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欧州経済の不安とトランプ大統領の愚策

13日、FRBは政策金利を0.25%引き上げ、年1.75%~2.00%とした。今年2回目の利上げだが、年内、さらに2回引き上げるつもりである。FRBの利上げは相場に織り込み済みであり、為替、株式、債券には影響しなかった。むしろ、その翌日、ECB理事会が来年夏まで政策金利を現行の水準にとどめると発表したことの意外性から、対ドルでユーロは大幅に値下がりし、昨年7月19日以来の安値を付けた。さらに、週末、トランプ大統領が中国からの輸入(500億ドル)に25%の関税を掛けると発表、それに対して即座に中国も同様の措置を講ずると応じた。米国の利上げに続いて、貿易戦争の様相を呈してきたことから、商品市況は大幅安となった。

今年5月にはバレル72ドル台まで上昇していたWTIは、ロシアとサウジアラビアが来月から増産する可能性に言及したことから65ドル台に低下し、ドル高などから金は昨年12月21日以来、約半年ぶりの水準に下落した。高関税を課すのは米国の対中輸入額の約1割だが、錯綜している輸出入の流れがうまく流れなくなることも予想され、世界経済の足を引っ張るだろう。もしこのまま、米中が貿易戦争を始めれば、世界的に輸出入はさまざまな問題が生じることになるだろう。資源の輸入大国である中国が輸入を縮小することにでもなれば、商品相場への影響は計り知れない。

ECBが年内、債券購入策を終了させ、ゼロ金利については来年夏まで続けることにしたのは、欧州経済が曲がり角にきていると判断しているからではないだろうか。今年1-3月期のユーロ圏実質GDPは前期比0.4%と前期よりも0.3ポイント低下した。4月のユーロ圏鉱工業生産は前月比-0.9%、前年比では1.7%と昨年12月の5.1%に比べれば大幅にダウンしており、生産は失速しつつある。その内訳をみると、エネルギーは前年割れとなり、消費財も前年割れは免れているが、わずかに浮上している程度である。資本財は前年比4.3%と依然高いが、昨年11月の9.1%に比べると半分以下に伸びは低下している。

ユーロ圏の盟主であるドイツの鉱工業生産も4月、前年比2.0%と昨年12月の7.1%からから大幅に鈍化している。また、設備投資の先行指標となる資本財受注は4月、前月比-5.5%と2ヵ月連続のマイナスになり、前年比では-2.9%と2016年7月以来1年9ヵ月ぶりに前年を下回り、ドイツ経済の先行きは不透明感を増している。

6月のZEW景況指数(「良い」-「悪い」)は-16.1、前月比7.9ポイント低下し、2012年9月以来5年9ヵ月ぶりの大幅なマイナスとなった。5月は-8.2と4月から横ばいだったが、6月はマイナス幅が拡大した。直近のピークは今年1月の20.4だったが、3月、4月と2ヵ月連続で低下幅が大きくなり、景況感が大きく変わってきたことが窺える。

15日、ドイツ連銀は経済予測を発表したが、2018年の実質GDPは2.0%と昨年12月予測から0.5ポイント下方修正した。生産や資本財受注の勢いが衰えてきていることや消費や輸出もこれまでの高い伸びは期待できないからだ。

 

FRBも経済予測を公表したが、3月時点の予測とほとんど同じだ。2018年の実質GDPは今年1-3月期並みの2.7%~3.0%と予測している。5月の失業率は3.8%とすでに歴史的な水準に低下しているが、予測は3.6%~3.7%へとさらに低下すると予想している。5月の失業者数は606万人と2001年1月以来17年4ヵ月ぶりであり、労働需給は逼迫しているといえる。労働供給の面から経済の拡大が思うように行かなくなる労働環境に近づいているのかもしれない。

今までのように雇用が伸びなくなれば、消費支出も鈍化することになるだろう。労働供給の制約によって国内の生産やサービスが拡大できなくなれば、不足分は輸入に頼らざるをえない。もともと、米国経済は輸入依存度の高い国なのだ。それを、トランプ大統領のように自国第1主義に走り、輸入に高関税を掛けることで輸入品が割高となり、入りにくくなれば、米国経済になんらかの悪影響が及ぶことは間違いない。

一般的に、景気が拡大すれば貿易赤字は拡大し、景気が悪化すれば貿易赤字は縮小する。米国経済もこの傾向は顕著である。金融崩壊後の2009年には5,096億ドルまで縮小したけれども景気が回復するにつれて貿易赤字は拡大していった。ただ、2017年の貿易赤字(モノ)は前年比7.5%増の8,074億ドルに拡大したが、2006年の過去最高(8,372億ドル)よりは少ない。

米貿易収支のうちモノは赤字だが、サービスは黒字であり、2017年のサービス黒字額は2,552億ドルである。モノにサービスを加えた赤字額は2017年、5,522億ドルだが、ピークは2006年の7,617億ドルであり、それに比べると27.5%も少ない。貿易赤字額・名目GDP比では2006年の5.5%に対して、2017年は2.8%である。

こうした数字をみると、今、トランプ大統領が騒ぎ立てている貿易赤字は米国にとってそれほど深刻な問題ではないということがわかる。対中赤字は大きいけれども、全体的にはかつてのような喫緊な課題ではない。問題の本質をすり替えていると言わざるを得ない。まったく子供じみた自分勝手な振る舞いだといえる。ドイツのメルケル首相がねじ込むのも当然ではないだろうか。自国のことはだれでも大事ではあるが、国際社会のなかの自国であることも大事である。そこのところを政治でうまくやっていくことが政治家のもっとも重要な仕事なのだと思うが、トランプ大統領はそのような考えは頭の片隅にもないらしい。彼は政治家ではなくあくまでも質の悪いビジネスマンにすぎない。

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