Share |

硬直的金融政策の弊害

米国の国債利回りが上昇している。1カ月で利回りは37ベイシスポイント(bp)上昇し、2020年2月以来約1年ぶりの高い水準である。米長短金利差は1.25%と1ヵ月前よりも39bp開き、イールドカーブの傾きはきつくなった。日本やドイツと米国の国債利回り格差は拡大し、ドルは強含んでいる。米国債利回りの上昇は主要国に波及しており、債券は軒並み値下がりしている状況にある。商品相場は総じてまだ強いが、金だけは過去1カ月で6.6%下落した。

米債利回りの上昇により、米株式は動揺している。S&P500の配当利回りを国債利回りが25日には上回ったからである。こうした国債利回りが株式配当利回りよりも高い状態が続くならば、株式の魅力は薄れ、最高値を更新する力はなくなるはずだ。ナスダック総合の株価収益率は40倍を超えてバブル化していることから、国債利回りと配当利回りの逆転は米株式バブル破裂のきっかけになるかもしれない。

長期の国債利回りと株式配当利回りの関係をみると1958年までは配当利回りが国債利回りを上回っていたが、その後、2012年までの54年間、両者は逆転していた。2012年以降は国債利回りが上回ることもあれば、逆のケースも見られる。株式はそのような関係に無頓着で上昇傾向を強めていくばかりだった。両者の関係よりも、国債利回りが過去最低を更新していくことが株式にとっては一番重要な要素だったのだ。しかし、国債利回りは昨年7月の0.5%台を底に上昇傾向を強めており、今後、再度、最低を更新することは非現実的なことから、国債利回りが株式を引き上げる時代は過ぎ去ったようである。

米国債利回りの上昇は至極当然のことで、実体経済の回復を睨んだ動きと言える。新型コロナの出現によって、米名目GDPは昨年第1、2四半期と2期連続の前期比マイナスとなったが、第3と第4四半期は2期連続のプラスとなり、不況から脱出しつつある。昨年第4四半期は前期比1.5%伸びたが、前年比では1.2%減と3期連続の前年割れである。だが、今年第1四半期は前年比プラスが見込まれ、第2四半期は前年の大幅な落ち込みのため、2桁の伸びが期待できる。

今年第1四半期の米名目GDPの水準は、コロナ禍以前の2019年第4四半期並みに回復し、第2四半期はさらに拡大する見通しである。1月の米新築住宅販売は前年比19.3%、1月の耐久財受注も8.3%伸び、昨年12月のS&Pケース・シラー住宅価格指数は10.1%と2桁増となるなど、米国経済は力強さを増している。

昨年12月末に決まった9,000億ドルの追加経済対策によって、国民一人当たり600ドルの給付金が支給されており、1月の米可処分所得は前月比11.4%も増加した。その結果、個人消費支出は前月比2.4%と3カ月ぶりにプラスに転じた。ただ、貯蓄率は1月、20.5%と前月比7.1ポイント上昇しており、給付金を貯蓄に回す慎重な消費者の姿勢も依然強いのである。

さらに、近々、バイデン大統領の打ち出した1.9兆ドルの追加経済対策が議会で承認されれば、消費者心理は改善され、米国経済の足取りは一層確かなものになるだろう。追加経済対策の目玉は一人1,400ドルの給付金だ。経済がすでに回復基調にあるところへさらに1.9兆ドルもの大規模の経済対策が必要かという疑問も湧く。1.9兆ドルは昨年第4四半期の名目GDPの8.8%に相当する。1.9兆ドルすべてがGDPに寄与するわけではないが、それでも8.8%のインパクトは大きい。

昨年12月のFOMCで示された経済予測によれば、実質GDPは2020年の-2.5%~-2.2%から2021年には3.7%~5.0%に拡大するそうだ。2020年の景気の谷が深いだけに、今年の伸びは高くなり、5%近くの高い成長になる見通しだ。が、パウエルFRB議長は、景気は「まばらで完全とは程遠い」(2月23日)と述べ、ゼロ金利や国債購入を続けるつもり。いかにも実体経済とは相容れないゼロ金利なのである。ただ、ゼロ金利を長期間続けるといっても、国債相場を釘付けにはできず、実体経済が速いペースで回復しそうな傾向を示せば、国債利回りは上昇していくだろう。1.9兆ドルの追加経済対策により国債利回りの上昇は加速するかもしれない。

FOMCの実質GDP予測は今年第4四半期の前年比伸び率であり、名目では6%超伸びるだろう。普通に考えれば、企業利益はGDP以上に拡大し、長期の資金需要も旺盛となり、利益の伸び率に到達するまで国債利回りは上昇するはずである。経済が拡大するにつれて、新たな産業や新技術も生まれ、新規参入も増大し、資金手当ては窮屈になり、短期金利は長期以上に上がることになる。

昨年4月には14.7%に急騰した米失業率は今年1月には6.3%へと大幅に改善している。FOMCの予測では今年は4.7%~5.4%であり、年末には予測範囲に収まるだろう。一方、PCE物価指数の目標は1.7%~1.9%だが、今年1月は1.5%と目標以下である。2021年1月までの過去10年間の年率上昇率は1.52%、エネルギー・食品を除いたコアは1.66%だ。2001年からの20年間の年率は1.76%、コアは1.70%とやや高くなるが、FRBの目標である2%には届いていないのだ。こうした事実に照らし合わせると、失業率と物価のトレードオフの関係はもはや過去の遺物なのである。これからも余程のことがない限り、PCE物価指数はFRBの目標とする2%に上昇することはない。

そうした実現不可能な目標にいつまでも固執することは金融政策を歪めることになる。物価が上がらないから、いつまでもゼロ金利を続けることになり、延いては実体経済と金融経済の成長格差を引き起こし、バブルを招いてしまうのである。

株式や国債などはなにも作り出すことはなく、本来の役目は実体経済が十分に機能するための道具でしかない。それが、1990年代から異常に肥大化し、本業である実体経済を凌駕する力をつけてしまった。金融経済は実体経済を支えるのではなく、実体経済を危うくする存在になったのだ。

こうした歪な姿になったのは、金利の調整機能が働かないようにFRBが間違った政策目標を掲げ、これに依怙地になっているからだ。金利が自由に動くことによって、実体経済と金融経済がバランスよく歩んでいくことができるのだが、意図的に、ゼロ金利を長期間続けることによって、金融経済が実体経済を上回る速度で成長し、本末転倒の経済に堕落してしまった。

関連資料サイズ
210301).pdf558.92 KB