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渋谷と地価

渋谷は人で溢れている。圧倒的に若者たちで外国人の数も相当なものだ。なぜこれほど渋谷に人が集まるのだろうか。1968年から約10年、渋谷の大学に通っていたが、これほどの喧騒はなかった。渋谷センター街は静かで、クラシックが聞ける音楽喫茶などもあった。今、109が建っているところには恋文横丁という狭い飲み屋が連なっており、懐かしい。ビルにしてしまうと、情緒もなにもなくなってしまう。窮屈に立ち並び、多少猥雑なのが人間的だと思うが、資本主義経済ではそんなことなど歯牙にもかけないのだろう。

百軒店も変わってしまったが、学生時代によく利用していたお好み焼く屋はまだ存続し、カレー屋も残っている。高速道路沿いの飲み屋は店じまいし、にょきにょきと高層ビルが建つ。その中にはいる店舗はいま流行りの店ばかりだ。どこの町も同じになってしまう。

日本橋のような由緒ある町でも上に伸びる計画しかない。特定の不動産会社が局所的に開発しているだけで、町全体を俯瞰するという姿勢はないのだ。行政、住民が参加し、もっと真剣に町のデザインのことを考えなければ、鉄筋コンクリートの味気ない、しかも長持ちしない、環境面からも負荷の掛かる町になってしまう。

渋谷の町になにか特別なものがあるというわけではないが、若者を引き付ける。渋谷駅のあたりが鍋の底にあたり、そこから西に道玄坂と東の宮益坂へと通じている。道玄坂を上がっていくと百軒店があり、その奥はかつて三業地として栄えたところだ。そうした背景が渋谷の吸引力を高めているのかもしれない。いまでは渋谷はあまりに騒がしいので神泉にも人が流れているようだ。

渋谷に人が集まり、集まるからさらに集まるという循環ができているように思う。日本全国から若者を引き寄せており、その分地方はがらがらになるのだ。人の移動は自由だから、当然、面白そうなところに住みたいと思う。それは東京であり、渋谷なのだ。

人が集まれば商売も盛んになる。渋谷にたくさん金が落ちれば、それを目当てに出店も増え、魅力的な店も来る。それにつれてさらに人が訪れ、商売も盛んになる。そのような渋谷の様子が地価によくあらわれている。

日本不動産研究所によれば、観光客の増加などで渋谷センター街への出店は旺盛であり、賃貸料は高位で推移し、またオフィス賃貸市場ではIT系企業の渋谷への集積により、需要は旺盛で賃料は上昇傾向にあるという。計画段階のビルも押さえられているそうだ。今年9月の「市街地価格指数」によると、渋谷駅周辺の商業地地価は半年で6%超上昇した。都内で6%超の上昇地区は渋谷のほかに日本橋2丁目中央通り沿い、池袋東口の3ヵ所。年率では12%超であり、日本で最も上昇率の高い商業地なのである。

東京区部商業地は前年比7.9%だが、都下になると4.9%に下がる。住宅地は都区2.1%、都下1.3%と商業地の上昇率が圧倒していることがわかる。7-9月期の名目GDPの前年比1.9%や11月の東京都区部消費者物価指数の0.8%、さらに11月の日経平均株価の前年比4.2%と比べても、渋谷の商業地の2桁増は行き過ぎではないだろうか。

東京区部の商業地地価の上昇に連れてか、9月の六大都市商業地も前年比9.8%と5半期連続して上昇し、2008年3月以来11年半ぶりの高い伸びとなった。2013年3月以降、六大都市商業地地価はプラスで推移しているが、株価の上昇を後追いしながら上昇する傾向がみられる。株価上昇による含み資産の増加が信用力を高め、不動産への資金流入を促している。超低金利も加わり、資金コストは低く、節税の観点からも資産配分として不動産は欠かせない。過去の商業地地価と株価を比較すると、株価が下落すると少し遅れて地価も下がることが読み取れる。2007年央に株価はピークアウトしているが、商業地地価は約1年後に前年割れとなっている。

月末、2016年度の『県民経済計算』が発表された。東京都の県民所得は104.4兆円で最大、最小は鳥取県の1.8兆円、一人当たりの県民所得をみても東京都の534.8万円に対して沖縄県は227.3万円と格差は大きいままである。経済的にこれだけの違いがあることだけでも東京の魅力は高まる。渋谷や新宿だけでなく山手線や中央線沿線を取り上げるだけでも楽しいところはいくらでもあり、飽きることがない。これだけ広い大都会を渉猟することは不可能に近い。まだまだ東京への集中は続き、一極化に歯止めは掛からないだろう。

東京を脅かす最大の要因は地震ではないか。大地震が東京を襲うことになれば、東京の地位は陥落する。高度に人工化された大都市はひとたまりもない。何百万人もの被災者で溢れることになる。シリアのような難民生活が他人事ではなくなる。大地震は一極集中のマイナス面を極大化する。

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