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悲しいかな、FRBも日銀も盲目なのだ

2020年6月以来、10カ月ぶりに109円まで円安ドル高は進行した。過去1カ月ではドルユーロ相場もドル高ユーロ安だが、円ドルほどではない。米国経済の回復力が最も強く、次が欧州で日本の回復は一番遅いとの予想がドル高の背景。バイデン大統領は11日、1.9兆ドルの新型コロナ追加経済対策法案に署名し、成立した。直ちに、現金給付が約1億6,000万世帯に支給される。失業給付の特例加算も加わり、消費者のふところは温かくなり、米国経済の主力エンジンが動き出すことになる。

実際に、より強い景気回復シグナルが米国に現れることになれば、円安ドル高はさらに進行するだろう。米10年債の利回りは1.6%台に上昇してきたが、2%を超えるのは時間の問題だと思う。OECDによれば、今年の米実質GDPは6.5%とユーロ圏3.9%や日本2.7%を大きく上回る見通しだ。もし、高成長持続の可能性が高くなれば、国債利回りは成長率に見合った水準まで上昇するだろう。

米株は過去最高値を更新しているけれども、国債利回りの上昇が、株式の魅力を削ぎ、早晩、反落するとみている。すでに実体経済との関係では、米株式は完全なバブルとなっており、いつバブルが弾けても不思議ではない。

FRBの『Financial Accounts of the United States』によれば、昨年末の米株式価額は64.5兆ドル(7,030兆円、東証1部の9.6倍)、前年よりも18.1%増大している。先週末、S&P500の株価は昨年末比5.0%高くなっているため、株式価額も同程度増加しているはずだ。そうであれば今の米株式価額は67.7兆ドルに増価していることになる。昨年末の株式価額・名目GDP比は初めて3倍を超えた。新型コロナで昨年3月末は2015年9月末以来4年半ぶりに2.0倍を下回ったが、翌2020年6月末には過去最高を更新し、その勢いを持続している。

米株式は実体経済の3倍に肥大化するという空前の規模になっている。この日本円で7,000兆円を超える株式が、世界経済の行方を左右する最大の要因であることは間違いない。1割下落するだけで、6.4兆ドルが消えるのである。借方が6.4兆ドル消滅すれば貸方の負債も同額減らさなければならないが、場合によっては自己資本に喰い込んだり、さらには自己資本が不足し、債務超過に陥ることにもなる。下落が1割にとどまっても6.4兆ドルだが、下げ始めると1割などではすまず、3割、4割、さらに半値と進行するのが株式の世界なのである。

米株の下落は米株だけにとどまらず、世界中に広がり、傷口は一層大きくなる。当然、利益確定、現金選好、狼狽売りが日本を襲い、今までがそうであったように、米株以上に売り叩かれることになるだろう。

最悪の事態を想定するのは地震や台風などの自然災害だけではなく、金融経済、なかでも株式、国債や為替相場が崩壊するような金融恐慌といった最悪の事態も考えておくべきだ。しかも、金融現象は自然に発生するのではなく、人為的に作り出されるのだということを肝に銘じておく必要がある。

日米欧がいずれもゼロ金利という極限にまで金融緩和を推し進め、しかも長期間続けていることの結果が、株式バブルとなって現れているのである。金利に敏感に反応するのは実体経済ではなく金融経済なのだ。金融経済はコストの大半を金利が占めるので、金利の高低によって相場は大きく変動する。しかも金融資産は膨れる一方であり、昨年末の米金融資産は304.8兆ドルと目がくらむような予想外の規模に肥大化している。

米金融資産は株式価額64.5兆ドルのさらに4.7倍の規模であり、これの1%の変化で3兆ドルが動くことになる。これだけ巨額の金融資産をコントロールするのは不可能なことだ。いつ、なにをきっかけに動意付くかわからない捉えどころのないものである。地震の発生場所や時刻が分からないように、金融資産の変動がいつどこで起こるのかを正確に予測することは至難の業である。

 

米金融資産と名目GDP(出所:FRB、BEA)

  金融資産(兆ドル、A)   名目GDP(10億ドル、B)       A/B

1950    1.50                         299               5.02倍

1960    2.81                         542               5.19 

1970    5.68                       1,073               5.28

1980   15.71                       2,857               5.50

1990   39.50                       5,963               6.62

2000   95.88                      10,252               9.35

2010  164.30                      14,992              10.96

2020  304.89                      20,934              14.57

 

だが、金融資産を実体経済と比較することによって、金融資産の膨張の程度を測ることはできる。2000年までの10年間の金融資産の伸びは2.5倍前後であったが、2000年から2010年の期間では1.71倍に低下した。だが、2010年から2020年の10年は1.86倍と伸びは高くなっている。一方、金融資産・名目GDP比率は1980年までは5倍台であったが、1990年以降は上昇しており、2020年は14.57倍である。1990年には6.62倍に上昇したが、その後、金融資産とGDPの成長格差はさらに拡大し、2010年には10倍を超えた。いまでは実体経済の実に14倍超の金融資産が値上がりや利鞘稼ぎなどに血眼になっているのである。

金融資産の6.9%に過ぎないGDPなど、金融資産の僅かな変動で揺さぶられ、壊滅的な被害を受けることになる。そのためには金融資産が暴れないように、手綱を引き締めておかねばならない。ところが、現状、ゼロ金利で手綱は緩みっぱなしであり、金融資産は自己増殖するに至っている。

金融資産の自己増殖に歯止めを掛けるには、金利の引き上げがもっとも有効であり、効果的である。急激な利上げは金融経済を麻痺させてしまうので、緩やかに引き上げなければならない。1930年代の大恐慌や2008年の金融恐慌を経験しているけれども、今の金融資産の規模は当時とは比較にならないほど巨額であり、利上げは一気に実物経済を押し潰してしまうかもしれない。

自然災害も怖いが、金融災害も侮れない。FRBや日銀は金融災害などお構いなしに、ゼロ金利という無謀な政策を訳もなく続けている。すべてのものやサービスの生産や販売にはコストが掛かるのだが、金融にはほとんどコストが掛からない。株式でもただで取引できるのだ。しかし、ただより高い物はないのである。

金融コストは長期の名目GDP成長率まで上昇しなければならない。FRBの金融政策は国債利回りの水準を名目GDP成長率に近づけるようにすべきである。経済成長率が先行き6%を超えるような見通しが一般的になっているときに、ゼロ金利をまだまだ続けると言い触らすことは百害あって一利なしだ。

FRBは金融の崩壊を危惧するあまり、金融政策は後手後手になっている。だが、遅れれば遅れるほど、金融バブルは膨れ上がるが、それでも破裂を恐れて、甘言を弄し、誤魔化す。「銀行や銀行家というものは、本来盲目なのだ。彼らは、どのような事態が近づきつつあるのか理解していない」(ケインズ、「貨幣価値の崩壊が銀行に及ぼした帰結」、1931年8月)。悲しいかな、FRBも日銀も同様に盲目なのである。お題目のように2%の物価目標を唱えたり、際限なく国債を購入し、株式の世界にもどんどん足を踏み入れるのだ。中央銀行こそが金融災害を引き起こす張本人なのである。

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