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憲法に矛盾する働き方関連法

6月29日、働き方改革関連法が成立した。これは労働者ではなく経営者のための法律である。月100時間未満の残業ならOKと国がお墨付けを与えた。月100時間未満は1日当たり約5時間、18時終業では23時までの労働が可能になる。帰宅は24時頃、6時に家を出なければならないのであれば、睡眠時間は5時間未満ということになる。このような非人間的な生活は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(憲法25条)と相いれない。

これでは青天井になっていた従来の残業制度と五十歩百歩ではないか。あまりに遅れていた無茶苦茶な名ばかりの労使協定に少しは縛りを掛けたが、高度プロフェショナル制度の導入で抜け穴も用意した。

中途半端で経営者寄りの法制度を制定するために長時間の国会審議のプロセスは、まさに長時間労働を象徴しているといえる。働き方改革関連法によって、労働環境が大幅に改善し、より人間的な生活を送ることを可能にするものではないからだ。労働者にとってさして良くもならないことに、膨大な労力と時間と金を費やす。国会、行政、企業などの主要組織が大事なことではなく、些末なことを大きく取り上げ延々と議論する。無駄な事柄に時間を掛けていることが、日本社会の非効率で生産性の低い根源ではないかと思う。月100時間も残業しなければならないのであれば、残業の原因を明らかにし、そこまで残業しなくても仕事を終えることができる方法を見出さなければならない。それが経営者の仕事ではないか。

働き方改革関連法では子育てに関わることは難しい。月100時間近く働きながら子育てに参加することなどだれができるのだろうか。介護にしても同じだ。自分の生活だけで精一杯で家族の面倒さえみることができない。生活そのものが汲々とし、ゆとりなどまったくなく、ぎすぎすした家庭生活になり、ノイローゼなど精神障害も起こってくるだろう。過酷な労働や残業によるこうした肉体的・精神的なダメージは計り知れない。

一企業が賃金を抑え、収益を拡大することは可能だが、すべての企業がそのような行動を採れば、有効需要は減少し、収益が悪化することになるのと同じように、少ない従業員で長時間労働をさせ、利益を上げることは一企業にとっては採用可能だが、多数の企業が長時間労働を課すことになれば、社会のゆとりがなくなり、人間的生活は送れなくなり、家庭生活は破壊されることにもなる。最終的には消費の低迷を招き、売上高は伸びず、収益も悪化していくことになるだろう。

働き方改革関連法に拘らず、企業自ら労働環境を改善していかなければならない。結局、働く環境が良く整備された企業には自ずと希望に沿った人材が集まってくるだろう。そして他社よりも優れた新商品を開発し、市場に投入でき、シェアも高くなるはずだし、そうなれば収益も向上することになる。なんといっても個人が力を最大限発揮できる場を提供できるかどうかが企業の浮沈を握っている。日本企業の労働環境は欧米に比べて相当見劣りする。長時間労働をなくし、労働環境を整えるという当りまえのことに着手することによってのみ、企業の価値や魅力を高めることができるのだ。

 

『労働力調査』によれば、5月の失業率は2.2%と前月より0.3ポイント低下したが、これは1992年10月以来25年7ヵ月ぶりである。経済が日本よりも好調な米国の失業率3.8%(5月)やドイツ3.4%(4月)よりも低い。完全雇用状態だといえるが日本の経済成長率は実質前年比1.1%(1-3月期)と米国2.8%やドイツ2.3%を下回っている。日本の経済成長率が低いのは、GDP構成比の高い消費が不振であることに起因しており、さらに遡れば、長時間労働をさせていながら、賃金の伸びを低く抑えていることに行き着く。所得の伸び悩みに長時間労働による肉体の疲弊や精神的ストレスが加わり、消費意欲は依然弱い。

これほど失業率は改善しているが、4月の賃金は名目でも前年比0.6%にとどまる。2014年から賃金は前年比プラスだが、伸び率は0.5%以下と小幅だ。2017年の就業者数を10年前の2007年と比較すると154万人増加している。最も増加したのは医療・福祉の233万人、以下、教育の35万人、学術等の32万人と続く。一方、製造業や建設は118万人、56万人それぞれ減少している。つまり雇用を増やしたのは高齢者の急増にともなう医療・介護関係なのである。

特に、介護職員は2016年、183.3万人と2005年から74.7万人も増加している。介護職員の多くは非正規・低賃金であることから、介護職員の増加は就業者全体の賃金を押し下げることになる。介護関連施設の職員は増加し、これからも増加しつづけるけれども、介護保険料と税金で大半は賄われているという制約のため介護職員の賃金は上昇せず、これからも全体の賃金にはマイナスの効果しかもたらさない。長期的に日本の賃金の伸び率はゼロ近辺から大きく離れることはないだろう。

人口減によって内需は緩やかに減少していくなかで、介護関連の人・モノ・サービス需要は増大する一方である。就業者に占める介護職員の比率はますます上昇していくだろう。人口が減少し、労働力人口の拡大も望めない状況下での介護職員の増加は、よほど日本全体の生産効率を上げなければ、日本経済を現状維持していくことさえ難しいのではないか、と予見させる。

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