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米株の投機化と給付金の結末

米株式の賭博化が加速している。これもIT技術の為せる技といえるだろう。投資アプリの株式取引手数料は「ただ」なので投資アプリ取引業者の顧客は瞬く間に全米に拡大したようだ。FRBのゼロ金利政策により、預金の利息はほとんどなく、株式市場に個人が雪崩れ込んでいる。もともと、値上がり益だけを求めて株式を購入することだけを目的としている参加者にとって、SNSを駆使しながら、相場を形成することのできる面白さが、これまでにない株式の魅力になっているのかもしれない。

投資アプリ株式取引業者は取引無料の傍ら、ヘッジファンドや高速取引業者などには売買取引情報を流すことによって、利益を上げているようだ。こうした相場操縦、インサイダーと見られる事態をSECは放任しているのである。米株式制度は投機を抑えるのではなく、助長していたのである。問題の「Game Stop」の1月14日現在の空売り株・上場株式比率は9割弱と異常な状態にあったところへ、1カ月で株価は約17倍に暴騰、売り手のヘッジファンドの思惑は外れ、巨額の損失が発生した。

米株式の博打化はゼロ金利と株式制度の欠陥・不備が招いた人災と言える。一部の銘柄だけではなく、米株式全体が異常な事態に陥っているのだ。新型コロナの感染者は依然衰えず、米個人消費は前年割れが続いている。個人消費が復活しなければ、米国経済は浮上しない。こうした経済状況では企業利益も低迷を余儀なくされよう。ゼロ金利で利息が得られないからといって、株式に資金が向かうことはあまりにも危険である。すでに異常な高水準に値上がりしているところへ参入すれば、いつ梯子を外されるかわからない。52週間の株価変動幅が188倍になるような博打場に足を踏み入れてはならないのだ。

ナスダック総合の過去5年間の上昇率は2.83倍、同10年では4.84倍と名目GDPの1.15倍、1.4倍と比較にならない急騰を示している。経済の拡大に伴い、資産の格差、偏在が顕著になり、特に金融資産は一部の富裕者に集中・集積してきた。おまけに、FRBの異常なゼロ金利が金融資産の運用を株式により多く振り向けた。

米国内非金融部門の総金融資産は昨年9月末、136兆ドル、過去10年間で1.82倍に拡大しているが、そのうち株式は2.56倍と総金融資産を上回る伸びとなっている。1970年の非金融部門の総金融資産・名目GDP比率は3.31倍であったが、2020年には6.5倍となっており、実体経済よりも金融経済の経済への影響力ははるかに大きなっているのだ。

2008年末、FFレートはゼロに引き下げられたが、その間一時的に2.25%まで上昇したものの、現在に至るまでゼロ金利下にある。あまりにも名目GDPの伸び率とFFレートの乖離は大きく、金融経済を肥大化させる原因になっている。FFレートは最低でも1.0%を維持しなければならない。政策金利ゼロは金融政策を放棄したことと同じなのだ。

昨年10-12月期の米GDPは実質前期比1.0%と前期の7.5%から大幅に鈍化した。前年比では2.5%減とこれで3四半期連続の前年割れだ。伸び悩んでいるのは、個人消費が前期比0.6%しか増加しなかったからである。7-9月期は9.0%も増加し、経済を牽引したが、10-12月期のモノの消費は前期比マイナス、サービスは大幅に低下した。堅調な住宅と在庫増、さらに民間設備投資の伸びによって、1.0%増をなんとか確保できた。

給付金などの移転所得が昨年4-6月期をピークに減少したため、可処分所得も7-9月期以降2四半期連続で減少し、可処分所得の減少が個人消費の勢いを削いでいる。しかも、昨年12月の非農業部門雇用者数が前月比減となり、雇用不安が払拭されるような情勢でないことが加わり、消費マインドの改善を遅らせているのだ。

可処分所得の減少につれて、貯蓄と貯蓄率はともに減少、低下しているけれども新型コロナ以前に比べれば高い。10-12月期の貯蓄と貯蓄率は2.32兆ドル(年率)、13.4%だった。2020年では貯蓄2.88兆ドル、貯蓄率16.4%と前年の1.23兆ドル、7.5%から様変わりしている。2020年の貯蓄率は1947年に統計を取り始めてから最高となった。

2020年の移転所得は4.26兆ドル、前年比1.14兆ドル増加し、可処分所得も前年比1.19兆ドル増加した。だが、貯蓄は1.65兆ドル増の2.88兆ドルに拡大し、移転所得分以上に貯蓄したことが分かる。先行きへの不安や接客関連サービスの自粛などから個人消費は前年を下回ったのである。金融崩壊の2009年にも個人消費(-1.3%)は前年割れとなったが、今回はマイナス2.7%と前回よりも深刻である。米国民も先行きを慎重に捉えている様子が窺える。

昨年3月末に米政府は2.2兆ドルの新型コロナ経済対策を打ち出し、実行してきたが、個人消費への効果は限定的だった。将来への見通しが立たなければ、給付金は消費ではなく貯蓄に回され、景気回復には寄与しないことが明らかになった。無暗に金をばら撒いても、単にばら撒いたというだけで、空振りとなる。金を富裕層のところへ届けても、何の有効な効果ももたらさない。金のない必要なところへ届けなければ、金は本来の役割を果たすことはできないのだ。

日本でも給付金は消費拡大に結びついていない。日本の貯蓄率はもともと高いのだが、新型コロナ後、貯蓄に拍車が掛かり、貯蓄率は著しく上昇している。勤労者世帯(二人以上の世帯)の貯蓄率は昨年第1四半期24.6%(前年同期19.4%)、第2四半期46.7%(33.8%)、第3四半期34.9%(25.1%)となり、前年同期を大幅に上回っている。

給付金などの特別収入は第2、3四半期に給付されており、2四半期の特別収入の前年比増加額は81,725円である。だが、貯蓄の同増加額は142,387円と特別収入の増加額を大幅に上回り、特別収入以外の勤め先収入などの経常収入からも貯蓄していることがわかる。

一律10万円の給付金は消費に向かうことはなかったと言える。考えもなくばら撒いた金は結局、金融機関に預けられ、さらにその多くは日銀の当座預金となり、国債や上場投信購入の資金となったのだ。貯蓄好きの日本の家計が日銀を支え、ひいては国の財政を負担しているのである。

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