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目先の現象に惑わされてはならない

4月の消費者物価指数(101.5、2020年=100)は前年比2.5%と消費税率引き上げによって上昇した2014年11月以来、約7年半ぶりの高い伸びとなった。原油高や穀物高に加え4月までの2カ月で14円84銭の円安ドル高、さらに携帯電話料金安の剥がれが重なった結果である。生鮮食品・エネルギーを除くコア指数も前年比0.8%と2020年7月以来のプラス。ただ、4月の米CPI総合指数の8.3%、コア6.2%、ユーロの7.4%、3.9%に比べれば、日本の上昇は極めて低く、大騒ぎするほどのことはない。今後、指数が大幅に上昇しなければ、1年後には、前年比伸び率は再び1%を下回るだろう。

市場経済であれば、価格は変動するものであり、そうした価格の変化をみながら、生産者や消費者は行動をするのである。価格の変化は避けられず、株価のように激しく変動はしないけれども、生産条件や気まぐれな消費者の行動によって、常に上下動するのだ。価格が上がれば、そうしたものは敬遠され需要は落ち、それにつれて生産は縮小される。もし代替品があれば、需要はそちらに向かうことになる。そして、需要が増加したものについては、在庫が少なくなり、価格は上昇し、生産の拡大が起きる。価格変化に対応せず、従来と同じ消費行動を取るならば、価格上昇は持続することになるだろう。

スーパーに比べて相対的に値段が高いコンビニでの購入を止める、自動車の使用を控える、パンではなく米を食す、あるいは室内の照明を落とす、湯水のようにふんだんに使っているお湯の使用を見直すなど、家庭によりさまざまな物価上昇に対処する方法はあるはずだ。各家庭で使用する高価格商品の些細な見直しでさえ、物価高を抑制するだろう。値段が上がったとはいえ、冷蔵庫の中だけでも依然大量の食品ロスが発生しているのだ。このような物価高の機会に、購入するものを精査し、ロスがでない生活を心がけなければならない。

農業生産なども季節外れの野菜や果物を温室で栽培しているが、原油価格の変動によって生産コストのブレは大きくなる。原油に依存した農業生産の脆さが原油高により露呈している。なにも農業生産だけでなく、さまざまな生活の分野に原油や天然ガスなどが入り込み、それらの価格変動をもろに受ける生活スタイルになっている。エネルギーのほぼ100%を海外に依存していながら、不自由なく使えるのだが、輸入が途絶えることになれば状況は一変するのだ。

しかし、原油の高騰もいつまでも続くわけではないことは、歴史を少し遡れば明らかだ。過去と同じようには動かないかもしれないが、1バレル=100ドル超の状態が固定されるわけではない。高価格状態が続くとしても、なにかをきっかけに暴落することもあり得る。今の原油高は米株式と同じように、投機で相当持ち上げられている。ユーロドル相場とWTIの長期の関係をみるとドル安のときにはWTI高、ドル高ではWTI安の傾向が一般的であったが、昨年の8月以降はドル高が持続しているにもかかわらず、WTI高なのである。ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、原油需給がタイトになっていることが、ドル高・WTI高を可能にしているのかもしれない。

もう一つWTIとの相関性が強いのは米株式であり、WTIは米株式に連動する傾向が強い。米株式が上昇しているときにはWTIも強気相場の局面にあり、株式の下降過程ではWTIも同様に下落する傾向がみられる。NYダウは8週連続安と1932年の大恐慌以来最長を記録し、崩落過程にある。ゼロ金利によって実体経済から掛け離れた水準に高騰していた米株式は、この程度の調整で収まるはずがない。NYダウは2万ドル台前半まで落ち込んだとしても少しも不思議なことではない。今後、米株式が下げ足を速めることになれば、景気への不安が高まり、WTIも急落することになるだろう。その時は、世界中で叫ばれていた物価高は霧散してしまう。

世界的に物価が問題にならなくなれば、FRBの利上げ期待はすぼみ、円高ドル安へと向かうことになるはずだ。金融政策が物価変動に翻弄され、金利の焦点が定まらないことは実体経済にとって好ましいことではない。為替相場や株式、債券などの金融経済の振幅幅が大きくなり、そうした変動が実体経済に悪影響を及ぼすからだ。

日本はこのような物価に一喜一憂している暇などない。5月の人口推計(概算値)によれば、日本の総人口は1億2505万人、前年比-0.58%、73万人減少した。減少率は前年同月のー0.42%よりも0.16ポイントの拡大である。日本の総人口は長期的に減少しているが、新型コロナ以降、減少ペースは加速している。

人口減はGDPにも影響していることは間違いない。今年1-3月期のGDP統計によれば、名目GDPは前期比0.1%と2四半期連続のプラスだが、前年比では2四半期連続のマイナスである。過去1年、ほとんど停滞状態にあり、新型コロナ以前の水準を10兆円超下回っている。GDPデフレーターは前年比-0.4%と5四半期連続のマイナスとなり、実質GDPは0.2%だが、プラスを維持できている。

2021年度の名目GDPは前年比1.1%増にとどまり、2019年度の水準を2.8%下回っている。経済が回復している、とはとても言えない停滞を引き起こしているのは、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)の不振である。家計最終消費支出は2.8%伸びたけれども、2019年度と2020年度の2年連続の大幅減後の緩やかな戻しであり、昨年度を除けば、2012年度以来の低い水準なのである。家計最終消費支出の対名目GDP比は43.5%と2013年度よりも3.7ポイントも低下している。急激な人口減に見舞われ、家計最終消費支出の回復は望めないのかもしれない。人口減に加えて少子高齢化が衣食住に関係するあらゆる需要にマイナスの影響を及ぼしているのだろう。

人口減がさらに拡大していくことになれば、最大の需要部門である家計最終消費支出は縮小経路を辿らざるを得ない。2021年度を2011年度と比較すると名目GDPは41.6兆円増加(年率0.66%)しているが、家計最終消費支出は4.6兆円にとどまり、公的部門が22.4兆円増と最大で次が民間企業設備の12.6兆円である。同じように、実質ではGDPは22.4兆円増加(年率0.35%)したが、家計最終消費支出は6.9兆円減少しており、プラスは公的部門(17兆円)と民間企業設備(8.7兆円)だが、公的部門が圧倒している。公的部門の増加分を2021年度のGDPから除けば、10年間のGDPの伸びは1.0%となる。公的部門が拡大し、超過貯蓄を吸収しなければ、日本経済は維持できなくなっているのだ。すでに名目GDPに占める公的部門の比率は27.0%と10年前に比べれば2.2ポイントの拡大である。2031年度には30%近くに上昇するかもしれない。経済への国の関与はますます強くなっていく。まさに混合経済と言われる仕組みが出来上がりつつある。これが「新しい資本主義」なのだろうか。