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米国経済の回復持続には賃金の伸びが不可欠

3月28日のFOMC声明によれば、FRBはFFレートのゼロ水準を維持し、月1,400億ドルの債券購入を続けるという。最大の理由は雇用の最大化が達成されていないからだ。非農業部門雇用は拡大しているとはいえ、新型コロナ以前の水準を大幅に下回っている。雇用をより完全雇用の水準に回復させるまでゼロ金利政策は続行されるだろう。だが、ゼロ金利の弊害が株式だけでなく、住宅にも顕著に現れており、バブルの様相を呈してきている。ゼロ金利の継続は、株式と住宅というふたつのバブルを抱える高リスク経済を生み出しているのである。

3月の米中古住宅販売は年率601万戸、前年比12.3%増加する一方、在庫は107万戸、前年比28.2%減少し、供給不足の状況にあり、販売価格(中央値)は前年比17.2%の32万9,100ドルに上昇している。3月の新築住宅販売も前年比66.8%の年率102.1万戸と2006年8月以来14年7カ月ぶりという異例の伸びである。こうした住宅販売の急増によって、材木の先物相場(CME)は昨年4月を底に急騰しており、昨年の4月4日と今年4月30日では5.2倍にもなった。また、2月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前年比11.9%と2006年2月以来の伸びとなり、さまざまな住宅関連指標は住宅バブルの進行を示している。

1-3月期の米GDPは実質前期比1.6%と3期連続増であり、前年比でも0.4%と4期ぶりにプラスとなった。実質GDPの水準(19兆876億ドル)は過去最高の2019年第4四半期以来となり、4-6月期にはこれを超えるだろう。GDP拡大の原動力は個人消費支出だ。GDPは前期比2,931億ドル増加したが、個人消費支出は3,348億ドルも増加した。特に、自動車などの耐久財が1,830億ドルと個人消費支出増加額の54.7%を占めており、前年比では12.5%の高い伸びとなった。超過需要下にある住宅も前年比12.3%と2四半期連続の2桁増である。設備投資も3期連続の前期比プラスだが、寄与度は個人消費支出の2割弱にすぎない。

1-3月期のPCE(物価指数)は前年比1.7%、食品・エネルギーを除くコアは1.5%であり、いずれもFOMCの2021年の予測に収まっている。3月は前年比2.3%、コア1.8%へと上昇しているが、予測レンジ内である。米国経済は回復しているとはいえ、不完全雇用下にあるなど、物価が全面的に上昇する環境ではなく、PCEコアは2%以下で推移し続けるだろう。

個人消費支出が伸びたのは、新型コロナ追加経済対策法案が3月11日に成立し、現金給付が約1億6千万世帯の銀行口座に振り込まれ、失業給付の特例加算が延長されたからである。1-3月期の個人所得(名目)は年率21.9兆ドル、前期比12.3%も拡大した。賃金・報酬は1.6%の低い伸びだが、現金給付により移転所得は59.5%も急増した。個人所得の前期比増加額は2.39兆ドルだが、その内2.25兆ドルは移転所得分であった。

賃金・報酬は前期比1.6%、前年比でも1.8%と個人消費支出を刺激するような伸びではなかった。2020年の賃金・報酬の伸び(前年比0.2%)に比べれば回復してきているが、2019年(4.7%)をまだ大幅に下回っており、個人消費支出の本格回復にはほど遠い低い伸びである。

現金給付により可処分所得は前期比13.7%増の19.62兆ドルと昨年の第3四半期を上回り過去最高を更新した。だが、個人支出は前期比3.3%の0.49兆ドルの増加にとどまり、大半は貯蓄に回った。可処分所得は19.62兆ドルだが、個人支出へは15.5兆ドル、残り4.11兆ドルは貯蓄され、昨年第2四半期に次ぐ貯蓄額となった。貯蓄・可処分所得比である貯蓄率は21.0%と前期よりも8ポイントも高くなり、依然、先行きへの不安が強いことが窺える。

2020年の貯蓄は2.84兆ドル、前年よりも1.61兆ドル増加し、貯蓄率は16.3%と前年の7.5%から跳ね上がった。貯蓄の急増によって、可処分所得は7.0%も増加したが、個人支出は3.1%減少し、2020年の経済はマイナス成長に陥った。

現金給付で個人所得は増えるけれども、一時的であり、賃金・俸給が増加しなければ、消費を増やす行動には結びつかない。新型コロナの感染者は米国人口の約1割、死者は57万人におよんでいるが、収束に向かうのか、再拡大に転じるのか分からない。ワクチン接種は進んでいるが、これが吉と出るか凶と出るかも不明である(1976年のインフルエンザワクチン接種を想起されたい)。そうした状況では、給付金を家計にとどけても、先行き不安から、1-3月期のように、これからもおそらく消費よりも貯蓄により多く回すのではないか。昨年のような貯蓄現象は起こらないけれども、10%以下の貯蓄率にはまだ戻らないはずだ。引き続き高貯蓄率を前提にすれば、2021年の個人消費に高い伸びを期待することはできない。

3月のFRBの経済予測によれば、2021年の実質GDPは5.8%~6.6%(第4四半期の前年比)が見込まれている。今年のゲタは2.0%であり、昨年第4四半期と同じ水準で今年の4四半期が推移しても2.0%成長できる。とは言え、FRBの5.8%の予測値を達成することはなかなか難しい。5.8%の実現には第2四半期以降、前期比1.1%の成長が求められるからだ。

昨年第2四半期の実質GDPは前期比-9.0%と1947年の調査開始以来の落ち込みに見舞われ、2四半期で1.95兆ドル失った。その後、3四半期連続で持ち直し、1.78兆ドルを取り戻した。これからは今までのような強い回復力は期待できない。

2015年から2019年の計20四半期の前期比実質成長率は、2017年第4四半期を除きすべて1.0%未満であった。GDPに占める個人消費支出の割合は約7割と高いことから、米経済成長率は、ほぼ個人消費支出で決まる。その個人消費支出を振り返ってみても、当然のことだが、当該期間はすべて前期比1.0%未満である。急激な戻しの期間が終わり、通常の状態に戻りつつあると考えるならば、個人消費支出の伸びも1.0%以下で推移するのではないだろうか。そうであれば、4-6月期以降、前期比1.1%の成長を求めることには無理があり、FRBの想定する5.8%~6.6%成長の実現は難しい。

実体経済を梃入れするためにゼロ金利の長期化を吹聴しているが、ゼロ金利を続けても実体経済を活気づけることはできない。株式や住宅といった金利に敏感な部門を異常に膨らませるだけである。現金給付でさえ、多くは貯蓄されてしまい、消費にはその僅かな部分しか支出されないのだ。なによりも必要なことは、先行き賃金等が増えるという明るい見通しを持てるかどうかなのである。そうでなければ、給付金は単なる誘い水に終わるだろう。米国経済の行方は決して楽観できるものではない。

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