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念仏のように唱えられる「行政改革」と「規制緩和」の実態

9月16日、菅内閣が発足した。再任と横滑りで初入閣は5人であり、安全運転を重視した内閣だと言える。党役員人事と同様、派閥の思いを汲み取った人事である。二階幹事長の継続さらに安倍前首相のモリカケを始めとするさまざまな過去の問題を封じ込めるために菅首相を誕生させた。安倍前首相は、引継ぎが岸田氏や石破氏では問題が表に出るかもしれないと恐れていたのではないか。数ヵ月前から安倍と二階が画策し、菅を担ぎ出したのである。

菅内閣発足直後の各報道機関の世論調査によれば、内閣支持率は軒並み60%台半ばであった。なかには日経(74%)ようにさらに10ポイントも高い支持率もあった。安倍内閣のときは男性が女性支持率よりも高かったが、菅内閣では女性が男性よりも高く、年代別でも万遍なく支持を集めている。「地方出身」、「たたき上げ」、「庶民的」といった捉え方が支持層を広げているのかもしれない。

だが、表面的には普通の人のような印象を与えるけれども、安倍政権を継承することは、安倍政権の負の遺産を引き継ぎ、それに封をし、永久に葬り去るという闇の仕事師の印象が強い。官房長官のときから、その手の仕事は幾つこなしてきたことだろうか。そうした仕事が最も手慣れているように思える。

携帯料金の値下げだとか、デジタル庁、不妊治療など、身近な問題を取り上げることが、人気には繋がる。人気取りの政策と国民を蔑ろにする政策の二本立てで政権を運営するのだろう。

内閣支持率の高さに乗じて、菅首相は解散総選挙に打って出るだろう。来年9月までの短い任期の枠を取り払いたいという欲望がある。総選挙で勝利を収めることになれば、暫定政権ではなく本格政権として辣腕を振るうこともできる、との思いは強いはずだ。そうなれば、二階幹事長の地位もさらに長期化し、菅首相と二階幹事長による政治支配力はますます強まることになる。

次の総選挙で自民党が圧勝し、菅と二階への権力がさらに集中することになれば、自民党の秩序も崩れ、自民党も変質していくかもしれない。菅の党内基盤は脆弱であり、派閥の微妙な均衡関係で成り立っていることから、権力の集中それ自体が均衡を崩す要因になるからだ。

新型コロナは容易に収束しないだろう。政府は旅行やイベントの規制を緩和しているけれども、ウイルスの拡散に繋がることは間違いなく、再び規制の強化を余儀なくされるかもしれない。おそらく、規制と緩和は繰り返され、経済活動が本格化するには数年掛かるだろう。

「行政改革」、「規制緩和」などはこれまでの政権が掲げたが、どこまで国民の利益や福祉などを増進させたのだろうか。今回、「デジタル庁」を新設し、首相を除いて閣僚は20人に増加し、行政部門は拡大することになる。

2001年の第1次小泉内閣の閣僚は17人(首相除く)と菅内閣よりも3人少ない。「構造改革なくして景気回復なし」のスローガンを掲げ、郵政民営化や労働者派遣事業を推進したが、さまざまな矛盾が出ていることは否定できない。これだけ構造改革を唱えたけれども閣僚のポストは増加、行政は肥大化し、構造改革は掛け声倒れに終わったと言えるのではないか。

第1次小泉内閣で経済財政政策担当に竹中平蔵を起用、政策決定を党主導から官邸に切り替えた。奇しくも、その竹中は菅首相と親しく、菅首相は重要な案件について話を持ち掛けるのだろう。小泉政権以後、官邸が政策を主導することになり、安倍政権では一段、官邸官僚の主導力が増すことになった。官僚は公僕ではなく、官邸の僕へと体たらくした。菅内閣はこうした官邸権力を中心に政治を動かしていくはずだ。

だが、官邸の狭い見聞では国民の要望は把握できない。いつのまにか裸の王様になってしまう。安倍政権の最後もマスクを配るなど馬鹿げた政策が実施されたように、官邸は社会の姿が見えなくなってしまったのだ。一部の側近に依存すればするほど、権力者の認識は国民の思いからずれていく。安倍政権を引き継ぐ菅政権も同様の側近政治で臨むのだろう。いずれにしてもイエスマンだけを登用すれば、日本の政治も中国やロシアのような独裁政治となんら変わらなくなる。

前回の衆議院選で、自民党(小選挙区)は全有権者数の約25%の得票で78%の議席を獲得したように、わずかの得票で国会と内閣を支配できるのである。全体の25%の得票でごりごり政策を推進することは傲岸不遜である。

小泉政権が「構造改革」をうるさいほど唱えたけれども、小泉内閣が誕生した2001年と政権末の2006年の名目GDPを比較するとたった0.6%しか増加していない。2006年のGDPに占める公的部門比率は23.1%と2001年比1.7ポイント低下している。2002年度は国債発行を35兆円に増やしたが、2004年度をピークに2006年度には27.4兆円に減額し、一般会計予算も抑制したからだ。こうした公的支出の減少が経済成長の低迷につながった。同期間のデフレーターは低下し続け、5年間で-5.9%とデフレ経済であった。

安倍前首相は民主党を散々貶したが、自民党に比べて民主党が酷いということではない。米金融崩壊が起こり、東北大震災とメルトダウンとに遭遇すれば、自民党もあたふたしたことは間違いない。新型コロナで右往左往し、挙句の果ては、首相は退陣したのだから、自民党であれば民主党以上に対応は不手際になっていたと想像できる。非常時では、二階を始めとする自民党の高齢役員ではとうてい務まらないだろう。

安倍政権末期の今年4-6月期の名目GDPは前期比7.6%も落ち込み、これで3四半期連続の前期比マイナスである。民間最終消費支出は前期比-8.2%と激減し、民間最終消費支出のGDP構成比は54.4%に低下した一方、公的需要はGDPの27.8%に上昇した。ここまで公的部門が拡大すると現代経済は資本主義と社会主義の両方の兼ね備えた経済体制と言えるだろう。「規制緩和」とか「構造改革」とかの言葉が踊っているだけで、経済の実態はますます公的部門が経済の隅々にまで入り込んでおり、資本主義経済から離反しているのだ。

日本にとって一番深刻な問題は「人口減」と「高齢化」である。「規制緩和」や「構造改革」を唱えてきたが、この一番の課題に対してはまったく無力であった。2012年の自然増減数は21.9万人減であったが、2019年には51.5万人と安倍政権下で2倍以上に減少幅は拡大した。人口減と高齢化は喫緊の課題だとは言うが、人口は首都圏に集中、地方の過疎化は加速している。東京都の合計特殊出生率は1.15(全国1.36)と都道府県で最低である。人口が最大であり、しかも最大の人口流入超である東京都の合計特殊出生率が最低であることが、人口減に拍車を掛けている。これまでの「規制緩和」と「構造改革」が日本の問題をさらに大きくしているのである。

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