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強かな米国経済

円ドル相場の週末値は4週連続して109円台で引けた。為替が動かないことには株式も大きな変化はない。欧州委員会が2019年の経済成長率見通しを1.3%へと秋の見通しから0.6ポイント下方修正したことから、対ドルでユーロは売られ、昨年12月半ばの水準まで下げた。ユーロ経済の核であるドイツの経済指標の悪化により、ドイツ国債(10年物)の利回りが2016年10月以来2年4ヵ月ぶりの低い水準に落ち込んだ。こうしたドイツ国債利回りの低下もユーロ売りに繋がった。

米中貿易交渉の見通しは立たないが、すでにこれまでの高関税策は米国経済にも及んできている。昨年11月の米輸出は前月比-0.8%と2ヵ月連続のマイナス、輸入は3.6%減と大幅に減少し、昨年5月以来6ヵ月ぶりの低水準だ。輸出の前年比伸び率は4.5%と昨年5月の14.1%をピークに伸びは鈍化しており、2017年8月以来の低い伸びである。輸入も10月まで3ヵ月連続の2桁増から3.5%へと大幅に低下した。

JPMorganグローバル総合PMIは2018年の年初をピークとする低下傾向に歯止めはかからず、今年1月は52.1と前月比0.6ポイント低下し、2016年央の水準まで落ち込んだ。特に、悪いのは新規輸出であり、良いか悪いかの分かれ目の50を下回ったままである。おそらく、米中貿易戦争が錯綜している世界貿易の流れの障害になっているのだろう。

欧州委員会は2019年のユーロ圏GDPを前年の1.9%から1.3%に減速する予測をだしたが、ドイツは1.1%とユーロ圏を下回ると予想しており、2年連続の減速である。2019年、フランスとイタリアは1.3%、0.2%へとそれぞれ成長は鈍化する見通しだ。特に、イタリアは大幅に減速するが、国債利回りは3%弱の高水準にあり、ドイツ国債との利回り格差は287ベイシスポイントに拡大している。経済が低迷していながら、長期の資金調達コストが高いことが、成長の足枷になる。

昨年12月のドイツの鉱工業生産(建設除く)は前月比0.2%と8月以来4ヵ月ぶりのプラスだったが、前年比では3.9%減と前年割れが続いている。11月は4.5%も前年を下回り、2009年11月以来9年ぶりの大幅なマイナスとなった。2016年にも低迷したけれども、7月の前年比-1.7%が最大であり、現状に比べれば小幅の下落だ。昨年12月のドイツ資本財受注も前月比-2.4%と7月以来のマイナスになり、前年比では-5.5%と2014年6月以来の大幅減となった。経済に占める製造業の比率が高いだけに、生産縮小の影響はドイツ経済の広範囲におよぶだろう。

製造業が強いドイツ経済は貿易依存度が高く、2017年の輸出入額・GDP比率は86.5%(日本は30.0%)である。純輸出・GDP比率も7.5%と高く、貿易の好不調がドイツ経済を左右する構造になっている。昨年第3四半期の輸出は前年比2.8%に鈍化した一方、輸入は7.1%増加したため、純輸出は前年に比べて減少し、減少幅は2009年第2四半期以来約9年ぶりであった。ドイツの貿易は明らかに米中による貿易戦争の影響を受けていると言える。

ドイツ経済は最終消費支出・GDP比率が52.9%と低い半面、固定資本形成が20.0%と高いため、世界経済が拡大しているときは、設備投資と輸出主導で拡大していくけれども、世界経済が減速していけば、設備投資と輸出の悪化が、それらのウエイトが大きいだけに深刻な打撃を経済に与える。

ドイツ経済の構造は日本に近いが、米国とは異なる。米国経済の特徴はGDPに占める最終消費支出の比率が約7割とドイツや日本の50%台をはるかに上回っているということだ。最終消費支出は設備投資や輸出入に比べて安定しており、激しく変動することはない。そのことが、日独に比べて米国経済の振幅を抑え、経済を底堅くしている要因なのだ。貿易戦争を仕掛けていながら、今のところ被害はそれほどでもなく、米中の高関税は日本やドイツにより強く現われている。ちなみに、米国の昨年第3四半期の実質GDP(前年比)は3.0%だが、ドイツは1.1%、日本は0.0%であり、米国経済の強さが抜きんでている。

2008年、米国を舞台にしたリーマンショックが世界の経済や金融市場を揺るがしたが、その時も米国経済の落ち込みは、日独に比べて軽微だった。2009年の米GDPは名目-1.8%、実質-2.5%に対して、日本は-6.0%、-5.4%、ドイツは-4.0%、-5.6%という具合に日独経済は米国をはるかに上回る後退であった。

最終消費支出の割合が大きいことに加えて、純輸出の恒常的な赤字が、米国経済の被害を小さくしたのである。2006年の米純輸出は-9,050億ドルだったが、国内需要の低迷から輸出よりも輸入の減少幅が大きく、2009年の純輸出は-4,848億ドルへと改善し、GDPの落ち込みを軽くしたのである。世界経済が後退したときには、恒常的な赤字は景気悪化を緩やかにするバッファーの役目をしているのだ。

ドイツや日本の実質最終消費支出・GDP比率は低下しつつある。2017年、日本は56.3%だが、5年前の2012年は58.6%だった。設備投資や輸出入の変化の影響をより受けやすくなっている。昨年12月の輸出は前年比3.8%減、輸入は1.9%と悪化しつつある。世界経済の減速によって、設備投資意欲も冷えつつある。昨年第4四半期の工作機械受注は内需の前年比-1.2%に対して外需は-19.4%、特に、中国向けは-56.0%と激減した。

世界経済の減速がさらに強まれば、設備投資の下振れは避けられないだろう。世界貿易も伸び悩むことになる。そうなれば、そうした悪影響を強く受けるのは日本やドイツということになる。歴史を振り返れば、強かな米国経済があきらかになってくる。だから、米国は対中高関税策を推し進めることができるのだろう。

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