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第2のメルトダウンの引き金を引いた日銀

3週間ほど東京を離れている間に、日本の株価と円ドル相場は様変わりしていた。こうなったのは、日銀が予想を上回る金融政策の変更をしたからである。市場参加者の大半の思い以上の内容となったため、株式買いと同時に円売りドル買いが殺到した。言うまでもなく、株式相場を主導したのは外人であり、4月第2週の買い越し額は1.5兆円を超え、過去にない勢いとなった。ただ、第3週は小幅だが279億円売り越した。このレベルの株価が4月末まで持続すれば、日経平均株価は前年比45%ほどの上昇率となり、1980年代以降過去30年を振返ってもこれを超えるのは4回しかない。これほど稀な上昇率を示すことは相当異常な株高現象であり、警戒しなければならないということである。

為替についても、4月4日のNY市場では前日比3円超の円安ドル高となり、2営業日後の8日には99円台に突入、1ドル=100円も時間の問題となった。ただ、日本の消費者物価上昇率(食料・エネルギー除く)は3月、前年比-0.8%と09年1月以降4年3ヵ月連続のマイナスとなり、円の価値は上昇している。

円ドル相場の大きな流れは、この物価の動きに連動しており、物価が上がれば円安になり、下落すれば円高になるという関係が読み取れる。今は物価が下落しているので円高にならなければならないはずだ。それを日銀が物価目標を定め、物価上昇を推進しているため円安に振れている。

日銀はお金を増やせば物価が上がると考えている。お金を大胆に増やすので2013年度の消費者物価(生鮮食品を除く)は前年比0.7%上昇するという。3月は-0.5%と2ヵ月連続でマイナス幅は拡大しているが、これから大いに上がると想定しているのだ。2014年度、2015年度は消費税率引き上げの影響を除けば1.4%、1.9%になるという。このように首尾よく上昇していくのだろうか。最初から2%の物価上昇率目標があるのでそれに合わせて策定したものなのだろう。

 日銀が物価目標を定め、それに向かって誘導することなど所詮無理なことだ。そんなに簡単に物価を制御できるなら、これまでに経験した激しいインフレやデフレなどなにだったのだろうか。物価はおいそれ扱うことができないので、そのような激烈な物価変動が起こったのである。安倍首相や日銀幹部はまったくそのような経験を省みることなく、物価を手玉に取ることができると考える能天気な人たちだ。

 消費者物価上昇率が前年比マイナスだといっても小幅なマイナスであり、この状態が日本経済には適しているのだ。1995年以降17年以上、物価上昇率がゼロ近辺で推移していることは、経済構造上そのようにならざるをえないのだと思う。一番の構造上の問題は人口減と人口構成の変化である。第2は正社員と非正社員による所得格差を挙げることができる。大量生産大量販売によるものづくりから抜け出せず、ストックとして質が向上しない薄っぺらの生活様式なども影響しているのかもしれない。

 日銀はマネタリーベース(MB、銀行券プラス当座預金)を2012年末の138兆円から2013年末には200兆円、2014年末は270兆円に増やすという。銀行券は2012年末の87兆円を88兆円、90兆円へ、当座預金は2012年末の47兆円から107兆円、175兆円へと大幅に増やす。

 当座預金の急増によって、MBの拡大を図り、それによって物価上昇を引き起こすという。民間金融機関の資産項目の日銀当座預金を増やして、物価に影響を与えるというのはいかにも短絡的な考えである。マネーが増加すれば物価が上昇する「貨幣数量説」がそのまま当てはまると想定しているからだ。古典的な説をいまだに信奉しているとは驚きである。

 MBと消費者物価指数を比べるだけで、両者の関係が相関していないことが明らかになる。2001から2003年にかけてMBを6割増やしたが、消費者物価指数の低下傾向を止めることはできなかった。さらにこの2年ほどを振返っても、日銀の積極的なMB拡大は物価にはまったく無力であったことがわかる。

 物価に影響力のないものをいくら増やしたところで、経済を歪めるだけでなんら益はない。MBの急増期待が発露しているのが株式や為替といった金融の分野だ。金融は実体経済を調整するには欠かせない役割を果すが、実体から離れてそれ独自に動き出すとさまざまな問題を引き起こす。往々にして金融は自己増殖することになり、暴れだす。すると手がつけられなくなり、行き着くところまで舞い上がってしまい、挙げ句の果てパニックに陥る、金融はそうした命運をたどるのである。

 由々しいのは日銀が金融増殖を作り出し、最終的には、実体経済まで道連れにし、経済危機に陥れようとしていることである。一時的な果実を得るために、将来の長きにわたる経済を犠牲にする。目先の利益を追い求めることのはかなさが、日銀にはわからないのだろう。安倍政権の傀儡ではいたしかたないが、国民はまたも人為的な愚策によって、酷い境遇での耐乏生活を余儀なくされるだろう。

円ドル相場は過去半年で約20円の円安ドル高となったが、輸出は依然不振である。3月の輸出は数量では前年比9.8%減と昨年6月以降10ヵ月連続の前年割れだ。米国経済が依然本格的な回復にはほど遠い状態にあり、欧州は底を這い続けているからだ。輸入も5.5%減と3ヵ月連続のマイナスとなり、日本経済の需要が弱いことを示している。

1-3月期の米GDPは前期比年率2.5%と前期(0.4%)を大幅に上回った。個人消費支出が3.2%と2010年10-12月期以来の高い伸びとなったことが成長回復の要因だ。ただ、在庫増が1%も成長率を引き上げており、これを考慮すれば伸びは1.5%にとどまる。名目は3.7%伸びたが、2012年の4%を下回った。

4月24日時点のFRB総資産は3.318兆ドルと過去最高を更新。3月の雇用統計が予想を下回り、国債が買われていたが、弱いGDP統計により週末、米10年債利回りは1.67%まで低下した。米債利回りは過去1年ほど2%以下の低水準で推移している。が、大恐慌のときを下回るこれほどの低利回りでも経済の回復力を強めることができない。

ましてや、日銀の総資産は4月20日時点、174.7兆円と経済規模から判断すれば、FRBよりも日銀のウエイトがはるかに高く、すでに利回り低下の経済効果は出尽くしている。2014年末の日銀総資産は290兆円と今よりも110兆円超拡大する。これはGDPの約6割に当たる。まさに金融が制御できなくなる規模となり、金融収縮になれば、これまでにない金融パニックが起こるであろう。原発に続く第2のメルトダウンである。 

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