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後は野となれ山となれ

日経平均株価は先週末まで11日連続続伸し、月末値としては1996年11月以来、18年6ヵ月ぶりの高値を付けた。円ドル相場が124円台へと月末では2002年5月以来の円安ドル高に振れたからだ。日銀の国債購入が持続し、FRBが利上げするという見通しが強まるような指標があらわれたわけではなく、わけもなく円安ドル高が進行している。

円安ドル高になれば、輸出企業の業績好転により、景気は良くなるといわれているが、過去の為替相場と景気先行指数の関係をみると、円安の過程で先行指数は悪化し、円安のピークで先行指数は最低点に達している。つまり、円安ドル高は日本経済を良くするのではなく、悪くするというのが、これまでの経験から得られた事実なのである。

先行指数は2012年央を境に低下していたが、消費税率引き上げにより、反発に転じ、2013年末まで上昇していった。だが、特需剥落のため先行指数は昨年5月まで急低下、その後はほぼ横ばいで推移している。円安ドル高が20円以上進行しているにもかかわらず、先行指数は反応薄なのである。過去の事例から判断すれば、先行指数の現状維持は続かず、いずれ低下傾向を辿るだろう。

円安ドル高が経済を良くするというのは間違った考えだ。円安ドル高では日本経済は良くならないのである。景気先行指数の動向をみるだけで明らかだが、為替がもっとも影響力を持つ輸出についても、意外なほどその力は発揮されていない。かなり振幅の大きい為替の変動も、輸出への影響力は限定的なのである。むしろ、世界経済が良いか悪いかに輸出は左右される。円高が進行しようが、世界経済が力強い拡大過程にあるならば、日本の輸出も自然に伸びる。世界経済がいまのように低迷していれば、大きな伸びは期待できない。

金融危機の後遺症が完全に払拭されておらず、欧米経済の歩みは緩慢であり、この状態から早急に抜け出すことはない。金融政策にいくら躍起なっても、需要を創造することはできないからだ。財政の健全化を金科玉条とするドイツがユーロの盟主では、ユーロ経済の低迷の終わりは予想できない。

米国経済も金融危機以前のような経済状態に戻ることはないだろう。異常なゼロ金利を5年以上続けても、1-3月期の名目GDPが前期比マイナスになるという始末。マイナスになることは稀であり、民間部門だけでは米国経済も正常な成長軌道に乗ることができないのである。

1-3月期の米実質GDPによれば、政府支出は2.89兆ドル、GDPに占める比率は17.8%だった。過去最大の政府支出は2009年7-9月期の3.11兆ドル、構成比21.6%と今年1-3月期よりも3.8も高い。政府支出をこれだけ減少させれば、全体を伸ばすことは難しい。ゼロ金利や国債購入などの金融政策では金融経済は肥大するけれども、実体経済を底上げすることはできないのである。

欧米経済の低い成長によって、日本の輸出は数量では4月、前年比1.8%の低い伸びにとどまっている。輸入も0.1%と低調であり、国内経済が活発だとはいえない。国内が思わしくないのは消費が不振だからだ。『家計調査』によれば、4月の消費支出(二人以上の世帯)は前年比名目でも0.5%減少した。実質では前年比1.3%減、前月比では-5.5%と昨年5月以来11ヵ月ぶりの低水準である。

勤労者世帯の実収入(世帯主以外の収入を含む)は名目・実質前年比プラスとなったが、世帯主収入はマイナスのままであり、収入が改善すると思っている家計は少ないのだろう。だから、家計の消費支出はプラスに戻らないのだ。結局、消費のマイナス(マイナスが普通なのだが)に変化はなく、全体も緩やかに縮小していくことになる。

伸びない消費を輸出で補うことはできない。消費は設備投資や住宅にも影響するため、民間部門の減少をすべて輸出で補うことは不可能だ。日銀が円安ドル高を誘導しても、実際に日本経済に効果を発揮しているのは公的部門であり、公的部門がすこしでも縮小に転じることになれば、日本経済はひとたまりもないのである。日銀が国債を購入してもしなくても、公的部門の拡大には関係ない。

消費支出のマイナスは物価にも影響している。需要が少なくなるので、それと同時に供給も削減しなければ物価は下がることになる。4月の消費者物価指数は前年比0.6%に低下したが、4月の企業物価指数は前年比-2.1%と2013年3月以来約2年ぶりのマイナスだ。これは早晩、消費者物価にも波及することになるだろう。

円安で輸入物価が高くなり、同じものであれば国内生産者の競争力は増す。だが、現材料を輸入して製品にする加工業が主力では円安はコスト高になるだけである。むしろ、円高が好ましいのだ。

4月の鉱工業生産は前月比1.0%と3ヵ月ぶりのプラスになったが、在庫は横ばいと改善しない。特に、資本財(輸送除く)の在庫は4月、前月比5.9%と4ヵ月連続で急増し、1999年4月以来16年ぶりの高い水準に積み上がった。国内の設備投資が予想外に伸びないことに、海外需要も低迷しているのだろう。

円安ドル高に有頂天になり、株式は活況を呈しているが、資本財の積み上がりをみれば、先行きどうなるのだろうという不安感が強まる。いつものように行き着くところまで行かなければ、収まらないのだろう。後は野となれ山となれか。

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