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米国債価格の下落とドル高

3月の米雇用統計が引き続き力強い成長を裏付けていることなどから、FRBのブレイナード理事は継続的な利上げやバランスシートの縮小を示唆した。公表された前回FOMC議事要旨でも50ベイシスポイント(bp)の利上げ意見もみられるなど、金融政策は小幅利上げから大幅利上げへと修正されつつある。これまでも当レポートで指摘してきたことだが、FRBの金融政策はあまりにも実体経済から掛け離れており、現在の強い米国経済を正常な水準に押し下げることはできない。やっとここにきて、FRBも緩やかな金融引き締めでは米国経済の勢いを減速させ、物価を落ち着かせることはできないとの考えに変えざるを得なくなった。

3月第3週開催のFOMCの翌週、パウエル議長は金融引き締めの強化を表明、さらに先週のブレイナード理事の発言があり、米10年債利回りは先週末2.7%、週間32bp上昇し、2019年2月第4週以来約3年ぶりの高利回りを付けた。NYダウは直近2週、小幅だが連続安となり、金融引き締め観測にそれほど反応せず、先週末のNYダウはピークから5.6%押しているに過ぎない。

FRBが最大の関心を払っているのは米株式なのだ。米株式の暴落を回避し、軟着陸させることが最重要課題だと推察する。物価も大事だが、それよりも株式を落ち着かせることのほうがはるかに重要で難しい。これまでの長期間ゼロ金利で株式は舞い上がっていたが、これから利上げの階段を上っていくことになれば、呼吸は苦しくなっていくはずだ。しかも0.25%の最小利上げではなく、その倍の50bp負荷が掛かることになれば、息絶え絶えになることも予想される。

FRBは大幅利上げの衝撃を和らげる地ならしに余念がないが、実際に50bpの利上げを2回ほど実施すれば、今年末のFFレートは3%近い水準になる。FFレートが3%程度に引き上げられれば、10年債の利回りは4%を超えるだろう。すでに、先週末の10年債利回りは昨年末から119bpも上昇しており、企業の当期純利益を同じと仮定すると先週末の株式現在価値は昨年末から44%も減価することになる。超低利回りであれば僅かな上昇でも株式価値に及ぼす影響は極めて大きいのだ。10年債利回りが今の2.7%から4.0%に上昇すれば、さらに3割を超える株式減価となる。長期の利回りと当期純利益の予測に基づき、株式価値は決まることから、実際の株式価値は示したような減価にはならないけれども、国債利回りの上昇は株式にマイナスに作用することは疑いの余地はない。

米国債利回りがこれからも上昇し、先行き国債の値段は下がると予測すれば、今、国債を購入することは控え、米国では現金(ドル)など流動資産を選ぶはずだ。一方、日本はこれからもゼロ金利を続け、国債利回りに大きな変化はないだろう。このような見方が一般的であれば、日本では国債でも現金でもいずれで持ってもかまわないということになる。流動性の問題を気に掛けることはないのである。

国債価格の下落している米国では現金のドル需要が増加しているはずだ。これは米国だけのことではなく、世界的にドルを仕込んでおきたいと考えている人が増えていることでもある。今、保有している資産の全部か一部を処分して、ドルを入手する動きが顕著になってきている。米国債利回りがピークに達した、国債価格が底に近づいたと思われるところで、持っているドルで米国債を購入したいのである。

米10年債利回りは2012年後半まで長期的に低下し、ドルから米債へと流動性を手放していた。その後、利回りは3%から1.5%の範囲で変動していたが、新型コロナで1%を下回り、2020年央から上昇に転じ、流動性確保に動いている。

こうした米国債価格の下落がドル需要を世界的な規模で発生させているようだ。だから、先週末のドルは対円、対ユーロで昨年末比8.0%、4.3%それぞれ上昇している。特に、対円での上昇幅が大きく、先週末124円32銭と2015年6月以来約7年ぶりの円安ドル高となった。ユーロやポンド以上に円安が進行するのは、日本がゼロ金利を続け、国債価格の大幅な低下が見込めず、流動性を求める要求が低いからだ。加えて、原油等の資源高が貿易収支を逆調にし、経常収支の黒字縮小による円買いドル売りの減少が、円安ドル高の進行に加担したのではないか。

だが、上述したような円安ドル高要因がみられる半面、円高ドル安要因も散見される。一般的に、物価上昇率が高い国の通貨価値は減価し、物価が安定している国の通貨は強いと言われている。2月の米CPIは前年比7.9%上昇しているが、日本は0.9%に過ぎない。米国の上昇率が日本を7ポイントも上回っているのだ。このような極端な格差はこれまでなかった。長期的に米国が日本の物価上昇率を上回っていたが、それでも開きは4ポイントを超えることはなかった。物価上昇率の格差が拡大する過程では、円高ドル安に進む傾向がみられ、縮小する過程では円安ドル高に振れやすい。このような物価上昇率の違いから判断すれば、現在進行中の急激な円安ドル高がこの先さらに進むことを阻む向かい風の役割を果たし、130円台乗せを阻止することになるかもしれない。

また、2021年の米貿易収支は8,613億ドルの赤字となり、前年よりも27.3%も赤字額は拡大した。今年2月までの2カ月の赤字額は1,979億ドル、このまま推移すれば今年の米赤字額は1兆ドルを上回ることは間違いない。対米輸出で受け取ったドルは自国通貨に変えるためにドルを売ることになり、ドル安要因となる。

報道でしばしば耳にするのは、米国の金利が日本よりも高いからドルが買われ円が売られ、円安ドル高になっているのだという解説である。1990年以降の30年超の期間をみても10年債利回りは米国が日本よりも高かった。ただ単に、米国の利回りが高いだけでは円安ドル高にはならないのだ。米債利回りが上昇するだろうという期待が、流動性の保有を促すのである。米債利回りの上昇を期待できなくなれば、流動性を手放し、国債を購入するだろう。その時点で国債購入のためのドル保有意欲は薄れ、ドルは弱含みの展開になる。

最近の急激な米債利回りの上昇は先行きの政策金利の引き上げをかなり織り込んだはずだ。だが、まだすべてを織り込んだわけではなく、米債利回りの上昇期待は依然根強く、織り込みつつある為替相場もしばらくドル高で推移するだろう。

ドルを揺さぶる最大の要因は米株式の動揺だ。米株式が崩れれば、ドルは急落するだろう。そして、米国経済は株式崩壊とともに不況へと真っ逆さに落ちることになる。こうした事態を避けるために、FRBは早め早めに株式や国債の市場関係者にシグナルを送っているのだ。FRBはさまざまな場面で前もって金融政策の手の内を明らかにし、FOMCは自明な政策を追認する儀式にすぎないのである。

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