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寓話の世界に住む日銀総裁

日経平均株価は2週連続安となり、昨年11月第2週以来の低い水準に落ち込んだ。3月第1週は2005年の統計開始以来最大の1兆円超を外人は売り越し、週間で6.2%も急落した。急落後も続落し、S&P500が過去最高値近くに位置するのとは対照的である。欧州の株式も第3週は持ち直しており、日本株の不振が際立っている。ロシアのクリミア併合は日本より欧州に影響がより及ぶはずだが、欧州の株式は底固い。地政学的問題よりも4月に引き上げられる消費税の経済への影響がやはり気掛かりなのだろう。

給与が増えない状況下で税金が上がり、社会保険料も上がれば、消費支出は絞られ、経済活動の鈍化は避けられない。企業の売上高は減少し、収益が悪化することは目に見えている。だから、外人は日本株を売っているのだ。他方、日本国債は買いということになる。経済が悪化すれば、日銀がさらに国債を買うことから、外人は安心して日本株売り国債買いのポジションをとる。

 日経平均株価は安倍内閣誕生のときを上回っているが、昨年4月に日銀が導入した「量的・質的金融緩和」時の水準には近づいてきた。公共事業と金融政策の従来方式を強く押し進めたが、結局、日本経済に目立った変化はなく、掛け声倒れに終わったと言えるだろう。日本経済が人口減に突入し、しかも生産年齢人口が今後も無い激しい減少時期にあるときに成長などするはずがない。成長するとすれば、なにか特殊な要因が働いているからであり、一時的な現象だと理解しておかなければならない。

「アベノミクス」のような造語で騙されてはならないのである。消費税引き上げ、公共事業の2点でこれまで経済は刺激されたが、前者は今月で出尽くし、公共事業も長くは続けることはできない。日銀の金融緩和は国債増発による歳入には資するけれども、ゼロ金利が常態化している状況下で、金融機関に金を供給することでは経済活動を刺激することはできない。金は社会に十分にあり、偏在していることが問題なのだから。

預金等の金融資産のストックに乏しく、給与も生活ぎりぎりの低水準の家計が、なんらかの形で収入が増加すれば、消費に回すだろう。が、すでに金融資産等のストックを保有し、高給を受け取る家計では多少の給与増などで消費を増やすことはない。今の政策は低所得層の拡大に歯止めを掛けるのではなく、所得格差拡大を促しており、消費を悪化させる。

貨幣量が増加するのは実物経済が拡大し、それに伴い増加するのであり、貨幣だけ増やすことはでない。2月のマネタリーベース(MB)は前年比55.9%増と急増している。2月末の残高は204.7兆円と前年同月から73.4兆円も増加しているのだ。すでにMBは2桁の伸びを示していたが、昨年4月に日銀が量的緩和をぶち上げてからMBは急増し、前年を5割も上回るようになった。

これだけMBを増やしているのだから、給与にも影響が出ているのかといえばでていない。昨年の現金給与総額は前年比横ばい、今年1月は前年比0.2%減少した。物価はどうだろうか。消費者物価の総合指数は1月、前年比1.4%、コアは0.7%となり、円安ドル高と駆け込みによる影響がでている程度だ。日銀は2%を目標としているが、給与が上がらず、消費者物価が2%も上がれば、家計は消費をさらに絞り、経済は縮小するだろう。物価だけ2%も上がったらどうなるのだろうか。

2月末のMBは前年よりも73.4兆円も増えているが、増加しているのは日銀当座預金であり、残高は114兆円、前年同月末より70.2兆円の増加である。金融機関が日銀の口座にこれだけの現金を預けているのだ。預けているだけで、社会に出て行くわけではない。主な金の借り手は企業だが、企業は十分な金を保有しており、銀行に借りなくても事業を続けることができるのである。借り手がいなければ日銀は社会に出回る貨幣量を増やすことができないのだ。家計の懐を暖かくすることもできない。できることといえば、金が社会に出回る幻想を巻き起こし、株式や不動産といったマネー経済をバブルのように膨らますことだけである。非金融部門に回る貨幣量を増やすことはできず、増やすことができないから実体経済はさほど変わらないのである。非金融部門の貨幣量を自由に操ることができる経済など存在しないし、できたとすれば架空の社会での出来事なのである。そこでは経済の好不況などはそもそも起こらない新古典派の経済社会なのである。

金が溢れるような幻想を抱かせることで、株式や不動産を刺激するのが関の山だ。だが、煽ることで持ち上げられた相場は必ず反動を伴うものである。これまでの経験からすると、それは深く長い谷を描く。

日経平均株価は昨年末、1万6,291円まで上昇した。先週末は1万4,224円これを12.7%下回る。駆け込みなどの需要が剥がれ、企業業績は悪化することになるだろう。1997年4月に消費税率を引き上げたときには、1997年度の大企業当期純利益は35.5%の大幅減となった。昨年12月の『短観』によれば、2013年度の大企業当期純利益は前年比8割超の伸びが想定されているが、株価はこれを織り込み、市場参加者は2014年度の減益具合を弾いている。

今年2月までの過去10年間の日経平均株価の平均は1万2,152円。名目GDPの基調は減少していることから、これからの10年も減少していくと予測すべきだ。とすれば、今後10年の平均株価は、1万2,152円が妥当だとすれば、これを下回ることになろう。今の日経平均株価は来年度の減益率を織り込むところまで下落していない。

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