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米国経済、利上げに耐え得るか

トランプ大統領議会演説の当日、2月28日、NYダウは下落し、最高値更新は12営業日連続で止まった。が、議会演説を受けて、3月1日には300ドル超も上昇した。議会演説は具体策のない、取り立てて注目するような内容ではなかったにもかかわらずだ。海のものとも山のものともつかないトランプ大統領の政策を株式市場は好感したのである。大幅上昇によって米株式バブルはさらに膨らんだといえる。
昨年10-12月期の米GDP改定値(成長率は速報値と同じ)によれば、実質GDPは前期比0.5%伸びたが、その半分は在庫による。在庫を除けば0.25%に過ぎないのである。2016年の実質GDPは前年比1.6%と2015年よりも1ポイントも低下し、2011年以来5年ぶりの低成長だ。トランプ政権の政策によって、今年の成長率の大幅増を株式市場関係者は期待しているのだろうか。トランプ大統領の経済政策がいつ実施されるのかも、わからないなかでの株高は、投機的要素が強くあらわれている相場だといえる。しかも、トランプが進めようとしている政策は富者、企業向けであり、実行されれば所得・資産格差は拡大するだろう。個人消費支出の拡大を図るのではなく、個人消費の一層の低迷を目指しているように思う。
実質GDPの前年比伸び率はFRBの2017年予測値に達しているが、成長の中身をみると寒々しい。好ましい成長軌道には乗っていないが、物価指数は上昇してきており、3月3日、イエレンFRB議長は3月利上げに言及した。1月の米個人消費支出(PCE)は前月比0.2%の伸びにとどまったが、PCE物価指数は前月比0.4%、前年比では1.9%に上昇した。食品・エネルギーを除くコアも前月比0.3%、前年比1.7%とFRBの予測内に入ってきたからだ。
1人当たり実質可処分所得は1月、前年比1.3%へと低下してきており、米個人消費支出の先行きは期待できない。個人消費支出が思わしくないということは、米国経済の成長は力強さに欠けるということである。トランプ大統領は実質4%成長を唱えているが、2001年以降見かけない高い成長である。まったく具体策がみえてこない状況で、過去16年間も経験したことのない4%もの高成長を唱えることだけをとらえてもトランプ大統領の見識が疑われる。
実体経済の確かな成長が見通せないなかで、FRBは利上げの速度を上げようとしている。米国経済の実体は弱いが物価が上昇するという悩ましい状況に陥りつつあるのかもしれない。2010年以降は名目、実質ともにプラス成長を続けており、ゼロ金利はプラス成長に転換した時点で引き上げるべきであった。それを2015年12月にやっと実施し、その1年後の昨年12月に2度目の利上げに踏み切った。が、2010年以降で最も低い成長だった2016年を経過した早い段階で3回目の利上げを実行しようとしている。ゼロ金利に長期間慣らされた経済がはたして利上げに耐えうるかどうか、大いに疑問だ。
2009年と2016年の実質GDPを比較すると7年間に15.5%成長している。個人消費支出は17.0%増とGDPをやや上回っている。個人消費支出を財とサービスに分けると財は26.5%、サービスは12.5%であり、財の伸びはサービスの2倍以上である。財を耐久財と非耐久財に分けるとそれぞれ54.8%、14.9%となり、耐久財が個人消費支出を牽引していることが明らかになる。耐久財のなかでは自動車が約倍近く伸びている。ゼロ金利でオートローンが歴史的低水準となっていたことから、必需品といえる自動車の販売がきわめて好調であった。ゼロ金利政策により、オートローンや住宅ローンは過去にない低金利となり、自動車、住宅の売れ行きは好調に推移し、米国経済を支えた。
GDP統計によると、住宅は金融崩壊により2008年には2005年のピークから43%も減少していた。その2年後の2010年にピーク比56.2%まで落ち込んだが、その後は6年連続で回復し、2016年には底から55%増加している。このように、住宅と自動車は過去にない低金利という追い風によりかなり需要は上乗せされていた。そうした特需ともいえる需要が、利上げにより消えることになるだろう。
『financial Accounts of the United States』 によれば、昨年9月末の米国の債務残高は47.0兆ドル、前年比5.8%増加した。名目GDPを上回る伸び率である。2008年の金融崩壊後、債務残高の伸びは低下し、2009年末には2.5%まで低下した。だが、その後徐々に回復し、名目GDPの伸びよりも高くなっている。
債務・名目GDP比率は2009年末に過去最高の2.5倍を付けたが、金融崩壊期間でもほとんど横ばいで推移していた。ゼロ金利政策によって債務処理は進捗せず、不良債務は公的機関やFRBに移し替えられた。2016年3月末の債務・名目GDP比率は2.51倍と過去最高を更新、同9月末は2.52倍へとさらに上昇している。
これからの金利上昇によって、資金の借入コストは増加することは間違いない。超低金利で安易な借り入れを行っていた家計や企業は負担が重くなる。なかには持ちこたえることができなくなる家計や企業もでてくるだろう。借金過多になっている米国経済は金利上昇により借金縮小へと舵を切らねばならなくなる。当然、その過程では痛みを伴うことになろう。

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