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禍根を残すFRBのゼロ金利政策

株価の上昇は新型コロナウイルスの収束と世界経済の回復を暗示している。が、そのように事態が好転するだろうか。株式はあまりにも楽観的な動きを見せている。新型コロナウイルスの感染がこのまま落ち着くとは早計である。2008年の金融恐慌を上回る実体経済の落ち込みがそうたやすく元の状態に戻ることはない。だれも新型コロナウイルスの先行きについては分からないが、株式だけはこれ以上感染が拡大せず、収束すると決めつけているようだ。

実体経済の激しい収縮とは対照的に金融経済は熱を帯びている。NYダウの15日終値は3月23日の底値から27.4%、ナスダック総合は同31.4%もそれぞれ上昇しており、特に、ナスダック総合は過去最高値(2月19日)を8.2%下回るところまで戻している。

米主要株価指数は3月23日を底値に回復しているが、その日にはFRBが緊急のFOMCを開催し、国債や住宅ローン担保証券(MBS)を無制限に購入すると表明した。約1週間前の3月15日にはFRBは緊急利下げを実施し、政策金利を一気にゼロまで引き下げたばかりであった。3月3日にも50ベイシスポイント(bp)の緊急利下げを行なっていることから3月は計150bpも引き下げたことになる。FRBの一連の超金融緩和措置は株式の動揺を鎮めることであった。

主要国の株式はいずれも3月23日前後に底打ちし、上昇しつつある。それほどFRBの超金融緩和策は世界の金融経済には効いたのである。外出がままならぬ状態では、金融政策で実体経済を引き上げることはできないが、通信による非接触取引の金融取引には制約はなく、いくらでもできる。資金コストが極端に低下し、お金を借りやすくなり、マネーゲームの世界はブームの状況ではないか。FRBの超金融緩和の維持というお墨付きを得ているのだから、投機家はここぞとばかりに勝負にでたのだろう。

3月27日には2.2兆ドルの新型コロナ関連経済対策法案が成立し、2,900億ドルの家計への直接給付や2,500億ドルの失業保険の給付拡充が決まった。だが、外出規制など徐々に解除されつつあるものの、先行きは不透明であり、消費支出の行方を見通すことはできない。

3月の米個人消費支出は前月比7.5%減と悪化しており、4月以降はさらに深刻な状態になるだろう。賃金等は前月比3.1%、可処分所得は2.0%それぞれ減少しているが、消費支出はそれらを上回っており、貯蓄は61.2%も増加し、貯蓄率は13.1%に上昇している。

このようにすでに3月に消費者心理は冷えており、家計にお金を供給しても貯蓄に回す割合が高くなり、家計へお金を給付しても消費が拡大するかどうか疑問である。限界消費性向は低下し続け、さらに設備投資の低迷によって、米国経済は急激な下降局面にある。

4月の米非農業部門雇用者数は前月比2,053万人減、失業率は14.7%と異常な事態となった。時間当たりの平均賃金は前年比7.9%も伸びた。4月の平均賃金は$30.01だが、全産業で最低($18.00)のレジャー・接客業の765万人の減少が賃金の伸びを高くした。賃金が2番目に低い小売業($21.20)も210万人の雇用が失われた。

新規失業保険申請件数は5月9日までの週でも298万件、3月21週以降の累計では3,645万件に膨れている。これだけ失職者が急増すると家計への給付や失業保険の拡充程度では焼け石に水である。今年1-3月期の米個人消費支出は14.5兆ドル、家計給付を全額消費しても個人消費支出の2%に過ぎない。すでに賃金等が目減りしていることを勘案すると所得の減少を補う程度ではないだろうか。

4月の米小売売上高は前月比16.4%減と統計開始以来、前年比では21.2%も急減した。自動車関連の売上は前年比32.9%減、前年比でプラスは食品と通信販売で12.0%、21.6%前年を上回っている。

売上の減少に伴い生産も大幅な縮小を余儀なくされている。4月の米鉱工業生産指数(2012=100)は92.6と前月比11.2%、前年比15.0%それぞれ減少し、2010年2月以来約10年ぶりの水準に落ち込んだ。特に、4月の自動車・同部品の生産指数は2月の130.5から4月には25.9へと急低下し、1972年1月の統計開始以来の記録的な生産の落ち込みである。

消費の不振で米消費者物価指数(CPI)も2ヵ月連続で低下し、4月は前年比0.3%まで下がった。4月の生産者物価指数は前年比-1.2%とマイナスに転じており、CPIも早晩マイナスになり、米国経済はデフレに陥るだろう。ユーロ圏のインフレも4月、前年比0.4%、3月の日本のCPIも前年比0.4%と多くの主要地域でデフレが近づいている。

無制限の債券購入政策によってFRBの総資産は5月13日現在、6.93兆ドル、2月24日から2.78兆ドル増加した。米商業銀行の総資産も5月6日現在、20.32兆ドルと2月から2.35兆ドル増である。増加額で最大は現金の1.39兆ドル、次が商工業貸出の0.74兆ドルである。興味深いのは投資銀行などへ貸付が6,614億ドル、2月から751億ドルも増加していることだ。日本円では8兆円に当たるが、このうちのいくばくかは株式に流れた可能性が大きい。

FRBの最大の使命は物価安定と雇用の拡大を図ることだが、人の移動が自由にできないときに、金利をゼロに引き下げたところで、家計が借金などするはずがない。消費が冷え込み、縮小しているときに、企業が借入をしてまで設備投資をすることもないだろう。つまり、金利をゼロにしても実体経済の資金需要は出てこないのだ。喜ぶのは株式、債券、為替、商品などの相場を相手にしている金融部門だけである。

新型コロナウイルスがバブル化していた株式を弾けさせ、実体経済に相応しい規模に縮小させていたが、FRBの節度なきゼロ金利がそれを阻んだ。だが、新型コロナウイルスは根深く、再び猛威を振るうかもしれない。その時は、株式の谷はより深くなり、ウイルスに金融恐慌が加わり、世界経済は混沌とした状態に陥ることになるだろう。

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