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株式市場は単なる遊技場

資本主義経済は資本、つまり金の力で経済を動かしていく仕組みである。金を得る仕組みとして株式市場は、資本主義経済の中枢と言えるだろう。だが、今の、株式市場には資金調達という最も重要な役割を見出すことはできない。自己資本が十分に備わっているだけでなく、債券発行や金融機関から超低金利資金の借り入れなど、いくらでも資金調達手段はある。事実、日本の株式などによる資金調達は今年(11月まで)、約4兆円(普通債は12兆円)だが、昨年までは2兆円に満たない状態が続いていた。

『法人企業統計』によれば、昨年度の企業の長短借入金は前年度比51.8兆円も増加しており、株式による資金調達など取るに足らない。つまり、株式市場は本来の機能をほとんど果たしていないのだ。企業の株価が上がれば、株式市場からより多くの資金を調達でき、その資金を設備投資などに振り向け、生産や販売を強化し、利益の拡大を図り、そうなればさらに株価は上昇する、という好循環が生まれることになる。だが、現状の資金調達手段は借入と債券に依存しており、株価の上昇にもかかわらず、株式での資金調達は細々としたものでしかない。

先週末現在、昨年末を日経平均株価は4.8%、TOPIXは10.0%上回っている。日経平均株価が今年も前年末を上回ることになれば、2018年を除けば過去10年のうち9年はプラスなのだ。先週末と2011年末を比較すると、日経平均株価は3.4倍に拡大している。これだけ急騰しているけれども、直接金融である株式市場は本来の役割を果たすことができなかったのである。日本の企業は依然、間接金融に依存していると言える。

株式市場は資本主義を動かす金を入手する機関ではなく、万人を取り込み、日々、刻々と変わる株価に一喜一憂する博打場と化している。賭博場に貶めたのは政府と日銀である。手数料の低廉化、税制の優遇措置のほか、ゼロ金利の常態化と上場投信の購入、公的年金資金による株式購入など国の強い関与が株価形成を歪めてしまった。適正な株価が皆目分からなくなってしまったのである。だから、株価が上昇しても長期保有することはできない。超短期売買を繰り返さざるを得ないのである。

2004年以降、東証1部の売買回転率(株数)は18年連続で100%を超えており、一日当たりの売買代金は2013年以降、2兆円超と株式流通市場は活況そのもの。株式流通市場は活況だが、実体経済は超低空飛行のままだ。例えば、2020年の実質GDPを20年前の2000年と比較すると、1.094倍にすぎず、米国の1.399倍、ドイツの1.211倍に比べると相当見劣りする。名目GDPでは1.005倍とほとんど変わっていないのだ。

株式流通市場がいくら活況になっても、実体経済にはなにの影響も認められない。日々、どれだけたくさんの株式を売買したところで、持ち手がかわるだけであり、それ以上のことは起こらないからである。例え、株価が上昇し、含み益が発生しても、実体経済に影響を及ぼすには、実際に含み益のある株式を売却し、消費に使わなければならない。

実体経済により強い影響を及ぼすには、企業の株式による資金調達であり、調達した資金を設備投資に使うことである。バブル崩壊以降の株式は、流通市場のみが株式だと誤解され続けているのではないか。これだけ株式の出来高が膨れ、株価も上昇してきたが、実体経済の長期低迷をみるならば、日本の株式市場は単なる遊技場でしかなかったのだ。

政治、経済と同様、日本株は米株次第という制約付きであることも不安材料となっている。日本経済がどうのこうのと言ったことではなく、米株の影響が極めて大きく、日本株の変動は米株のそれを凌ぐ(米株式との連動するのは日本株に限らず、世界の株式や商品も含まれているが)。先週末と昨年末の比較では、NYダウ17.4%、S&P50025.8%、ナスダック21.4%といずれも大幅に上昇している。

FRBによれば、9月末の米株式価額は75兆ドル、前年比32.5%の18.3兆ドルもの急増だ。増加額だけで、日本円に換算すると2千兆円超となるが、この値上がりからどれだけ消費等の実体経済に回っているのだろうか。

今年7-9月期の米名目GDPは23.2兆ドル、75兆ドル÷23.2兆ドル=3.23倍となる。米株式価額が名目GDPの3.23倍の規模に膨れているのだ。先週末の米株価は9月末を上回っており、現時点で米株式価額は80兆ドル程度に拡大しているはずだ。そうであれば、株式価額・GDP比率は約3.4倍へと一層実体経済との差は広がる。もちろん、株式価額・GDP比率は過去最高を更新中である。

12月15日、FRBはFFレートを据え置くものの、債券買い入れを来年3月に終え、来年末までに0.25%の利上げを3回実施すると言う。発表後、米株式は多少下押ししたが、すぐに反発、24日、S&P500は過去最高値を更新した。

利上げを表明したが、1年後でも1%未満であれば、今の経済状態からすれば、依然、超緩和であることに変わりないということなのだ。さらに、パウエル議長の基本方針は株式至上主義であり、もし、米株式に変調の兆しが認められるならば、即座に金融緩和策を講じ、株式を支えるだろうという期待を、市場関係者は共有しているからだ。FRBの強い支援があれば、過去最高値を更新しようが、怖くはないのである。

11月の米個人消費支出物価指数は前年比5.7%、食品・エネルギーを除くコアも4.7%と上昇傾向に歯止めはかからない。12月15日発表のFOMCの予想をいずれも超えており、物価目標を達成するには、直ちに、FFレートを上げなければならないのだ。2022年の物価目標は2.2%~3.0%、コア2.5%~3.0%と現状を大幅に下回る。はたして、1%に満たない利上げで、いまだ上昇を続ける物価を抑えきれるのだろうか、はなはだ疑問。

75兆ドルの株式をいかに制御するかは、物価以上に難しいのではないだろうか。実体経済から逸脱したゼロ金利政策が、株式を75兆ドルという制御不能な化け物に仕立て上げた。毎年、この怪物と一緒に年を越しているが、いつまでも怪物を泳がせていくわけにはいかない。株式市場は資本主義経済の権化のようにいわれているが、上述したように、いまでは遊技場でしかない。

1億総スマホ化で日夜、株価と睨めっこしている姿は、子供がゲームに熱中しているのと同じだ(大人もゲームにはまっているのだが)。リスクは伴うがスリルもあり、仕事よりは面白いのだろう。ただ、買いにしろ、売りにしろ、投じた金が常に変動してのだから、気になることは間違いない。株式が頭から離れることなく、精神的にもゆとりが失われていくだろう。日本人の多くが、ストレスを溜める株式の虜になることは、決して歓迎されることではない。博打にみなが熱を入れるような、また国がそのように誘導する社会は健全な社会とは言えないはずだ。株式市場はもともと、むやみにだれもが近づけないような特殊なところなのである。

良い年をお迎えください。

■次号は休みます。

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