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消費税引き上げと米労働分配率低下

FRBの金融緩和が縮小されそうだということで円安ドル高が進行している。このまま円安が続けば、来年4月の消費税率引上げが加わり、物価は大幅に上がることになる。10月の消費者物価指数は総合で前年比1.1%増と2008年10月以来の高い伸びとなった。4月のマイナス0.9%から6月にはプラスに転じ、10月には1%を超えた。来年秋には消費者物価上昇率は4%を超えることになるだろう。生鮮食品を除く指数は0.9%と2008年11月、さらにエネルギーを除いた指数も0.3%増と1998年8月以来の伸びとなり、円安が日本の物価に悪影響を及ぼしていることが読み取れる。

円安が物価を引上げ、物価上昇がさらに円安を進めるといった悪循環に陥っているようにも思える。1997年4月の3%から5%への消費税率引上げでは、円安ドル高は1998年央まで続いた。物価上昇率が高くなれば、消費を少なくし、経済は冷えることになる。景気一致指数は1997年3月をピークに下降線を辿り、1998年12月にやっと底打ちできた。消費税率の2%の引上げでもこれだけの打撃を経済に与えたのである。

1997年4月の消費税率引上げの約1年前に株価はピークを付け、スランプは1998年10月まで続いた。今回、株価は依然今年の高値圏にあり、前回のような景気悪化を先取りするような気配は認められない。円安を拠り所に外人が日本株を買い進めていることが、日本の株高をもたらしている。だが、円安のときに常に外人買いが入り、日本株が上昇していたかといえばそうではないのである。

 最終的には、株価は企業業績が良くなるか悪くなるかにかかっている。円安で輸出企業中心に業績は一時的に良くなるけれども、長くは続かない。物価高によって、消費が冷え込み、経済が悪化するからである。経済が良くなるのも悪くなるのも結局は消費如何なのだ。家計が財布の紐を縛れば、もののうごきは不活発になり、経済全体が悪くなる。

来年4月以降、家計は支出を切り詰めるだろう。為替相場などに関係なく、消費支出を削ることは間違いない。いま消費は駆け込み需要で支えられている状態であり、決して強くはないのだが、来年4月以降は消費不振に拍車がかかることになる。そして日本経済は一気に大規模な需要不足に悩まされることになるはずだ。

自民、公明が12日、2014年度税制改正大綱を決めたが、家計の増税、企業の減税を打ち出した。来年4月から消費が落ち込むが、そういうときに家計の負担を増やし企業を優遇することは、経済の悪化を加速させることになる。円安で利益が出ている輸出企業の潤いなど、瞬く間に、国内消費減で消えうせてしまう。消費減と設備投資減によって、企業収益は悪化し、円安だけれども、外人売りが嵩み、日本株は大きく値下がりする事態になるだろう。

消費税率引上げの1年後には税率の3%分が剥げ落ち、消費者物価上昇率はまたマイナスに転じることになるのではないか。物価上昇率の低下は円高ドル安を引き起こす。日銀の金融緩和も効果がないことが明らかになり、円高ドル安が急速に進行するかもしれない。FRBは金融緩和を縮小するだろうが、経済の回復が思わしくなく、株式の動揺なども加わり、再び、元の金融緩和路線に戻るかもしれない。そのようなことが起これば、円高は一層強まるだろう。

11月の米小売売上高は前月比0.7%と前月よりも伸び率は0.1ポイント高くなり、消費が順調に回復しているようにも見える。だが、自動車販売業などを除くと0.4%にとどまり、決して高くはない。生産者物価指数は11月、前月比-0.1%と3ヵ月連続のマイナスとなり、米国経済の体温は低下気味である。

9月末の米家計資産は90.9兆ドルと前年よりも9.2%増加(7.8兆ドル)した。株価の上昇により、株式、投資信託、年金などの金融資産が前年比5.3兆ドルも増加したことが資産拡大に貢献した。日本の年間名目GDPをはるかに超える資産が金融資産だけで生み出されているのだ。だから、可処分所得の伸びが低迷していても、弱いながら消費がプラスに保たれているのである。

だが、一旦株式が下落しだすと、逆資産効果が働き、消費は冷え込むことになるだろう。米国経済は株式という危険なものに頼っており、非常に不安定な状況下にあるといってよい。米株式がなぜこれほどまでに上昇したかといえば、企業収益への期待ではなく、FRBが金利をゼロに引き下げ、巨額の債券買いを続けているからだ。

今年7-9月期の米企業利益は前年比5.8%とプラスだが、3四半期連続の1桁台の低い伸びである。国民所得に占める企業利益(税引き後)の割合は7-9月期、14.6%と1965年以降では最高になっている。失業率は11月、7.0%に低下したとはいえ依然高水準にあり、企業の立場が強く、企業の取り分は歴史的にみて高くなりすぎている。これだけ企業の取り分が多くなっていても企業利益の伸びは低い。

一方、雇用者報酬の国民所得に占める割合は60.9%と1965年以降では最低だ。雇用者の立場は弱くなっており、労働分配率の低下が、米国経済が低い成長を余儀なくされている最大の要因と考えられる。労働分配率の歴史的な低下が消費活動を弱め、延いては米国経済を沈滞させているのである。

労働分配率という構造的な問題を抱えているため、米国経済はかつてのような成長を取り戻すことはできない。緩やかな成長が精一杯であり、もし、株式が崩れるこになれば、相当深刻な不況に陥ることになるだろう。その確率は低くはなく、いつ襲ってくるか身構えておく必要がある。日本株や日本経済は米株急落の激震に見舞われればひとたまりもないからだ。

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