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小手先の経済対策ではなにも変わらない

11月19日、政府は新型コロナ禍で3回目の経済対策を打ち出した。総額55.7兆円と過去最大規模だと言う。昨年4月7日と12月8日の経済対策の規模は48.4兆円、40.0兆円であった。すでに昨年度以降、合計88.4兆円もの財政支出をしているのであれば、日本経済は相当良くなっているはずだ。ところが、15日発表のGDP速報によれば、今年7-9月期の実質GDPは前期比-0.8%と2四半期ぶりのマイナスだった。昨年度の2回の経済対策は実質GDPを8.0%押し上げると想定されていたが、押し上げるどころか、今年第3四半期は2020年第1四半期を9.1兆円も下回っているのだ。新型コロナ禍の期間を除けば、2014年第4四半期以来、約7年ぶりの低い水準なのである。民間最終消費支出(PC)の8兆円減をはじめ民間部門はすべて2020年第1四半期を下回っている。公的部門だけは6.5兆円のプラスだったが、財政支出の総額88.4兆円はどこにいったのだろうか。

今年第3四半期の米国とユーロ圏の実質GDPは前期比0.5%、2.2%それぞれ伸び、いずれもプラス成長であった。新型コロナは日本がもっとも軽微であったにもかかわらず、経済の回復は最も遅れている。米実質GDPは今年第2四半期にすでに新型コロナ以前の水準を上回り、2四半期連続で過去最大を更新している。ユーロ圏も第3四半期、過去最大を更新しているが、日本だけは、2019年第3四半期のピークを4.1%も下回っているのだ。

過去2回の経済対策を振り返ってみれば、今回も規模だけは大きいが、見掛け倒しに終わりそうだ。経済対策を取りまとめるために、公務員は長時間の突貫工事労働を強いられたはずだ。一夜漬けのような作業では実りある経済対策などできるはずがない。虚脱感を覚えるだけではないか。つまるところ、時間と金の無駄でしかない。公務員だから、金に糸目を付けず、何度でもこのような無駄な作業を繰り返すことができるのだ。

今年第3四半期の名目GDPは前期比-0.6%と3四半期連続のマイナスである。マイナスの最大の原因はPCの不振であり、0.8%減少し、これだけで名目GDPを0.4ポイント引き下げた。PC・名目GDP比は53.4%と2020年第1四半期よりも0.7ポイントの低下である。PCは好不況にもそれほどの変化はなく、不況期にはPC・名目GDP比は上昇するけれども、日本ではそうでなく、不況のときPCは大きく下振れし、PC・名目GDP比を押し下げる傾向がみられる。PC・名目GDP比が低いことが、日本経済の景気下降を激しくしているのである。

景気が悪化していることが、デフレーターにも現れており、今年第3四半期は前期比では0.1%のプラスに転じたものの、前年比では-1.1%と3四半期連続の前年割れである。なかでもPCデフレーターは4四半期連続のマイナスであり、消費の低迷が、物価を押し下げていることが読み取れる。

10月の消費者物価指数の前年比伸び率は総合0.1%、生鮮食品を除く0.1%、さらにエネルギーを除くコア-0.7%となり、コアはマイナス幅が拡大しており、プラス幅が拡大している米国やユーロ圏とは対照的である。それだけ日本の消費支出は弱いということなのだろう。

2020年には全国民に10万円を給付したが、大半は金融機関の預金となった。十分な資産を保有している富裕者に現金を与えても、経済を動かす力にはならない。所得の少ない人には現金給付は役立つけれども、それだけで経済を回すことは難しい。

また、現金給付は一過性であり、持続性はなく、効果も線香花火のようなものである。ましてや、所得・資産格差を正すことはできない。経済対策はその場しのぎであり、これで経済社会を変えるというものではないが、格差が縮小する社会を目指すならば、税制面や労働問題などにメスを入れなければ、「百年河清を俟つ」ことになる。

現金を給付しても、労働時間が長く、時間に追われる余裕のない生活では、金を使う時間がないのかもしれない。所得・資産格差を是正するには緩めてきた累進所得課税をきつくし、株式などの売買には取引税を課し、売買益には一律ではなく、金額に応じた税率を適用しなければならない。

新型コロナ不況でありながら、昨年度の大企業(資本金10億円以上)の配当金は20.2兆円と前年度を上回り、過去最高を更新した。これだけの配当を支払う一方、法人税等は7.5兆円に過ぎない。配当金が法人税等を超えたのは2008年度以降だが、その時の配当金・法人税等比率は1.37倍だったが、その後、同比率は拡大し、2020年度は2.68倍となった。バブル期ピークの1989年度の配当金は2.68兆円、法人税等は8.86兆円と2020年度を上回り、配当金は2020年度が7.5倍も多いのだ。

2020年度の法人税等・名目GDP比は1.41%であった。1989年度は2.13%と昨年度よりも0.72ポイントも高く、法人税率の低下に伴い、法人税等・名目GDP比も低下していった。2010年以降では最高でも1.71%(2013年度)と低く、企業は税制で優遇されているのだ。その分、家計は消費税率の相次ぐ引き上げで税負担は重くなってきている。さらに賃金が伸びず、社会保障費が増加するなど家計への税のしわ寄せが目立つ。家計を重税や社会保障費負担で苦しめ、企業の税負担を軽くするだけでは、需要が萎むのは必定ではないか。日本のGDPが欧米に比べて回復が遅いのは、制度的に家計を痛め続けているからなのだ。

大企業の支払利息は1989年度の10.06兆円から2020年度には2.85兆円に激減している。株式会社は株主のものなのだが、社会全体のものでもあるのだ。株主だけを優遇するのでは社会的使命を果たしているとはいえない。20兆円超もの配当を支払えるのであれば、法人税を上げるくらい難しいことではないはずだ。

金融機関に預金している家計は、ほぼゼロの利息に甘んじているが、一部の株式保有者は年20兆円超の配当金を手に入れているのだ。2020年度までの過去10年間の配当金総額は約150兆円に上る。これだけの配当金に約3倍に値上がりした株式を加えれば株式保有者の資産はどれだけ膨れ上がっていることか。さらに株式保有者の多くは不動産も購入しているのだ。ゼロ金利がまさに金融資産と不動産価格を異常に引き上げ、人口の1%に満たない少数者に富の山を築かせていると言える。

こうした富の著しく偏在した経済社会では、需要増は望めない。ゼロ金利と税制などをこのまま放置するならば、いくら足掻いたところで、経済構造はなにもかわらず、需要不足によって、日本経済は衰退していくだけだ。金融課税を直ぐに引っ込めるような弱腰の岸田政権では、経済構造にまで踏み込む税制等の改革などまったく期待できない。安倍、菅政権と同じ路線を辿ることを思うとうんざりしてしまう。