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巨額の国債発行と公的支出

日本経済は急激な下降からやや戻りつつあるが、再び新型コロナの感染者数が増加していることから、戻りから下向きに変わるように思う。秋から冬にかけて第2波に見舞われることも前提にしておくべきだ。今のようなPCR検査体制ではとうてい感染者を把握できておらず、実際の感染者は発表数を大幅に上回っているのではないだろうか。PCR検査が整わずそれを是正しようとしないことが、これからの日本経済にも影響するはずだ。福島第1原発の過酷事故のとき専門家が右往左往したように、今回の新型コロナでも専門家の専門家たる資質が問われている。

6月調査の『短観』によれば、大企業製造業の業況判断は-34と金融崩壊以来のマイナス幅となった。先行きは-27と改善を見込むが、楽観的な数値だ。中堅・中小の製造業は、先行きはさらに悪くなるとみている。大企業製造業の業況判断は全業種で前期比悪化し、マイナスに転じたが、大企業非製造業では6業種が依然プラスであり、小売業は前期のマイナスからプラスに転じた。中堅・中小の非製造業は製造業と同じように、先行きは一段の悪化を見込んでいる。

5月の失業率は2.9%と前月比0.3ポイント上昇し、2017年5月以来3年ぶりの高い水準だ。特に、男は3.2%と2017年7月以来の3.0%乗せである。5月の就業者数は6,656万人、前年比76万人減と2ヵ月連続のマイナスとなった。雇用者は前年比73万人減だが、そのうち非正規が61万人削減され、企業は非正規の解雇で業績の悪化を凌いでいる。

5月の休業者は423万人と前月よりも減少したが、前年比では274万人増であり、膨大な失業者予備軍となっている。雇用者で休業している人は354万人だが、そのうち209万人は非正規なのである。

5月の有効求人倍率は1.2倍と前月から0.12ポイント低下し、2015年7月以来約5年ぶりの低い水準へ戻った。経済の収縮により、雇用環境は容易に改善せず、年末にかけて失業率は4%超に上昇するかもしれない。

生産も急低下しており、鉱工業生産指数(季節調整値)は2月以降4ヵ月連続で低下し、5月は79.1(2015=100)と2009年3月以来約11年ぶりの低い水準である。2009年2月の78.0を下回れば、1983年10月以来ということになる。出荷指数は77.2と生産指数よりも低く、在庫率指数は148.1へと跳ね上がった。業種別では自動車工業の生産指数が4ヵ月連続の急低下で46.1まで落ち込み、前年比では61.2%減である。6月の国内新車販売台数は前年比26.0%と不振だし、輸出も大幅に減少しており、自動車産業の不況は日本経済の最大の問題となっている。

鉱工業生産指数の急激な低下にもかかわらず、株式は底堅い。過去の両者の関係を観察すると生産指数の急低下期には株式も急落しており、相関関係は非常に強い。今回、株式は生産のこれだけの落ち込みを脇目で見ているようだ。生産の落ち込みなど関係ないのだというふうに。

日銀は6月中に5,072億円の株式を購入し、残高は32.7兆円にふくれている。一方、同月、国債を9兆円買い、その残高は509.1兆円。日銀は発券銀行というより、投機銀行ではないか。民間金融機関保有の国債を搔き集めているが、その原資といえば主に家計が金融機関に預けた預金である。

日銀の負債である当座預金は6月末、447.0兆円。民間金融機関の有価証券を日銀が購入することによって民間金融機関は現金を得るが、その現金の多くは日銀に預けられる。それで日銀は有価証券を購入するという仕組みなのだ。日銀当座預金は民間金融機関に預けられている家計からの預金であり、この預金が枯渇することになれば日銀は民間金融機関から有価証券を購入することができなくなる。

5月の銀行・信金計の貸出は前年比4.8%増と1-3月期の2.0%から大幅に伸びており、増加額は前年比25.7兆円である。他方、預金(3業態・その他計)は前年比4.8%と1-3月期の2.3%から急速に伸びており、増加額は46.5兆円だ。5月のマネーストック(M3)の前年比増加額は57.7兆円と定義によって預金額は変わってくる。

現状では20兆円から30兆円ほど預金が貸出を上回っており、これくらいの資金を日銀の当座預金に預けることは可能である。6月末の日銀当座預金は447.0兆円、前年比では36.4兆円の増加である。日銀は上限を設けず長期国債を購入するというが、いくらでも購入することはできない。すでに目一杯購入しており、限界にぶち当たっているのだ。

2019年度の一般会計税収は58.4兆円と当初予算を4兆円も下回った。2020年度の税収は63.5兆円を見込んでいるが、2008年度と2009年度の税収の激減を思い起こすと、50兆円でさえ厳しいと言わざるを得ない。

今年度の160兆円を超える一般会計予算が日本経済の下降をどの程度食い止められるかによるけれども、新型コロナの長期化による経済活動の低迷が持続化することになれば、2021年度の予算規模も一定の規模が必要である。例えば、120兆円規模を想定すると国債発行は70兆円を超えるだろう。

2019年度までの国債発行額の最高は2009年度の51.9兆円だったが、今年度は90兆円超と2009年度を38兆円も上回る。これほどの大規模の国債発行が可能なのだろうか。M3の年間増加額でさえ60兆円に届いていない状況でいかに消化していくのだろうか。民間金融機関が購入できる規模は最大でも50兆円程度であり、これが限界である。日銀は新発の購入はできないので、民間金融機関が90兆円を購入するほかないが、そのような余力は民間金融機関にはない。

現状、貯蓄が投資を上回り、モノは売れなくなり、在庫が溜まり、経済は収縮している。2019年度の名目GDPは552兆円であったが、2020年度は前年度比40兆円から50兆円の戦後最大の減少となるだろう。

6月調査の『短観』によれば生産・営業用設備判断は不足から過剰になったが、2020年度の民間設備投資は全産業で0.9%のプラス予測である。だが、恐らく、2020年度の民間設備投資は前年度を10兆円超下回るはずだ。外需も10兆円以上の悪化となるだろう。GDPで最大の構成比である消費は20兆円近い減少に見舞われるはずだ。公的支出の拡大がなければ、経済は落ち込んでいくだけである。ただ、国民にばら撒いた12兆円超の給付金でさえどれほどの経済効果があるのか定かではない。巨額の国債発行による公的支出拡大の可能性が試されている。

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