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為替、国債利回りの変動要因

7月の半ば以降、レポートを休んでいたが、この1ヵ月半ほどの間に、大きく変化したのは為替相場、国債利回り、金価格などである。主要国の国債利回りは低下しており、市場参加者は、先行き世界経済は減速するとみているようだ。日本の国債利回りは週末値では昨年11月以来のマイナスとなった。FRBは今月の19日、20日FOMCを開催するが、GDP成長率は予測内に収まっているものの、物価指数はFOMCの予測を下回っており、金利を引き上げる理由を見いだせなくなっている。FOMCは9月を含めて年内3回開催されるが、低成長と物価安定が持続するならば、超低金利は維持されることになるだろう。
このように米国の金融政策の姿勢が利上げから現状維持に変わりつつあることが、ドルの魅力を削いでいるのだ。だから、ECBが資産縮小に言及すると、ユーロ高傾向は一層強まり、2014年12月以来の1ユーロ=1.2ドル台へと上昇した。ユーロ高に連れて円は107円台に突入した。
円が「安全な資産」と見なされて円買いが活発になったのではなく、米国の金融政策が従来の見通しよりも大幅に修正されそうだとの見方が広まったから、ユーロ高、円高になったのだ。過去1ヵ月半の米国、イギリス、ドイツの国債利回りの低下幅に大きな相違はない。が、ユーロ高ドル安をはじめポンドも円も対ドルで高くなっている。ということは、米国の金融政策の姿勢が想定していたものとはだいぶ違ったものになりそうだとの合意が形成され、それが為替相場に反映されてきているととらえることができる。
ユーロ高ドル安になれば、ドル建ての原油等の需要は増大し価格は上昇するはずだが、CRB指数の上昇は緩やかである。原油価格にも大きな変化はなく、金価格だけが値上がりしている。商品相場は世界経済の動向に最も早く反応するはずだが、そうした動きは見えない。
米国の賃金の伸びは依然低調であり、8月の米雇用統計でも平均時間当たりの賃金は前年比2.5%、7月の可処分所得も2.7%とそれぞれ低い伸びにとどまっており、これでは消費支出の拡大は望めず、引いては米国経済全体も伸びないことになる。
4-6月期の米GDP(名目)は前年比3.8%、可処分所得は2.8%だが、税引き後の企業利益は8.1%伸びている。分配が企業に偏っており、不公平である。2014年、2015年の可処分所得は5.1%、4.5%それぞれ伸びたが、2016年は2.6%へと大幅に鈍化し、今年も同じ傾向にある。こうした分配の不平等が消費拡大の最大のネックになっていることは言うを俟たない。
日本の賃金の伸びは米国よりさらに低く、『毎月勤労統計』によれば、現金給与総額(名目)は7月、前年比-0.3%と2ヵ月連続のマイナスだ。『家計調査』でも勤労者世帯の可処分所得は7月、前年比2.7%だが、6月までの半年ではゼロであり、これでは消費支出は伸びるはずがない。
2016年度の『法人企業統計』によれば、人件費は前年比1.8%だが、当期純利益は18.9%も伸びている。配当金は9.6%減だが、規模は20兆円と利息に比べれば桁違いである。しかも、昨年度は前年を下回ったが、2012年度比では43.9%も伸びているのだ。2016年度の当期純利益は2012年度比72.5%、配当金を除いた企業の分け前は約3倍に拡大しているのである。一方、2016年度・2012年度比の人件費はたったの2.5%にとどまっており、安倍政権になっても、こうした企業の独り占めがますます強まっているのだ。これでは消費を起点とした経済循環が正常に機能することはない。難しい経済理論を振り回さなくても、分配の極端な歪みをみるだけで、日本経済の直面する解決しなければならない問題はあきらかである。
北朝鮮の独裁政権を非難するけれども、企業には北朝鮮と大同小異の経営者が少なからずいるということだ。株主総会が機能しない状態では、経営トップはなにも恐れるものはない。経営側に対抗しうる労働者の存在が経営には欠かせないのではないか。ワンサイドの経営では、賃金、労働時間、休暇等さまざまな問題が問題として取り上げられることはない。モノやサービスを提供し、カネを儲ければよいのではなく、社会的存在だということを企業は強く意識しなければならないのだ。企業の独裁経営が分配の問題をここまで大きくしたのである。

米国の政治経済はごたごたが続き、トランプ大統領が大統領としての職責を全うできるとはとても考えられない。まだ大統領に就任してから1年も経過していないが、任期途中で弾劾に遭遇することも視野に入れるべきだ。
北朝鮮のミサイル発射や核実験には非難、制裁の嵐が吹いているが、非難と制裁だけでは、事態はなんら変わらないだろう。世界のリーダーシップを自負している米国は、リーダーとしての振る舞いが求められている。それを不良少年と同じレベルで対応し、応酬し合うのではとても世界のリーダーとはいえない。
これまでの世界政治の歴史を顧みても、粘り強い話し合いなくして、事態が改善したことはない。話し合いの断絶は最悪の事態に陥ることなのだ。なんとか、対話に持ち込む方策を考えるのが政治家の務めではないだろうか。脅しや凄みでは、相手は硬化するばかりで、話し合いから遠ざかるばかりだ。トランプ大統領のこれまでの言動はまさに非難の応酬であり、相手を土俵に就かせるようなものではなかった。
安倍首相もトランプ大統領の尻馬に乗り、同一歩調を採り、独自の政治姿勢は微塵も見受けられない。日本には米国の軍事基地がり、核の傘にあることが、日本のアキレス腱になっており、日本は独立性を閉ざされている。日米安保体制を維持するかぎり、日本の政治はそれに束縛され、米国の属国であり続けるのだ。
米国の従属国でありながら、円は「安全な通貨」だから買われるというわけのわからない不思議な円高解釈がまかり通っている。北朝鮮リスクが高いのは国境を接している韓国であり、日本海で隔てられている日本だということは間違いない。円は「安全な資産」ではなく「危険な資産」といえるだろう。だが、最も危険な韓国でさえ、株式(KOSPI)やドル・ウオン相場は底堅く、北朝鮮の行動をそれほど大騒ぎするようなリスクとは受け止めていない。
報道機関は右向け右でいずこも北朝鮮のミサイル発射や核実験の報道にいそしむ。そしてあたりさわりのない論説を繰り返す。戦前の大本営発表と変わるところはない。日本が本当に北朝鮮リスクを深刻にとらえているのであれば、その最大の要因は、日本は米国の核の傘にあり、米軍基地が日本にあるということだ。北朝鮮は日米を一体と見なしているからこそ、脅しをかけているのだ。憲法で戦争放棄を明記しながら、米軍が日本にいることの矛盾を解消することこそ、アジアの安全保障の確保に必要なことなのである。

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