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来年FRBは利上げできるか

11月28日の講演(テーマ:金融の安定性を監視するためのFRBの枠組み)でパウエルFRB議長は、政策金利は中立金利(経済が加速も減速しない金利)を「若干下回る」水準にあると述べた。即座に株式は反応し、NYダウは大幅高となった。米10年債利回りは週末、2.99%と今年9月17日以来約2ヵ月半ぶりに3%を下回った。米国債利回りの低下は主要国の国債にも波及している。ユーロ経済の減速やEUからの英離脱の行方などからユーロは弱含みである。円ドル相場も小幅な変化にとどまっている。

FRBが政策金利をあと1回引き上げ2.25%~2.50%で打ち止めにするならば、政策金利は今年第3四半期の名目経済成長率を3ポイントも下回ることになる。10年債利回りも経済成長率を2.5ポイント下回り、これではたして今の政策金利の水準を、中立金利を「若干下回る」などと言えるだろうか。

すでにクラリダFRB副議長が仄めかした政策金利の引き上げは最終局面に近いという考えをパウエル議長はより周知させようとしたのではないか。適当な機会を捉えて金融政策の方向を穏やかに修正していくFRBがよく使う手法だ。9月のFRBの予測では今年あと1回、来年3回、2020年1回の利上げを計画していたが、経済情勢に大きな変化がなければ、来年の利上げは実施されないかもしれない。

今年は減税によるプラス効果が現れたけれども、来年は減税効果が剥落し、FRBのGDP予測も今年の3.0%~3.2%から来年は2.4%~2.7%へ引き下げられている。経済成長の低下を見込みながら、利上げを継続するというのは矛盾している。

FRBのGDP予測は第4四半期の前年比の伸び率だが、今年3%が達成されれば2005年以来13年ぶりの高成長ということになる。来年の2.4%~2.7%でも決して低くはなく、やや高目の予想といえるのではないか。来年の経済成長率は低下予想だが、物価はほぼ横ばいを見込んでいる。10月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年比2.0%とFRBの予測と同じだが、食品・エネルギーを除くコアは1.8%に低下しており、今年の予測を下回っている。物価が低下しているなかで、利上げをすれば、物価はますます下がることになる。

しかも、原油の急落など商品市況は軟調に推移しており、先行き消費者物価を押し下げるだろう。欧州経済の減速はより強まっており、世界的に物価はより安定していくだろう。11月の東京都区部の消費者物価指数は前年比0.8%と前月の上昇率よりも0.7ポイントも低下した。11月のユーロ圏の物価も前年比2.0%、コアは1.1%と落ち着いているが、10月の失業率は8.1%と横ばい、25歳以下は17.3%と2ヵ月連続の上昇である。25歳以下で特に高いのはギリシャ、スペイン、イタリアの30%超、次がフランスとポルトガルの20%超である。若年層の失業率が高い国の政治の最大の課題は雇用であり、失業率が低下していかなければ、政治は安定しない。

10月の米失業率は3.7%とFRBの予測値と同じであり、FRBの金融政策は、雇用の拡大は達成しているが、物価は予測以下の低い伸びであり、このまま政策金利を引き上げていけば、物価は目標から遠ざかることになりかねないという不安が台頭しているのかもしれない。物価の伸びが低下していけば、個人消費にも悪影響がおよび、そうなれば経済成長率も間違いなく下振れするだろう。

10月の米個人消費支出は前年比5.0%と高い伸びを維持しているが、この一因は減税である。10月の賃金・俸給は前年比4.4%増だが、税が0.7%増にとどまったため、可処分所得が4.8%伸びているからだ。今年1月から9月までの税・個人所得比率を前年同期と比較すると、昨年の16.5%から今年は11.7%に低下している。こうした減税による可処分所得の引き上げが今年の個人消費支出の拡大に繋がっているのだ。

FRBは雇用の拡大と物価の安定という二大目標を達成しているが、これから減税効果が出尽くし、経済が減速するかもしれないときに利上げをするだろうか。利上げすれば、経済はより悪化することになり、FRBに対する信頼は喪失する。FRBはそのようなリスクを冒すようなことはしない。少なくともFRBは2019年の前半は経済の様子を見守り、利上げに踏み切らないのではないだろうか。

米10年債利回りは3.23%をピークに低下しつつある。利上げ観測がさらに遠のくことになれば、債券利回りは一層低下し、資産の現在価値を高めるだろう。バブル化している米株式に流入資金は増し、最高値を更新するかもしれない。政策金利の打ち止め感は金融経済を再び活況にすることになる。

円ドル相場は米国経済減速、利上げ観測の後退などで円高ドル安に向かうだろう。資源価格の下落によって日本の貿易収支は改善し、そのことも円高に加勢するはずだ。ただ、米国や欧州経済の減速が日本にも及び、大幅な円高ドル安にはならないのではないか。

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