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異常な金融政策という劇薬を断つことは可能か

12日、イエレンFRB議長が米下院公聴会で緩やかな利上げが適切だと述べたこと、さらに物価や売上統計が緩やかな利上げを裏付ける内容だったことから、主要通貨に対してドルは売られた。ドル安となったためにドル建ての原油などの商品相場は上昇し、主要な米株価指数は過去最高値を更新した。米国経済は緩やかな成長を続けており、企業業績も格別良いわけではない。それでも株式はことのほか好調である。米国経済に不適切な超低金利が米株式を適正水準以上に引き上げていることは間違いない。
イエレン議長は緩やかな利上げが適切だというが、米株式の過去最高値更新も適切と考えているのだろうか。トランプ大統領の政策への期待から米株式は上昇力を増したが、政策はまったく実現されていないし、もし実行されたとしても米国経済を逞しくするのではなく、所得・資産格差の矛盾を一層際立て、消費を萎えさせることになる。米株式は超低金利と楽観的見通しに基づいた砂上の楼閣かもしれない。
6月の米消費者物価指数は前月比横ばいと極めて安定している。食品・エネルギーを除く指数も3ヵ月連続の0.1%であり、前年比でも1.7%と今年1月の2.3%から0.6ポイントも下がっており、米物価はあきらかに低下基調にある。物価の伸びが低下するのは、米国の実体経済の体温が、少しずつ低下していることを反映している。一方、株式の体温は上昇しており、加熱気味ではないだろうか。実体経済と金融経済の体温の違いが大きくなってきている。
6月の米小売売上高は前月比-0.2%と2ヵ月連続のマイナスであり、前年比では3.2%に低下した。ウエイトの大きい自動車、ガソリン、飲食のそれぞれの販売が低迷しているからだ。6月の米鉱工業生産指数は前月比0.4%と2月以降5ヵ月連続のプラスだ。生産は拡大しているが、前年比2.0%と伸びは低い。前年比2.0%のうちエネルギー部門の寄与度が約半分であり、非エネルギー部門の足取りは緩慢である。非エネルギー部門で高い伸びをみせていた自動車生産も前年比-1.7%とマイナスに転じてしまった。原油価格がバレル40ドル台を維持しているため、当面、エネルギー部門が鉱工業生産を支えるだろう。
米株式は2009年を底にすでに8年以上も長期上昇を続けている。異常な金融政策と軌を一にしている。NYダウは2009年の底から3倍強に上昇したけれども、その資産効果は消費にまったく表れてこない。株高によって消費を喚起し、経済を立ち直らせるという目論見は外れてしまった。FRBはゼロ金利と資産購入を闇雲に実施したが、結果は株高と消費不振だ。
長い期間続けたゼロ金利と資産購入という薬が全身に行き渡り、米国経済はまさに中毒症状を起こしている。アル中、ニコチン中毒などと同じように、アルコールやたばこから逃れるには大変な苦痛を伴う。それで断つことができればよいが、再び、酒に溺れることもしばしばある。
経済でも同じことがいえるのではないか。ゼロ金利のような状態を長いこと続ければ、経済はそれが当然のことのように受け入れ、ゼロ金利が普通になってしまうのである。資金の借手は、普通、金利が下がれば借り入れを増やし、生産設備や家屋、自動車等を購入するだろう。しかし、金利をゼロまで下げ、ゼロ水準を長期間続けると需要の拡大を図ることが難しくなる。いつまでも高い需要を維持することはできないからだ。
米名目GDPの伸びを10債利回りが大幅に下回っているが、昨年の設備投資は前年比-0.5%、住宅は4.9%にすぎない。超低金利だけでは需要を喚起し、経済を拡大することはできないのだ。問題は米国経済の構造にある。
金利の上昇は、ゼロ金利に慣らされた経済に禁断症状をもたらし、経済を揺さぶるだろう。FRBが心配するのは、中毒症状の米国経済が利上げに耐え得るかどうかだ。だからゆるゆると慎重に事を運んでいる。禁断症状がひどくなれば、利上げを見送り、超低金利を続ける腹積もりなのだろう。
需要の低迷と株高というふたつの問題を抱えているだけに、FRBの対応は難しい。需要を悪化させることなく、株高も維持できるような利上げを行ないたいのだが、はたしてうまくいくだろうか。トランプ大統領の気まぐれな政策もまたFRBを悩ます種になるだろう。

株式バブル崩壊に驚き、日銀は1991年には8%を超えていたコールレートを4年ほどで1%未満まで急速に引き下げた。その後はゼロ金利が支配し、2016年からはマイナス金利が導入された。日本の異常な金融政策の期間は20年を超え、米国の2倍以上である。
日本経済はアル中どころかアヘン中毒といったほうが正確だろう。どっぷりと薬漬けとなっているのだ。日本経済全体が中毒に陥っているので、異常な金融政策がいつのまにか日常の風景となってしまい、なにの違和感も覚えなくなってしまっている。これが中毒の恐ろしさなのだろう。
このようなアヘン中毒に陥れば、日銀のような公家集団ではいかんともしがたい。座して死を待つのみか。あるいは永遠にゼロ金利を続けることで生きのびるしかあるまい。だが、ゼロ金利や資産購入を継続すれば、不動産や株式だけが膨張する事態はますます激化し、バブルは膨れ上がるだろう。取り得る方法は不動産取得税を重くし、株式には取引税を再導入するなどの課税強化で対応すべきだ。

★今週から夏休みです。しばらく休刊にします。

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