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日銀の幻想

8月末、日銀の総資産は205.6兆円とはじめて200兆円を超えた。3月末比41.3兆円の増加である。FRBの総資産も4日時点で3.65兆ドルと過去最高を更新している。日銀総資産・名目GDP比が42.9%に対して、米国は21.9%である。日銀の総資産は経済規模からみるとはなはだ大きく、これに比べればFRBの資産規模は小さく、資産購入を縮小する必要はないともいえる。

だが、これだけ大規模に国債等を買い付けても、実体経済はいうことをきいてくれない。8月の米雇用統計によれば、雇用は拡大しているもののペースは緩やかである。平均週労働時間は横ばいだし、時間当り賃金もほとんど伸びていない。低金利のお陰で新車販売はきわめて好調だが、非耐久財やサービスの分野まで消費は拡がらないのである。低金利の恩恵をもっとも受けているのは金融業であり、米国経済を崩した張本人が、中央銀行の金融緩和で一番旨い汁を吸っているのだ。

日本でも同様に金融業の懐は温かくなっているが、日銀の資産買取政策も中小企業などにはほとんど影響が及んでいない。資本金10億円以上の大企業の営業利益は4-6月期、前年比40.6%増加したが、資本金1億円未満の中小企業はマイナス23.9%。当然のことだ。影響するはずがないことを影響すると思ってしているだけなのだから。そもそも企業は十分に金を持っており、銀行から借りなくても、自分の金で設備投資やモノを購入したりすることができるのである。だから、日銀が国債と引き換えに銀行に現金を供給したところで、銀行の貸出は伸びない。

企業は借らないのだから、銀行は余った現金を日銀に預け、日銀はそれを元にまた銀行から国債を買うということが続いているだけなのだ。日銀がどんどん国債を買ってくれるので銀行は安心して新発国債を買うことができる。新発国債の購入に銀行が支払った金は国に入り、重要な財政資金となる。せっせと家計が銀行に預けた金は、最終的に国に入り、公共投資、福祉、公務員給与等に使われているのである。日銀は国に金を供給する機関となっているのである。 

日銀が仲介しなくても、民間設備投資等が弱くて、貯蓄を吸収できなければ、国が貯蓄を使わざるを得ないし、使うことになる。日銀はもったいぶっているが、日銀が銀行から国債を買い取らなくても、国に過剰貯蓄は流れることになる。日銀は世間に格好をつけているだけなのだ。自分たちが国債購入をしなければ、経済はよくならないのだともいう。

買いオペの本来の目的は銀行に金を供給することによって、金利を下げることなのである。だが、国債利回りは1%以下に下がっており、さがるとしても微々たるもので、これによって資金需要が旺盛になることはない。すでに長期間、過去にない超低金利が続いているが、一向に資金需要は盛り上がらない。設備投資を活発に行い拡大再生産していく経済は完全に終焉しているからだ。単純再生産さえ難しく、縮小生産過程の時代では資金需要など出てこない。

1%以下の利回りでも資金需要が出てこないのは、1%を上回るような投資物件さえもなかなか見つからないからだ。これほど低い借入コストでも金を借りることを躊躇する。数%もの高い期待収益率の投資物件などほとんどないのだろう。だから、企業は設備投資をすることができず流動性の高い現金等で資産を保有しているのである。

事業規模の拡大や新製品の開発のための設備投資をしないことは、将来の売上高の増大を見込めず、従業員の増員計画もなく、従業員の給与も抑制していくことになるだろう。

2日発表の『法人企業統計』によると、売上高の2年連続減に伴い、2012年度の全産業全規模の人件費(従業員・役員の給与・賞与、福利厚生費)は前年比1.5%減少した。過去10年では6回前年割れしており、1998年度がピークである。従業員給与(賞与含む)も昨年度1.8%減と2年ぶりのマイナスだ。従業員1人当りでは361.8万円と前年を下回り、1990年度と大差ない。ピークは1997年度の390.9万円で昨年度はこれより29.1万円も少なくなっている。長いこと従業員給与は右肩下がりになっているのである。なにしろ2012年度の売上高は22年前の1990年度を下回っており、さらに従業員1人当りの売上高のピークは1990年度であり、2012年度は1985年度をも下回っているのだ。これが日本企業の実態なのである。

 このような給与の推移では消費は伸びるわけがない。さらに長期デフレによりものの価値が下がり、金の価値が上がる時代では、だれもものよりも金を大事にすることになり、ますます消費を控えることになる。企業も資産をものよりも金で持つことを優先している。なるべく流動的な資産を選ぶことになる。それが運用方法とし一番理に適っているからだ。家計も企業もみなが現金保有に走っているのである。日銀の資産買取が家計や企業の現金選好を変えることはできない。

 日銀は4月の金融政策決定会合で日銀総資産を2013年末220兆円、2014年末290兆円に拡大するとの見通しを示したが、日銀がいくら国債等を購入し資産を膨らましても、日本企業、日本経済を動かすことはできないのである。金の力だけで経済が動くのであればことは簡単。金の力だけでは如何ともしがたいのである。金でなんとかなるのであれば不況など起こりえない。需要がない民間部門を刺激することなど日銀にはできない。日銀が需要を創出し、儲けるビジネスを作り出すことなどできないからだ。

消費需要がなく、投資需要もまたない経済では、公的部門が需要を作り出すことのできる唯一の部門である。それでやっと経済が維持できているのである。公的部門の拡大は悪いといっても、この突っ支い棒がなければ、今の日本経済は恐ろしく酷い状態になるだろう。公的部門はさまざまな問題を抱えてはいるが、市場経済だけでは成り立たないのであるから、公的部門を改善しながら使うほかないのである。

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