得税率の累進性を高め、法人税率を大幅に引き上げる政策を取らない限り、所得・資産格差や消費の沈滞は治らない。

1997年4月の消費税率引き上げのときは、すでにバブル崩壊によって消費者心理は悪化しており、最終消費支出の伸びは大幅に鈍化していたが、税率引き上げは低迷に拍車を掛けた。次の消費税率の引き上げは2014年4月だが、その間の17年間の最終消費支出の伸びは4.8%と現状維持程度であった。これを断行したのは安倍元首相である。約5年後の2019年10月にも8%から10%へと同一政権で2度も引き上げたのだ。安倍一強という権力を背景に5%から10%へと引き上げ、消費を冷やしてしまった。2021年度の最終消費支出は293.7兆円と2012年度以来9年ぶりの低い水準である。

アベノミクスが日本をデフレから脱却させたというが、2021年度のGDPデフレーターは2011年度比3.7%の上昇にとどまっている。2015年度から2018年度の体温はほとんど変化していない。さらに1997年度と2021年度デフレーターの長期を比較すると11.3%も物価は低下しているのだ。1997年4月の最初の引き上げは完全に間違った政策であったと言える。そうした日本経済の状況を的確に判断していれば、消費税一辺倒ではなく、他の方法を取らなければならないのではないか、との考えに辿り着いてもよいのだが、さらに2回も消費税率を上げてしまった。

2011年度と2019年度の名目GDPを比較すると11.4%拡大しているが、最終消費支出の寄与度は3.3%に過ぎず、民間企業設備と公的支出が8.1%寄与しており、消費に基づく確かな成長基盤を築けてはいなかった。2011年度の純輸出は5.1兆円の赤字となり、前年度から10.4兆円も悪化した。2012年度の赤字額は9.3兆円、2013年度は14.5兆円へと大幅に拡大し、円安ドル高が進行し、企業業績は急回復した。2013年度の全産業当期純利益(法人企業統計)は2011年度比1.96倍に拡大し、設備投資も回復していった。つまり、貿易収支の赤字拡大によって円安ドル高が起こり、企業業績は好転したが、家計には波及せず、企業部門だけに偏った景気回復だったのだ。企業業績は急回復したけれども、2013年度の従業員給与(賞与を含む)は2011年度比4.1%減少している。これでは消費は回復どころではなく、さらに冷え込むことになる。2020年度の従業員給与でさえも2011年度よりも2.4%少ないのである。

1989年度の税引前当期純利益(A)は38.9兆円で、法人税・住民税・事業税(B)は20.9兆円、B/A=53.8%。2011年度のB/A=41.5%、2013年度31.6%、2018年度24.0%へと低下し、当期純利益は急増している。例えば、2020年度のAの半分をBとすれば、27.8兆円となり、実際に収めた額を9.7兆円上回ることになる。法人税率は第2次安倍政権で3回引き下げられ、2018年には23.2%と1983年の43.3%に比べれば20ポイントも下がっているのだ。消費税率の2回の引き上げと法人税率の3回の引き下げによって、日本経済の進路は塞がれたと言えるだろう。自民党は経済を動かすのは消費だという基本を蔑ろにし、企業寄りの政策を推進したことが、慢性的な需要不足を作り出し、日本経済を行き詰まらせたのである。

自民党は税収が不足すれば、消費税率を引き上げて、税収を確保する方針なのだろう。欧州並みに20%前後に引き上げれば、今の2倍の40兆円超の歳入となる。今の赤字国債の問題も40兆円を超す税収の裏付けがあれば、怖いことはないと高を括っているのではないか。税の確保手段は消費税に限らずほかにもあり、その気になれば歳入は増やすことができる。政府は将来の消費税の徴税増を担保に国債発行に頼り続けるのだろう。

日銀の『資金循環』によれば、今年3月末の国債残高は1,225兆円、最大の保有者は日銀であり、531兆円、合計の43.31%を保有している。次が保険・年金基金の248兆円(構成比20.25%)で、三番目に預金取扱機関の183兆円(14.98%)がくる。日銀の保有割合がトップになったのは2015年6月末以降であり、それまでは預金取扱機関が最大の保有者だった。2013年に黒田総裁が就任してからの大規模国債購入策によって、日銀は預金取扱機関の保有する国債を買いまくり、2010年3月末には42.21%も保有していた預金取扱機関は2015年6月末には26.39%に低下し、日銀に抜かれた。その後も保有比率は低下し続け、2020年3月末には13.08%に低下した。

日本が貯蓄超過である限り、需要不足を埋めるのは公的部門をおいて他にはない。日銀が最大の国債保有者になったが、結局、家計などが民間金融機関に預金した資金が日銀に預けられ、それを原資に日銀は国債を購入している。かつては民間金融機関中心に国債を購入していたが、今では日銀が主役となった。日銀に預金取扱機関を加えた国債保有比率は2014年6月末、52.29%だったが、2022年3月末には58.29%へと6ポイント上昇しているが、保険・年金基金や公的年金の比率低下による上昇である。先行きの不透明や貯蓄志向の強い国民性などにより、これからも超過貯蓄の状態は続くだろう。税制の改革がなければ、国債の増発は止まることはない。

関連資料サイズ
market letter20220711.pdf319.52 KB