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所得格差をさらに拡大する今回の不況

先週開催のFOMC声明は「雇用の最大化と物価安定の目標を達成する軌道に乗ったと確信するまで0.0~0.25%を維持すると予想する」と言う。どこの中央銀行も雇用と物価を最大の目標にしているが、日本など1980年代後半以降、物価が問題になることはほとんどなかった。物価が下落するデフレ期もあったが、最大でも2009年の前年比1.4%減であり、長期的に安定していたのだ。35年間もの安定していた物価を日銀は2.0%に引き上げるなど、歴史をまったく顧みない目標を掲げた。達成不可能な目標達成のために金融政策から逸脱した政策を政府の後押しもあり推進してきたし、今も推進している。

FRBも同じように物価安定を目標としているが、長い間、米国の物価も安定しており、金融政策の目標にする必要はなかった。雇用も今年2月まで、歴史的な低水準に維持されており、FRBの目標は達成されていたのである。雇用拡大や物価安定が大事だと言いながら、真の狙いは株式の暴落阻止であったのだ。

消費支出の不振で米国の消費者物価指数(CPI)は5月、前年比0.1%まで下がっている。6月はマイナスになり、しばらくデフレ状態が続くだろう。4月の日本のCPIも前年比0.1%だし、5月のユーロHICPも前年比0.1%と各国の物価上昇率は並んでいる。各国の雇用や消費の回復は遅れ、近々、物価水準はマイナス圏に沈むことになるだろう。

金融政策の目標というか中央銀行が目を向けなければならないのは金融経済なのだ。金融政策の重心は実体経済から金融経済に移すべきだ。金融資産は実体経済を上回る速度で拡大、蓄積しており、金融経済をコントロールすることが中央銀行の最大の使命ではないか。

経済構造が大きく変わっていながら、従来通りの実体経済を睨んだ政策では時代遅れも甚だしい。過去も現在もバブルを産み出したのは金融政策であることを肝に銘じなければならないのだが、中央銀行はそのようなことなど歯牙にもかけない。それどころか、日銀のように投機のるつぼに入り込んでゆき、投機の泡となりそうな異様な行動を演じるという有り様になっている。

FOMCが今回示した今年の実質GDP予測は-7.6%~-5.5%、2021年は4.5%~6.0%である。今年の予測が当たれば2009年(-2.5%)を上回り、1946年(-11.6%)以来、74年ぶりの深刻な不況になる。萎縮した消費行動はなかなか元にもどらず、実質GDPが2019年を超えるのは2023年以降になりそうだ。

戦後最大の景気後退下にありながらナスダック総合は過去最高を更新したが、やはりFOMCの経済予測は投機家心理を冷やしたようである。ゼロ金利を2022年まで続けるといっても経済が崩れてしまっては、企業利益は散々な結果になることは目に見えているからだ。

今年の米失業率は9.0~10.0%、個人消費支出物価指数(PCE)は0.6~1.0%と予測されている。4月のPCEは前年比0.5%まで低下しているためFOMCの予測は高すぎる。2021年は1.4~1.7%への上昇を見込んでいるが、景気回復の遅れなどから1.0%程度にとどまるのではないか。

米国の実質GDPの下落率がFOMCの予測のように大きくなれば、その影響は世界経済に及ぶ。特に、日本経済は苦境に立たされることになる。日本と米国の実質GDP成長率を比較してみると日本が米国より高い成長していたのは1980年代のバブル期までで、それ以降は米国の成長率がほぼ日本を上回っている。

リーマンショックのときの2008年、2009年の米実質経済成長率は-0.1%、-2.5%だったが、日本は-1.1%、-5.4%と震源地の米国よりも酷い経済状態になった。それほど日本経済は外需が消えると崩れてしまうのである。

今回の新型コロナによる雇用と消費の落ち込みや輸出減は、2008年の金融崩壊をはるかに上回る勢いで進行しており、日本のGDPのマイナス幅は米国よりも大きくなることは確実であろう。

『法人企業統計』によれば、今年1-3月期の大企業製造業の営業利益は前年比39.3%減と2018年7-9月期以降7四半期連続の減益であり、しかも減益率は2010年4-6月期以来約10年ぶりの大きさである。

新型コロナは接客業を中心に非製造業に大打撃を与えており、今年1-3月期でも大企業非製造業の営業利益は前年比53.2%減と製造業を上回った。非製造業のこれほどの営業利益の悪化は1960年の調査開始以来である。GDPに占める割合が製造業の2割に対して、非製造業はその8割を占めていることからGDPに及ぼす影響は製造業よりも格段に大きい。本来、不景気のときでも落ち込み幅が小さく比較的安定している非製造業が、今回は激しく落ち込んでいることが景気の谷をより深くしている。

『毎月勤労統計』によると4月の総実労働時間は産業計で前年比-3.7%だが、飲食サービス業と生活関連サービス業は前年比-21.5%、-18.7%それぞれ急減している。特に、所定外労働時間は-47.5%、-48.6%も激減したことから現金給与総額は-11.4%、-7.7%となり、減少率は産業計の-0.6%よりもはるかに大きく、産業別の減少率の1位と2位である。しかも現金給与総額の産業計が275,022円に対して飲食サービス業と生活関連サービス業は107,770円、186,697円と産業計を大幅に下回り、産業別では最低水準である。最高は「電気・ガス業」の468,588円、2位「情報通信業」の419,652円、3位「学術研究等」の399,805円となっている。減少率が最大でかつ給与が最低という現実にどのように向き合えばよいのだろうか。

『民間給与実態統計調査』(国税庁、2018年)の業種別給与階級別分布をみると、宿泊業・飲食サービス業は1年間の給与支給額300万円以下が67.4%を占めている一方、電気・ガス・熱供給・水道業では800万円超が40.6%を占める。電力は自由化になったとはいえ、まだまだ法令によって決められたコストがあり、総括原価方式が生き残っているのではないか。

不景気のときには常に最低所得層を一層悪化させる傾向があるが、今回は通常の不景気の何倍もの荒波が低所得層に押し寄せている。給与月10万円の人に10万円の給付をしてもどれだけの足しになるだろうか。焼け石に水ではないか。

もともと給与格差が歴然とあるところへ、不況によりその格差がさらに拡大していることが今回の不況の特徴である。電通のように平均年間給与が1,168万円(2019年12月期の有価証券報告書、平均年齢40.9歳)と1千万円を超えるところには政府との強い繋がりから労せずして利益が転がり込む一方、低所得層はさらに所得を削り取られるという抜き差しならぬ問題がある。

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