Share |

米国の物価高を探る

NYダウは6営業日連続安となり、ピーク比6.9%安、S&P500は4営業日連続だが、ピークからは8.3%安で、昨年10月13日以来の安値である。さらに値下がりしているのはナスダックで、ピーク比14.3%安、昨年6月3日以来約7カ月ぶりの低い水準である。米株安によって、日本株も売られ、TOPIXは昨年8月23日以来の安値だ。そもそも米株はうなぎ登りの様相を呈し、実体経済からかけ離れたバブル圏に舞い上がっていたわけだから、いつ激しい値崩れに見舞われてもおかしくない。FRBの株式への過度な配慮が米株をバブルへと導いたのである。そこへ予想外の物価高が舞い込み、FRBをあたふたさせている。株式か物価かのいずれを目標にするかが問われている。本来の目標は物価だが、物価を抑えるために金利を引き上げれば、株式にダメージを与え、株価を維持しようと、利上げを緩やかにすれば、物価が上昇することになり、利上げの時期やその幅を決めることは容易ではない。今は、まさに、FRBの腕の見せ所であり、正念場を迎えたといえる。まずは1月25日~26日開催のFOMCでお手並みを拝見。

昨年12月の米消費者物価指数(CPI)は前年比7.0%、1982年6月(7.1%)以来約40年ぶりのインフレだ。食品・エネルギーを除くコアは5.5%、1991年2月以来31年ぶりの上昇率である。ただ、コアへの寄与が大きいのは中古車と新車であり、これだけでコアを1.7ポイント引き上げている。この点を考慮すると、コアの上昇率は3.8%に低下する。新車の生産が回復し、中古車も市場に出回るようになれば、コアは落ち着くだろう。

WTIは2007年から2014年に今よりももっと高騰したけれども、コアは高くても2%台であった。それが今は5%超に上昇してきている。原因は原油高だけではなく、突発的に発生した労働需給のミスマッチや生産、物流の中断や途切れによるものだろう。したがって、労働需給がうまく出会い、一時的な労働需給の逼迫が収まり、生産や物流が回復するならば、CPIも落ち着くはずだ。

自動車生産にも労働者の手当ができない、半導体等部品の不足が改善しないことなどが重なり、生産の回復が遅れている。昨年第4四半期の自動車生産は前年比-10.8%と依然マイナス幅は大きい。昨年12月の製造業生産指数(2017年=100)は100.2だが、自動車は92.5にとどまり、製造業のなかでは最も低く、低迷を裏付けている。

さらに重要なことは、労働需給の逼迫にともない、賃金が上昇し、コストプッシュによって物価が引き上げられていることだ。新型コロナによって、これまでにない急激な解雇と雇用に直面した。グラフでみれば、垂直的に下がり急上昇していることがわかる。普通、谷からの雇用の回復は緩やかだが、今回は急回復しており、必要とする人材を容易に見つけることができず、これが賃金を引き上げているのだ。

2020年4月の非農業部門雇用者は前年比13.5%減と過去最大のマイナス幅を記録した。それまで1%台の伸びで推移していたのが、2桁のマイナスに沈んだのだ。リーマンショック時のマイナス幅は最大5%であり、マイナス期間は27カ月に及んだが、新型コロナ不況では、マイナスに転じた月が最大の減少率となり、マイナス期間は12カ月で終了した。

低賃金部門が高賃金部門の解雇を上回ったため、2020年4月の平均賃金は前年比8.2%に跳ね上がった。2021年4月は反動で0.3%に鈍化したが、その後、再び勢いを増し、昨年12月は4.7%伸びている。俸給・賃金も2020年第3四半期の前年比2.7%から昨年第3四半期には4.6%に上昇しており、こうした賃金高が物価を引き上げているようだ。例えば、専門的事業サービス部門の雇用は2020年4月、前年比10.0%減だが、レジャー及び接客業は47.3%も減少した。昨年12月には前者の雇用は落ち込む前の水準に戻っているが、後者は新型コロナ前のピークを7.2%下回っており、こうした部門間の雇用の回復力の違いが賃金高となって現れている。

物価に上昇圧力を掛けている最大の要因は旺盛な需要である。昨年の小売売上高は前年比19.3%増の7兆4173億ドルだ。自動車販売の23.6%を始め、家具店26.4%、家電店25.2%、衣類店48.4%など、新型コロナ禍でありながら、これほどの購買力を発揮するとは驚きである。逆に、新型コロナ禍だからこそモノに向かったのだろうか。

これだけの購買力を生み出しているのは、言うまでもなく賃金・給与の雇用報酬が高い伸びを示しているからだ。昨年11月の報酬は前年比8.2%と1桁増になったが、9月までの6カ月間は2桁増であった。給付金などを含む個人所得も昨年11月、前年比7.4%も伸びており、個人の消費意欲を強めている。

これほどの個人所得の拡大は住宅取得にも向かい、2021年の新設住宅着工件数は前年比15.6%、中古住宅販売は8.5%増加した。在庫の不足から中古住宅の平均価格は16.9%もの上昇である。

消費バブルといってもいいような旺盛な米国需要はモノの輸入にも表れており、昨年11月は前年比19.7%伸びている。昨年1月から11月までの累計では前年比21.7%増の2兆5976億ドルのモノを輸入し、世界経済を支えているのだ。因みに、日本の2021年の輸入額は84兆5652億円であり、米国の輸入額は日本の3.5倍(1ドル=114円)に当たる。

『商業動態統計』によれば、日本の2020年の小売販売額は前年比3.2%減の146兆円だった。昨年11月は前年比1.9%と2カ月連続のプラスだが、米国とは比べ物にならないほど低調。ほとんど横ばい状態にある賃金ではいたしかたあるまい。買いたい気持ちはあるのだが、懐具合をみると、購入を躊躇させる。1~2%の賃上げでは購入に踏み切るまでの気持ちにさせないのではないか。7~8%の伸びは期待できないが、5%前後の賃上げでなければ個人消費は動意付かない。意外なほど増えて始めて消費に踏み出すのであって、低い賃上げでは何の効果も期待できないのではないか。

日本のCPIのコアは昨年12月、前年比-0.7%と昨年4月以降9カ月連続のマイナスだが、この傾向は持続するだろう。賃金が伸びず、需要が弱く、しかも値段に拘る消費者の姿勢が強いからだ。スーパーや小売店などの競争も激しく、値上げは成るべく避けたいのだ。

米国がインフレになる一方、日本はデフレということから日本-米国のCPI(コア、前年比)格差はこれまでにないほど開いてきた。昨年4月は-3.9ポイントだったが、12月には-6.2ポイントに拡大した。振り返ってみると、2013年から2015年にかけての円安ドル高はCPIの格差がプラスまで進んだことが影響している。昨年から急速に進行しているCPI格差は金利差の格差よりもはるかに大きく、CPI格差が円ドル相場を主導していくと考えられる。これに米株が一段安となれば、円高ドル安は急速に進行するだろう。2008年のリーマンショックのような円高ドル安に襲われることになるかもしれない。